第26回 デザインから注目した各キャリアの2008秋冬モデル小牟田啓博のD-room

» 2008年11月25日 21時04分 公開
[小牟田啓博,ITmedia]

 各キャリアから、続々と秋冬モデルが発表、発売されましたね。

 当然のことながらいずれの端末も、キャリアと端末メーカー各社が期待を込めて送り込んだ自信作です。

 今回は、各キャリアの秋冬モデルをデザインの視点から見ていきましょう。

auで顧客満足度の高いカシオ端末がソフトバンクから登場

 今回の発表会の大きなトピックの1つに挙げられるのが、ソフトバンクモバイルにカシオ計算機が端末を供給したことです。僕がカシオ出身ということもあるので、まずはこの端末にフォーカスしようと思います。

 ソフトバンクモバイルから登場するカシオの「830CA」は、ディテールの細部にまでこだわる、カシオ計算機らしい緻密で完成度の高いデザインに仕上がっています。

カシオ製の端末はauで人気だが、ついにソフトバンクから同社の「830CA」が登場

 見栄えがいいというだけでなく、開閉のしやすさやハンドリングのよさ、キーの入力のしやすさなど、プロダクトとしての基礎の部分をしっかりと押さえつつ、手にしたときに“長くつきあいたい”と思わせる美しさと、普遍性を兼ね備えたデザインに仕上がっています。

 また、カシオ端末のお家芸ともいえる、高品質なGUI(グラフィックユーザーインタフェース)も、今回のモデルに引き継がれています。830CAにはau端末で人気の“ペンギン”のキャラクターが採用され、独特の世界観を味わえるのです。このペンギンは、カシオの女性デザイナーのこだわりから生まれたキャラクターで、830CAでは「Baby Penguin」という3羽のペンギンがプリインストールされています。センスのよさと愛嬌が魅力のこのキャラクターは、一度使うとやみつきになるようですね。

「EXILIMケータイ W63CA」のボディーカラーは左からシャインピンク、アイスホワイト、チタニウムゴールド、メタルグリーンの4色

 さらにauから発表された「EXILIMケータイ W63CA」も気になる1台です。特に「シャインピンク」と名付けられたビビッドなピンクには、遠くからでもその魅力を強烈に感じさせる“強さ”があり、カラーバリエーションの中でも圧倒的に目立ちます。

 一番ベーシックな「アイスホワイト」も、実はしっかりと作り込まれた質感が魅力的な端末に仕上がっており、こうした手抜かりのないもの作りが顧客満足度をトップに押し上げる要因になるのだと思います。

 ブランドネームの「EXILIM」ロゴは、カメラの操作感や画質へのこだわりを訴求するのに加え、ひと目で分かる記号性が、上質なハイテク感の演出に一役買っていますよね。

1298万円端末をプレゼント! インパクト大だった各キャリアの発表会

 冬モデルの発表会は、どのキャリアもそれぞれの特徴を打ち出し、自信を持って臨んだことがうかがえるものでした。

 NTTドコモは型番を見直し、ライフスタイルに合わせた4シリーズを発表。auは映像美をテーマにした新機種を発表し、ソフトバンクモバイルは4機種のタッチパネル端末を含む16機種と、春モデルで開発表明した「823SH Tiffanyモデル」を披露しました。

 ソフトバンクモバイルの発表会は、孫社長が同社のテレビCMでおなじみの上戸彩さんと樋口可南子さんに、合計537個、約18.34カラットのダイヤモンドを敷き詰めた1298万円の端末をプレゼントするというリッチなプレゼンテーションが行われたのもインパト大です。

 ドコモは、ロゴデザインを一新したあとの初の大きな発表会で、ラインアップまで大きく変えてきたことに驚きます。

 新シリーズはそれぞれ、PRIME、STYLE、SMART、PROと4種類に分類され、分かりやすく整理された印象がありますね。ただ、デザインはそのままに4つに分けただけかな? という印象を受けるのも事実で、シリーズのイメージやデザインのオリジナリティ、端末の完成度がしっかり整ってくると面白いだろうと感じました。

スマートフォンの台頭が目立った冬モデル

ドコモとソフトバンクから登場する「E71」はステンレスボディーが際立つ

 個々のモデルのデザインを見ても、冬モデルはユニークなものが多かったと思います。

 まずは、最近何かと話題に上ることの多いスマートフォン。海外モデルとして注目してきたNokia製の「E71」が、ドコモとソフトバンクから登場するようですね。

 前回のスマートフォンに関する記事でもお話しましたが、ステンレスボディというリッチな金属質を味わえる端末として、ちょっと注目しておきたい1台です。

 同じくドコモからは、「BlackBerry Bold」も登場します。、「QWERTYキーボード」を採用しつつ横長画面という幅広のこのモデルは、横幅が広いモデルが受け入れられにくい日本のユーザーの心をどれだけつかめるでしょうか。大いに注目していきたいところです。

