世界を変える5G

202X年のインターネット生活をデータから予想する特集・ビジネスを変える5G(1/2 ページ)

» 2019年02月03日 17時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 まもなく、次世代のモバイル通信規格「5G」(第5世代移動通信システム)の時代がやってくる。世界的には一部でサービスが始まっており、日本でも2020年から商用展開が始まり、消費者への普及が始まる見込みだ。

 ITmediaの総力特集「ビジネスを変える5G」では、5Gによるモバイル通信の新たな利活用を探ってきた。5Gが「高速」「低遅延」「多接続」という特徴を持つことから、VR(仮想現実)映像の転送による遠隔制御や、双方向コミュニケーション、IoTデバイス活用などに新たなビジネスが期待できる。

 一方、既存の利用シーンはどうなるのだろうか。つまり、私達が今触れているモバイル通信のほとんどはスマートフォン時々タブレット時々モバイルルーター、まれにWWAN内蔵ノートPCといった具合だ。

 こうした身近な環境が、5Gの普及に伴いどう変わっていくのかも重要な視点になるはずだ。そこで本記事では、政府や企業の統計データを読みながら202X年の私達のインターネット生活を予想する。

 予想の要点を始めに示し、各項について述べていく。

  • スマホから天気やニュースチェックは当たり前 動画利用がさらに増加
  • 固定回線の代わりに5Gホームルーターで快適に
  • 魅力的なサービスと主体性のバランスが重要

人々はますますスマホで情報チェックするように

 スマホの用途は人それぞれだが、「日本全体で見たときにどんなサービスがどれだけの割合で使われているか」という質問にすぐに答えられる人は多くないだろう。そんな疑問に応えるデータが、総務省の統計にある。

 総務省は1990年から国民の通信利用動向調査を毎年行っており、2000年以降の調査結果をWebで公開している(最新は2017年)。

 調査項目の中には、「個人におけるICT利用 (1)インターネットの利用目的・用途」という項があり、「電子メールの送受信」「ホームページ・ブログの閲覧」「SNSの利用」などの各目的・用途がどれほどの割合で利用されているのかを調べている。

 アンケートの項目や調査の粒度が時勢によって時折変化しており、2000年から一貫して追うことはできないのだが、2011年〜2017年は比較的これらが安定しているため、この7年間でインターネットの使われ方がどう変わったのかを割合の変化から観察してみる。ただし、デバイスの区別がないデータであるため、PCやタブレットからの用途も含まれることを留意してほしい。デバイス種別の用途は後に議論する。

インターネットの利用目的・用途(個人)の2011年〜2017年のデータを独自にまとめた(※総務省「通信利用動向調査」より)

 期間を通じて最も割合が高いのは、「電子メールの送受信」だ。割合は増加傾向で、2017年には80%に達している。通信キャリアと契約すれば必ずメールアドレスが付与され、Androidスマートフォンを利用しようと思えばほぼGoogleアカウントが必須となり、アカウントにGmailのメールアドレスが付与されることなどから、当たり前と言えば当たり前の結果だ。

 上昇傾向にあり、2017年時点においても割合が上位(50%以上)に入るのが「天気予報の利用(無料)」「地図・交通情報の利用(無料)」「ニュースサイトの利用」「無料通話アプリやボイスチャットの利用」「動画投稿・共有サイトの利用」だ。

 SNSの利用以外は2013年から新設された項目ではあるが、いずれも着実な増加傾向を見せている。

 天気予報やニュース、地図・交通情報については、時事性のある情報をリアルタイムに取得したいというユーザーの欲求を反映していると考えていいだろう。

 無料通話アプリ(おそらくLINEやFacebookメッセンジャーなど)の割合増加は著しく、2017年にはわずかにSNS利用を追い越した。この2項目からはコミュニケーション用途の需要増加が読み取れる。

 そして動画だが、増加傾向にはあるものの、2013年に大きな伸びがあってからは緩やかな増加だ。動画については後に論じる。

デバイス種別の用途と普及状況を照らし合わせる

 さて、これらのアンケート項目が「スマホからのインターネット」なのか「PCからのインターネットなのか」ということはこれだけのデータでは分からない。そこで、同調査の別のデータを参照する。

 まずは、2010年〜2017年の「主な情報通信機器の保有状況(世帯)」だ。このデータを見ると、10年には世帯当たりに83%あったPCが17年には72.5%まで減少し、対照的にスマホは9.7%から75.1%まで割合を伸ばす。17年にPCの世帯保有率を追い抜くほどスマホが普及したことが分かる。

