―― 次にAQUOS R2 compactですが、このSIMフリー版を発売することは決定したのでしょうか。
小林氏 現時点では、かなり前向きに検討しているところです。
―― 昨年(2018年)に続いてのコンパクトモデルですが、やはりニーズは高いのでしょうか。
小林氏 大きくなっても、皆さん頑張って使っていますよね。ニーズはむしろ増えていると思っています。スマートフォンはやはりインフラの一部と位置付けられているので、すぐに使えることが大切です。われわれは「片手ポケット族」と呼んでいますが、そういった方々がすぐに親指だけで操作できることを大事にしました。そのため、サイズは初代よりも小さくなっています。
このサイズを決める際には、日本人の手の大きさを調べまくりました。わずかな違いですが、比較すると「これだ」という感じが分かると思います。幅が2mm小さくなっていますが、握り込んで親指で画面をタッチするときには、1mmの差が致命的な違いになります。AQUOS R2 compactなら、第一関節に引っかけて持ったとき、親指が画面の端まで届きます。これが狙えるギリギリの大きさが、幅64mmでした。
また、ポケットから出してすぐに使えるよう、非常に高速な顔認識を入れ、メモリも多く、SoC(プロセッサ)も一段上げています。倍速のIGZOディスプレイもここでは有効に働いていて、非常に気持ちよく操作できると自負しています。
―― このサイズ感にこだわるのは、日本特有なのでしょうか。
小林氏 この瞬間は日本だけですが、(AQUOS R2 compactを紹介する)サイトへのアクセスは、海外からも多かったですね。海外にも、このサイズでこのスペックというモデルは、あまりないのではないでしょうか。
―― ノッチが下に付いているのも、独特なところだと思います。これはなぜでしょうか。
小林氏 ここはこだわって、“ダブルノッチ”にしています。下のノッチ部分には指紋センサーが載っています。Android 9 Pieでは画面下に細いバーが表示されますが、これを隠れた状態にしています。この状態で、指紋センサーから画面に指を走らせると、タスクの切り替えができます。これは、指紋センサーとスワイプの動きを合成して認識するようにしたためですが、進む、戻る、タスクが全てジェスチャー操作で使えます。
指紋センサーは前に載せるのが正義だと思っていて、裏にあってもあまりいいことがありません。横でも裏でも、使いやすくはならないからです。AQUOS zeroのように、ひたすら画面に没頭させたいという理由でまれに後ろに持ってくることもありますが、使いやすさを優先すると、前にすべきというこだわりがあります。
―― 先代のAQUOS senseから、SIMフリーモデルを強化していますが、改めてそれはなぜなのかを教えてください。
小林氏 ここまでやってきて思うことですが、SIMフリー市場は一言でいうとグローバルな市場です。私ども以外の日本メーカーの陰が薄いこともありますが、お客さまの目も非常に厳しい。この金額で、このスペックでというところを、極めてストレートに判断されます。シャープもブランドは上がってきていますが、中長期で生き残ろうと思ったときには、やはりSIMフリーで戦える体力や商品が必要になります。
分離プランの話も(総務省で)出ていますが、商品自体がこの金額で、買うか、買わないかという分かりやすい状態になってきています。ここで生き残れないと、メーカーとしては厳しい。数量的にはまだまだキャリアに売っていただくメジャーなモデルと比べると少ないですが、このマーケットは非常に大切だと思っています。AQUOS senseシリーズを投入しているのもそれが理由で、この層のお客さまにも満足していただきたいというのが本音です。
―― SIMフリー市場全体を見ると販売台数が下落しているというデータもありますが、その影響は受けていないのでしょうか。
小林氏 むしろわれわれは、爆発的に増えたという感じです。特に昨年(2018年)は、AQUOS sense liteの勢いがすごかったですね。ただ、いずれにせよ、まだまだ発展途上の市場です。楽天さんが参入される話もあり、いろいろと市場は変化しています。生き残るためにはここで戦える体力を持たなければならず、逃げることなくやっていきたいですね。
また、SIMフリー市場はお客さまの発信力が強いのも特徴です。某価格比較サイトでもSIMフリーモデルが上位に入りやすく、SNSでもそうなる傾向が強く出ています。ここで満足度を上げていけば、ブランドイメージの向上にもつながります。お客さま同士のコミュニケーションでブランドイメージが上がることもあり、やはりSIMフリー市場は大切です。中国のメーカーも、そうやって浸透してきましたからね。
林氏 逆に、格安スマホと呼ばれているように、格安というイメージもつきやすい。ですから、ブランドコントロールには気を付けています。
―― 今後、フラグシップモデルも投入することはあるのでしょうか。
小林氏 やりたいですね。そこは市場との会話も必要ですが、AQUOS zeroをあそこまで(SIMフリーで出してほしいと)言われたのも意外でした。私どものブランド力で、9万円、10万円のものがどれだけ受け入れられるかには懐疑的な声もありましたが、注目されているのは確かだと思います。確定した話はありませんが、市場を見ながら対応していきたいと考えています。
AQOUS Rでのブランド統一以降、シャープはキャリア市場だけでなく、SIMフリー市場でも躍進を続けている。その秘訣(ひけつ)は、やはり小林氏の「コストもスペック」という言葉に集約される印象を受けた。もちろん言葉だけでなく、それを実行に移せるだけの社内体制や企画力、調達力も伴っていなければならず、簡単に実現できることではないが、国内メーカーとしていち早くこの市場に着手できた手腕は評価できる。
分離プランが徹底されれば、この企画力や開発力は、キャリア市場でも生かすことができそうだ。小林氏が「生き残るため」と繰り返していたのもそのためで、市場が変化しつつある今こそ、メーカーの柔軟性が試される。ただ、ミドルレンジだけでは、メーカーの実力を示しづらいのも事実で、やはりブランド力がつきにくい。インタビューの最後に語られていたように、SIMロックフリーでのフラグシップモデル投入にも期待したい。
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