コンセプトは世の中の“今”を知る 「Yahoo!ニュース」アプリの狙いとは?

» 2013年07月12日 08時00分 公開
[今西絢美(ゴーズ),ITmedia]

 7月1日にリニューアルされたばかりの「Yahoo!ニュース」は、これまでのニュースアプリの常識を覆す“シンプルさ”と“コンテンツの幅広さ”が目玉のiPhone向けアプリである。

 もともとの「Yahoo!ヘッドライン」も、ヤフーが提供するニュースをスマートフォンで手軽に利用できるとして人気が高かった。なぜ今、多くのユーザーがいるアプリを大胆にリニューアルしたのか。Yahoo!ニュースが目指していることや、リニューアルの狙いについて、ヤフーでYahoo!ニュースアプリの企画を担当した多田和弘氏、開発担当の山下元氏、デザインを担当した齋藤梨乃氏らに話を聞いた。

photo 左から、齋藤氏、山下氏、多田氏

“今”を知るための「Buzz」を追加

 「Yahoo!ニュースは、国内外140社210媒体に配信していただいているニュースを新着順に出すだけではなく、約25名の編集スタッフが24時間365日交代して最新ニュースを配信しています」と多田氏は話す。

photophoto 「Yahoo!ニュース」アプリ(写真=左)。新ジャンルの「Buzz」(写真=右)
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photo 「Buzzは“今”を知るうえでの重要なコンテンツ」と話す多田氏

 アプリの開発で特に意識したのは、これまでPCでYahoo!ニュースを利用していたユーザーや、新規にYahoo!ニュースを使いはじめるユーザーだという。そのため、従来のアプリからより多くのニュースコンテンツを提供するよう、機能を強化した。

 なかでも注目したいのは「Buzz」というジャンルだ。世の中の大きな動きとしてソーシャルメディア発のニュースが生まれるなど、モバイル端末を使うユーザーの環境は大きく変化している。そんな現状を踏まえ、「インターネット上で話題になっているコンテンツを独自のエンジンを使って抽出する新たなコンテンツを実装した」と多田氏は説明する。

 さらにBuzzには、次のような狙いもある。「通常のニュースとは違う質の情報が加わることで、見せ方を変え、ユーザーの興味を引くコンテンツを取り込んでいこうとしています。“世の中の今を伝える”というのがYahoo!ニュースの使命ですが、Buzzは“今”を知るうえでの重要なコンテンツに成長すると思っています」(多田氏)。Buzzは今後、PC向けにも提供される予定だが、現在はiPhone版のアプリでしか利用できない。新サービスをいち早く実装するなど、Yahoo!ニュースアプリの開発にはかなり力が入っている。

 また、コンテンツ拡充の一環として、PC版で提供されている「速報」「雑誌」「個人」の各ジャンルもYahoo!ニュースアプリで利用できるようになった。「『速報』ではニュースの更新感を、『雑誌』ではストレートニュースとはひと味違う、雑誌ならではの情報を提供しています。また『個人』のジャンルでは、有識者や専門家など知見をお持ちの方の記事を読んでいただくことで、読者の方にも知識を吸収していただければと思って実装しました」(多田氏)。このように、さまざまな視点から集められた情報に気軽に触れられるのがYahoo!ニュースアプリの最大の強みだろう。

試行錯誤を繰り返してユーザーに合わせた操作性を実現

 ここまでの大幅なリニューアルを図るうえで、開発段階では何度もユーザーへのヒアリングが行われた。「アプリだけでなく、Yahoo!ニュース全体に関するヒアリングを社内外で実施しました」(多田氏)。今回はそれらの声を踏まえて、提供するコンテンツの変更も図られた。

 また従来のアプリでは、記事全文を読むのに通信が発生することに対し、不満の声が多かったという。そこで今回のリニューアルでは、記事の一覧画面からニュース全文がすぐに読めるよう、仕様と画面のユーザーインタフェースも大きく変更している。

photophoto 従来よりも少ない操作で記事の全文が読めるほか、理解を深めるための関連記事もすぐに呼び出せる

 また記事に関連するニュースや話題がすぐに読めるのも、ほかのニュースアプリにはない魅力だ。「限られたニュースだけでなく、深く広く情報を知ってもらえることがYahoo!ニュースの価値」(多田氏)であり、この機能の操作性についてはかなりこだわったそうだ。この関連記事の選択も、PCを含むYahoo!ニュースの編集部が行っている。

photo デザイナーの齋藤氏は「記事の読みやすさを最優先にシンプルなデザインを心掛けた」と振り返る

 デザイナーの齋藤氏は、「関連記事を読むためのボタンを置くと、記事を読むときにボタンが邪魔になるので、必要な場合にだけ呼び出せるよう調整しました」と説明する。そのほかの操作性についても、シンプルに使えるようなこだわりが随所に見られる。スマホの限られた画面サイズをできるだけ広く使えるよう、操作ボタンのデザインやサイズは、必要な人には存在が分かり、必要でない人には邪魔にならない配慮された。