「主な情報通信機器の保有状況(世帯)」と「モバイル端末の保有状況(個人)」

 2013年〜2017年の「モバイル端末の保有状況(個人)」を見ると、個人でもスマホ保有率が伸び、逆にフィーチャーフォンやPHSの保有率が低下しているとある。多くの人の肌感覚と一致すると思うが、近年に近づくにつれ、個人のモバイル端末がスマホをそのまま意味するようになってくるということだ。

 次に、先ほど見ていた「インターネットの利用目的・用途」の2008年〜2010年のデータを見る。なぜなら、この期間はPCと携帯を分けて集計しており、デバイスごとの目的・用途の差が見えるからだ。

2008年〜2010年の「インターネットの利用目的・用途」 デバイス種別でデータが取られている

 PCからの利用用途で上位にあるのは、「電子メールの送受信」「企業・政府・個人のホームページ・ブログの閲覧」「商品・サービスの購入」「地図・交通情報(有料・無料)」だ。

 フィーチャーフォンからスマートフォンへと移行している携帯電話に比べ、形態が安定しているPCの用途に大きな変化はないと考えれば、これらの項については年を経てもPC利用の影響が強いと考えていいだろう。

 PC利用の傾向とデバイスの普及率を、上述した2011年〜2017年の調査と照らし合わせると、PCの普及率低下とともに「ホームページ・ブログの閲覧」「商品・サービスの購入」の利用割合が低下していることが分かる。PCの普及率が低下し、スマホが追い抜いたことで、これらの用途が他に比べて相対的に下がったのかもしれない。

 このように考えると、天気予報やニュースサイトの利用やコミュニケーションアプリ利用の割合は、スマホ普及の強い影響下にあると見なしてよさそうだ(もちろん新たなサービスの登場など他の要因もある)。17年時点で個人のスマホ保有率は約60%であることから、今後のさらなる普及でより多くの人々がスマホから時事情報やSNSなどをチェックするようになるだろうと予想できる。

5G対応で動画利用に伸びしろ

 後回しにしていた動画の利用割合に入ろう。動画サービスは2010年の利用目的・用途でPCから23%程度使われていることから、PCからの利用も当然あるのだが、デバイス種別をまとめていない17年のデータで55%まで増えていることと、PC・スマホの普及率変化から、スマホからの動画利用が割合を押し上げていると見るべきだ。

インターネットの利用目的・用途(個人)(2011年〜2017年) 再掲

 そして12年から13年の動画利用割合が大きく増えていることに注目したい。

 日本でLTEの導入が始まったのは2010年からだったが、LTE対応スマートフォンが登場し始めたのは11年冬、ドコモの新しいスマホが全てLTE対応になったのは12年冬発売の機種からだった(「Galaxy S III α SC-03E」や「Xperia AX SO-01E」の時代)。

12年冬モデルの「Xperia AX SO-01E」 ドコモの発表資料でもXi(LTE)対応であることが強調されていた

 つまり、スマホがLTEに対応することで、モバイルシーンで動画をストリーミング再生しやすくなっていった時期だといえる。これが、12年から13年の動画利用割合のジャンプアップに影響しているのではないだろうか。

 もしそうであれば、スマホの5G対応が動画利用を後押しする材料になるという予想も立つ。

 実際、通信機器メーカーのエリクソンはそのような予想を立てている。

 エリクソンによれば、2018年の世界中のデータトラフィック総量は27EB/月(エクサバイト、テラバイトの100万倍)で、内訳は約60%が動画のものだという。

世界中のモバイルデータトラフィックの内訳(Ericsson Mobility Report November 2018より)

 そして24年には、総量が136EB/月に増え、動画トラフィックが約74%を占めるまでに増加すると見ている。5Gの普及による時間当たりにさばけるデータ量の増加で、より高品質なストリーミング動画や、AR・VRなど新しい動画形式が普及していくとの見立てだ。

 リアルタイムにユーザーが自由に視点を切り替えられる「自由視点VR」を用いたスポーツ中継など、5G時代に向けて様々な動画の可能性が模索されている。

 動画需要は5Gとは別に、デバイス側からも喚起されるかもしれない。

 2019年、スマホのディスプレイにも変化が起きようとしている。ディスプレイごと曲げて畳める「折り曲げスマホ」だ。

中国Royoleの折り曲げスマホ「FlexPai」

 折り曲げスマホがどれほど支持されるかは未知数だが、もし普及すればこれまでのスマホと同様のモバイルシーンでユーザーは8型に近い大画面を利用することになり、より高品質なストリーミング動画の需要を押し上げる可能性がある。

 このように、ネットワーク面からも、端末のハードウェア面からも、アプリケーションの面からも、動画サービスがこれから変化していく土壌は整いつつあるといえる。

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