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» 2007年04月06日 16時00分 UPDATE

後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方:第9回:初回ロットを買ってはいけない(後編)

前回は営業的要因から「初回ロットを買ってはいけない」理由を紹介した。今回は、メーカーの“構造問題”からその理由を明らかにする。

[後藤重治,ITmedia]

自社で品質チェックを完結できないメーカーがある

「初回ロットを買ってはいけない」と考える理由の1つに、PC周辺機器メーカーの検査体制が挙げられる。というのも、PC周辺機器メーカーによっては十分な品質チェックを行う体制そのものが不足しているために、製品が多くのユーザーに利用されるまで、製品に潜在する問題点が把握できない構造になっているからだ。

 PC周辺機器メーカーの多くは、自社に工場を持たず外部の協力会社に製品を作らせている。こうした状況であるため、製品の品質検査を行う環境は、メーカーによって大きな差がある。自社で検査のためのラボを構えているメーカーもあるにはあるが、品質検査そのものを協力会社に依存しているメーカーも少なくない。

 そのようなメーカーの中には、検査プログラムそのものまで外注先に依存している場合がある。作った当事者が作成した項目でチェックをするわけだから、マトモに品質を検査できないことは誰の目にも明らかだ。企業としてハードウェア製品が主力でなく、ラインアップの中にいくつか存在しているだけというメーカーは、そうした傾向がとくに強いと言える。

 こうした場合、出荷前の「大甘な」検査はパスしても、一般の消費者が使いはじめると必ず不具合が顕在化する。とくに、あまり一般的でない環境、例えばルータを地方の小規模なCATVプロバイダで利用した場合とか、キャプチャーソフトを特定のユーティリティと共存させた場合にのみ起こる不具合というのは、「検査も丸投げ」なメーカーが出荷前に見つけることはほとんどない。また、ひととおりの環境での動作検証を済ませていても、例えば夏になって気温が上がると熱暴走したり、逆に冬になるとドライブが起動しなくなったり、といった問題が起こる可能性もある。製品の開発サイクルが極端に短いPC周辺機器業界では、こうした長期にわたる動作検証というのはそもそも困難であるのはやむを得ないことではある。しかし、こういう状況に何の危機感もなくどっぷりとはまっているメーカーの社内には、「出たとこ勝負」の感覚が蔓延してしまっているのである。

 余談だが、筆者が先日試用したUSBワンセグチューナーの初回ロットは、2007年1月が「2006年13月」としてカレンダーに表示される代物であった。2000年問題ではあるまいし、普通に品質チェックをしていれば見つけられる不具合のはずだ。現在はユーティリティのバージョンアップで修正されているが、ハードウェアの経験が少ないメーカーであったため、こうした基本的なチェックすら十分に機能していなかったものと思われる。

「ファームアップ」が製品の品質を落としている

 なにより問題なのは、こうした状態に関してPC周辺機器メーカー側が、もはや「慣れてしまっている」ことだ。PC周辺機器の多くは、ドライバやユーティリティといったプログラムをPC経由でネットからダウンロードしてアップデートできる。この仕組みは製品の発売後に新機能を追加したり動作を改善できたりといったメリットをもたらしたが、それと同時にメーカーが製品を回収することなく不具合を修正できるという「逃げ道」を与えてしまった。

 ネットに接続できず、ファームアップのできない家電品などでは、品質が一定レベル以下の製品を出荷してしまうと、それはいずれリコールとなり全品回収という形で跳ね返ってくる。しかし、PC周辺機器はそうではない。ハードウェアが最低限マトモであれば、正常に動かないソフトを導入したまま量産に突入するのも珍しくないのだ。初回ロットが出荷されてユーザーに使われ始めるまでの2〜3週間あまりのタイムラグを使って対策済みのファームウェアを仕上げ、ギリギリのところでファームアップで難を逃れるのである。つまり、ファームアップの仕組みの存在が出荷時における“低い完成度”を許してしまう結果に繋がっているわけである。

 もちろん、ファームアップの仕組みそのものを否定しているわけではない。購入時に100だった機能が120とか150になるのであればユーザーも大歓迎である。しかし、製品を作っているメーカー側は得てして「あとからファームアップできるのだから、出荷時は80の状態でも大丈夫」と都合よく解釈してしまうものだ。

 同じメーカーの社内においても、こうした判断基準には個人差がかなりある。例えば、PC周辺機器業界に長らくドップリと浸かっている担当者にすれば、製品を競合他社に先駆けて市場に投入するのが最優先事項なので、完成度は二の次になる。一方、家電やAVなど他業界などから転職してきた担当者は、このあたりの判断がシビアになる傾向が強い。会社の規模が小さければ、こうした個人による判断のブレがより一層強く影響する。

株主の機嫌取りの新製品は危険信号

 これまで説明してきた“危険な製品”が生み出されやすいシチュエーションを2つ紹介しておこう。この業界の関係者なら、おそらく「あー、よくあるよねこのパターン」と苦笑するはずだ。

 1つは、会社の経営陣が株主総会で口走ってしまった「今期末に発表する新製品」だ。業績がイマイチで株主から追及されたときに、センセーショナルな新製品が今期末までに登場することを明かし、矛先を逸らすというパターンである。こうした場合の新製品というのは、まだ企画段階、もしくはモックアップレベルの段階であり、進捗度から言うと発売時期など発表できたものではない場合がほとんどだ。それなのにトップの爆弾発言で発売時期が「確定」してしまったため、そのスケジュールを守るために社員が東奔西走する、というストーリーである。PC周辺機器メーカーに限らず、どんな業界でも似たような話はあると思うが、それに巻き込まれる開発者や生産を担当する協力会社はたまったものではない。

「もう発売時期を告知してしまっている」という状況のもと、遅延が許されないギリギリのスケジュールで出来上がった製品で品質が維持できていることはまずない。しかし、株主に対して発売時期を告知済みであるため、製品に問題があった場合でも、発売を延期することは許されない。だから、「とりあえず発売して、あとから新ファームを適用せよ」という判断になるのがオチだ。

 ユーザーは「株主総会などでセンセーショナルに告知された新製品、とくに発売時期が期末に設定されている場合」は、初回ロットはスルーするに限る。ひょっとすると、その後の株主総会で、その製品のセンセーショナルな品質が原因で、告知した当人が袋叩きに遭う光景を目撃するかもしれない。

台湾の旧正月前後は気をつけるべし

 もう1つは、台湾の旧正月前に出荷されるロットに関する問題がある。

 生産を多くの台湾工場に委託しているPC周辺機器メーカーでは、旧正月で工場の稼動が止まる前に大量の仕入れを行うのが常だ。このとき、すでにロットを重ねている製品ならタイトなスケジュールであってもそれほど不安はないが、新製品となると話は別である。突貫で間に合わせたために品質はボロボロ、プログラムの修正をしようにも製造元は旧正月でお休み。結局、最後に苦労するのはユーザーというオチになる。

 なので、台湾の旧正月、つまり1月末頃に登場するPC周辺機器の新製品は、限りなくリスキーである可能性が高い。もちろん、店頭に並んでいるすべての新製品が「旧正月前の突貫出荷」だとは言い難いのだが、筆者はこの時期の新製品はなるべく様子を見るようにしている。


 ……以上、かなりインサイドな内容になったが、初回ロットについてのウラ話を2回続けてお届けした。もし、初回ロットに手を出してこうした状況にブチ当たってしまった場合も、上のような事情を知っていれば、多少なりとも「納得」できる……わけないよなぁ、やっぱり。

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