 BlackBerryは、当初は少々やぼったいデザインのグローバル端末でしたが、BlackBerry Boldのデザインは黒と周囲の蒸着質のコントラストで洗練された印象になっていて、裏面のレザータッチ素材の質感も、ビジネスシーンにしっくりなじむのではないかと思われます。クールでモダンなデザインなので、ビジネスマンには魅力的なアイテムでしょうね。

今回の新モデルではスマートフォンの台頭にも注目! 左から「BlackBerry Bold」、Touch Diamond「HT-02A」、Touch Pro「HT-01A」

 同じくドコモのスマートフォンとして登場する、HTC製の「Touch Diamond」や「Touch Pro」は、黒一色で統一された引き締まったデザインのモデルです。タッチパネルで操作をする中で、GUIも黒を基調にした仕様は統制の取れたデザインといえるでしょう。

 背面デザインは、三角形を微妙な凹凸で組み合わせたサーフェイスが、ほかにはないオリジナリティを感じさせ、非常に目を引きます。

 端末デザインという観点からすると、この秋冬モデルではスマートフォンの台頭が目立ち、それ以外の一般端末には目ぼしい特徴を感じにくい印象を受けました。

iPhoneを意識した端末とコンシェルジュサービスが気になる

 冬モデルでは、「iPhone」の影響を色濃く感じさせるモデルが登場し始めたのも1つのトピックといえます。ソフトバンクモバイルからはSamsung電子製の「930SC OMNIA」、そして「AQUOSケータイ FULLTOUCH」と呼ばれるシャープ製の「931SH」が登場しました。

 本体いっぱいに広がる画面を搭載したこれらの端末は、遠くから見ると「iPhone 3G」によく似た印象を受るでしょう。

iPhoneのような本体いっぱいに広がる画面レイアウトとタッチパネル操作ができる、左から「930SC OMNIA」「AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH」

 930SCは手書き入力対応、931SHはスライドキーによる入力と、インタフェースはiPhone 3Gと異なるものの、デザイン的にはほぼ同じイメージですね。

 ここまで似ていて良いのか? という疑問もわいてきますが、使ってみるとそれぞれに持ち味がありそうなので、実機が登場してきたらいじり倒してみたいと思っています。

 一方、サービス面では利用者の好みや行動履歴に合った情報を携帯向けに自動で配信する「コンシェルジュサービス」として、auが「エージェントケータイ」、ドコモが「iコンシェル」という名称でサービスを開始すると発表しました。

 こうしたサービスがスタートする際には、例えばプロダクトの方で、いわゆる“全部入り”的な中庸なデザインにまとめてしまうのではなく、サービスとスマートに付き合えることを考えたデザインが必要になると思います。

 当然それにはハードウェアのデザインだけでなく、インタフェースデザインについても、魅力的で飽きのこないものが必要になるでしょう。

 こうしたパーソナルなサービスが増えてくると、ますます人とケータイの距離が近くなるわけで、身近な存在であるケータイと、より魅力的に付き合えるものが求められるのは間違いないでしょう。

どの端末も似たり寄ったりの状況にならないために……一言

 ここ1年半くらいの間に、ケータイデザインは、薄さやコンパクトさを重視する方向に大きくシフトしてきました。スリムでシンプルなデザインが増えたことはその恩恵といえますが、半面、デザインが均質化し、どの端末も似たり寄ったりの状況になるという弊害も生んでいるように思います。

 それはちょうどPCのデザインがコンシューマーに寄りきったあとの今、僕にとってデザインという意味ではApple製のモデルにしか魅力を感じない構図に似ている気がして、人から離れていくような距離感を感じずにはいられません。

 ケータイは常に肌身離さず持ち歩く、最も人の生活に身近なプロダクトです。ユーザーの満足度を考えるときにデザインという要素は重要だと思いますし、市場が飽和した今こそ、デザインの重要性が増すはずだと思うのですが、いかがでしょう。

 もちろんその切り口は、サービスやさまざまな事業とのコラボレーション連携など、“モノ”から“コト”へと対象となる主軸をシフトする必要はあります。

 こうした中、さらなる技術の進歩を抱き込んだ魅力的なモノ作りが不可欠で、そのキーファクターとなるのがコンセプトメイクであり、それを表現し、メッセージを伝える手段となるのがデザインなのです。

 ケータイを中心としたモバイル環境に対するアラートは、各方面から寄せられおり、デザインという観点から僕もアラートを発したくなる。そんな実感を覚えます。

 厳しい市場環境に対して対策を考える必要がある今だからこそ、フレキシブルでオリジナリティーがあり、なおかつ完成度が高く満足度も高いモノ作りが求められるのではないでしょうか。

 現場の方々には、大いなるエールを込めたメッセージとして、各キャリアの新モデルを見終わった最後に贈りたいと思います。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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