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» 2013年12月16日 12時00分 UPDATE

佐野正弘のスマホビジネス文化論:ドコモのiPhone発売で中小ベンダーに勝機? 日本のアプリマーケットが迎える“第3幕”とは (1/2)

NTTドコモがiPhoneを取り扱い始めたことで、中小規模のアプリベンダーにチャンスをもたらす可能性が高い――クエリーアイ水野氏が唱える、アプリマーケットに起きつつある“第3幕”とは、一体どのようなものなのだろうか。

[佐野正弘,ITmedia]

アプリマーケットに訪れた3度目の大きな変化

photo クエリーアイ代表取締役の水野氏

 クエリーアイは、スマートフォンアプリなどデジタルコンテンツに関する分析システム「QuerySeeker Analyze」「QuerySeeker.com」を提供している企業だ。代表取締役である水野政司氏は、スマホ向けアプリマーケットが創設された当初から市場動向をウォッチしている存在。その水野氏が「いまアプリマーケットに“第3幕”が訪れている」と話す。

 水野氏によると、アプリマーケットにはこれまで、第1幕、第2幕という大きな波があったという。第1幕は、日本で「iPhone 3G」が発売され、アプリマーケット「App Store」が誕生した時だ。この時、携帯電話向けのコンテンツなどを手掛けていた一部のベンダーが、App Storeに可能性を感じてiPhone向けのアプリ開発に参入し、アプリのマーケットが立ち上がっていったという。しかし当時は、国内のスマホ普及台数はせいぜい10万台といったところであり、到底儲けが得られる状況ではなかったと振り返る。

 その後、iPhoneの人気が高まるに連れて、NTTドコモが「Xperia SO-01B」を発売するなど、対抗馬としてAndroidスマートフォンの普及が本格化した。これにより、スマートフォン利用者自体の母数が急速に拡大してきたのが第2幕になるという。フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが鮮明になったことで、“ケータイ向け”コンテンツを提供してきた企業がアプリを提供するようになったのに加え、フィーチャーフォンで人気を博したソーシャルゲームベンダーが、大規模な広告展開で集客し、収益を高めていった。

 だがこの第2幕も、2012年の前半に終結してしまったと水野氏は分析する。その要因の1つは、ソーシャルゲームの人気が急速に落ちたことで、大規模に広告を出稿する企業が減少したこと。そのため、アプリのランキングにおける広告の影響が相対的に小さくなり、アプリの“質”で勝負できる状況が再び生まれてきたのだという。

photo ドコモがiPhoneを扱い始めたことでiPhoneのシェアが過半数を超え、開発リソースをiOSに集中できることが中小ベンダーには有利に働く可能性がある

 そしてもう1つの要因は、NTTドコモが「iPhone 5s」「iPhone 5c」を販売したことだ。従来iPhoneを販売してこなかったドコモがiPhoneシリーズを扱うようになったことで、現在量販店の売上ランキングは上位をiPhoneが独占する状況が生まれた。このことはライバルとなるAndroid端末の販売シェアが落ち、iPhoneが過半数を超えるシェアを持つ可能性が高まっていることを意味する。そうなれば、従来iOSとAndroid、双方のアプリを提供する必要があったのが、日本のことだけを考えればiOSのアプリだけを開発すればいいことになる。

 開発リソースをiOSに集中できるようになり、さらにアプリの質で勝負できるようになった。こうした状況は、中小規模のアプリベンダーに再びチャンスをもたらす“第3幕”が訪れたことを意味する――というのが、水野氏の持論だ。

ファンを獲得し、継続的な売上を得るアプリが増加

 確かにネット上のソーシャルゲーム広告は減少したかもしれないが、ゲームアプリが連日テレビCMを実施する傾向は一層加速しており、売上ランキングを大手のゲームベンダーが占める状況に変わりはない。そうした状況下で、果たして本当に中小規模のアプリベンダーにチャンスがあるのだろうか。

 水野氏によると、中小ベンダーの動向を見る上で注目すべきは、アプリランキングの中間地帯だという。この辺りの位置にランクするアプリの中で、長い間継続してランクインし続け、かつ継続的に収益を上げているアプリがいくつか出てきているのだそうだ。

 そうしたアプリの代表例の1つとして、水野氏はNECビッグローブの「嫁コレ」を上げている。これは、アニメキャラクターのボイス付きカードをコレクションして楽しめるアプリで、有料課金によって追加のボイスを入手できる仕組み。嫁コレのアプリは執筆時点(12月11日)でApp Storeのトップセールスランキングで160位に位置しており、決して派手な売上を上げているようには見えない。だが2011年に提供を開始して以降、継続的にトップセールスランキングにランクインしており、安定した収益を上げていると見られる。

photo App Storeのトップセールスランキングにおける、執筆時点での「嫁コレ」の順位は160位。派手な存在ではないが、長く継続してランクインしているのが強み

 さらに水野氏はもう1つの事例として、グッディアという企業を上げている。同社は「レジの達人」「イライラスナイパー」などのカジュアルゲームを提供しているベンダー。いずれもアプリ自体は無料で、アプリ内広告で収益を上げるビジネスモデルを採用している。同社はすでに多数のカジュアルゲームを提供しつつも熱心なファンを獲得していることから、新作アプリがリリースする度に、無料アプリランキングのベスト10以内に入る人気だという。

 個々のアプリが継続してランクインし続けている訳ではないが、新作を継続的に提供しつつ、それらが常に上位にランクインしているという意味では、継続性が高いといえる。グッディアは地方の新興アプリベンダーだが、継続した人気と収益の獲得により、アジアなど外国での展開も視野に入れる程の成長を遂げているとのことだ。

photo グッディアの代表作の1つ「レジの達人」。多くのカジュアルゲームでファンを獲得し、新作アプリに継続して人を集められることが同社の強みとなっている

 こうしたベンダーやアプリに共通しているのが“緩い囲い込み”だと、水野氏は解説する。月額課金が主体だったフィーチャーフォンの有料コンテンツでは、一度獲得したユーザーをいかに逃さないよう、きつく囲い込むかが重要となっていた。だが月額課金が主流ではないスマートフォンの場合、ユーザーはサービスを止めたいと思えばアプリを削除するだけであり、あっという間にユーザーがいなくなってしまう。

 スマホアプリでは、一度ファンになってもらい、ユーザーが自発的に継続利用してくれれば、ニッチなコンテンツであってもビジネスは成立しやすいという。これは例えるならば、強固なファンを獲得することでCDを買ってもらったり、ライブやグッズ販売に結び付けたりすることで収益を上げる、アーティストのビジネスモデルに近い。

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