 また、文字が多くなりがちなニュースというコンテンツに対する理解を深めてもらうための工夫として、デザイン面でも細やかな配慮が施されている。文字のサイズや行間だけでなく、その“色”についても微調整を繰り返したと齋藤氏は話す。

 「文字の色は真っ黒ではなく濃いグレーにしています。白地の背景に表示された際、目に厳しくないようにするためです。リンクについても通常のWebページは明るいブルーを使うと思うのですが、ここではあえて落ち着いた青にしました」(齋藤氏)

 さらに、“NEW”マークや“号外”など、重要なポイントのところにだけ色を使うなど、記事を読む際にノイズになりそうな要素をできるだけ排除し、大事な情報がすぐにユーザーに届くよう心がけられている。情報のコントロールをデザイン面でも行なっているのは、ほかのニュースアプリとは異なる試みといえるだろう。

 見た目のデザインと操作したあとの反応や使い心地。つまりユーザーインタフェース(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)の向上が図られているが、その変更についてもユーザーのヒアリングを重ねており、例えばフリックのスピードが早い人や遅い人など、それぞれの指の動きもチェックしたそうだ。

 「関連記事を引き上げる部分について、最初はタップとドラッグしか対応していませんでした。しかし、ユーザーテストをしていくと“弾く”人も多かったんです。そこで、弾く操作にも対応するよう、随時微調整をかけました」(齋藤氏)。

 こういった感度やページめくりなどの詳細設定については、「今後ユーザーの声を聞き、要望が多ければ機能として搭載しようと思っている」(多田氏)そうだ。

記事に対する理解を深めるためのキャッシュ機能とデザイン性

photo 「もっとサクサクと使えるよう、アプリの仕様を見直しました」と話す山下氏

 Yahoo!ニュースアプリは起動時にニュースのデータを受信、キャッシュに保存して圏外でも記事が読めるようになった。通信環境が充実しつつある今、すべての記事をキャッシュする必要はあるのだろうか。これについては「圏外でも利用したいというユーザーの声が多かった」のが一番の理由だそうだが、山下氏はこうも話す。

 「これまではページをめくるタイミングで通信が発生し、記事をサクサク読むことができませんでした。なので、ニュースを読み進めるたびに通信が発生しないようにしました」(山下氏)。

 大量のニュースをキャッシュすることで、好きなタイミングで読める、また圏外でも記事をスムーズに読める。使いやすく分かりやすいアプリにすることで、ニュースへの理解を深めてもらおうというのが、今回の仕様変更のポイントと言えそうだ。

photo Yahoo!ニュースアプリの「プッシュ通知」利用シーン

 また今回のリニューアルでは、Android版のYahoo!ヘッドラインでは実装済みの「プッシュ通知」にも対応した。ただ、プッシュ通知は機能として賛否両論があったと多田氏は話す。「重要なニュースを届けるという意味では必要な機能だと思っています。ただ、プッシュ通知が不要なユーザーもいらっしゃるので、そういう方はオフにしていただければと。さらに、通知する内容のレベル分けを行い、必要な情報だけが届く設定ができるようにしました」。

 実際、号外ニュースの通知については「災害や有事のみ通知する」といった、大規模な災害や非常事態など緊急性の高いニュースのみを届けるよう設定できる。ユーザー自身が受け取る情報を取捨選択できるというのは、新たな試みだといえるだろう。

 Yahoo!ニュースを使っていて「あるといいな」と感じたのが、記事を保存する、またはお気に入りとしてブックマークする機能だろう。気になる未読記事を“後で読む”ように保存・記録するのが習慣化しているユーザーにとっては重要な問題だ。

 ただし、これに関しては「今後の導入を検討している」(多田氏)との答えが返ってきた。また、Yahoo! JAPAN IDとのひも付けなども検討中とのこと。「まずはYahoo!ヘッドラインからYahoo!ニュースに移行していただき、そのあとでユーザーの声を参考にしながら、ブラッシュアップしていこうと思っています」(多田氏)。


 ニュースジャンキーでない人にも大事な情報がきちんと届くようにしたい。そんな開発陣の想いが込められた「Yahoo!ニュース」は、今後もユーザーの意見をもとに成長し続ける。いずれは私たちのライフスタイルにおいて手放せないアプリになるかもしれない。

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