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» 2008年10月24日 11時00分 UPDATE

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:リストラなんて怖くない!“街のビジネスセンター”で、いますぐ独立──ただし、中国限定 (1/2)

急転直下の世界経済。ウン千万円の収入があっても解雇されたらそれまでだ。そういう時代だから、今回は“ビジネスセンター”の経営者に簡単になれるというお話。

[山谷剛史,ITmedia]

とはいえ、日本人が考える「ビジネスセンター」とは内容が違うので注意すること

 日本から中国に来るビジネスマンにとって、「ビジネスセンター」といえば、清潔感のある“大きなホテルのビジネスセンター”となるだろう。外国人が泊まれるホテルでは、ビジネスセンターに英語や日本語が話せる担当者がいるので、中国語ができなくても印刷をオーダーできるだけでなく、ビジネスセンターに設置されているPCでインターネットを利用したり、回線とLANケーブルを借りれば手持ちのノートPCを一時的に接続することもできたりする。“ホテルのビジネスセンター”は宿泊客以外も利用できる場合もあるので、旅行者には非常に便利だ。

 しかし、地元の中国人からすれば、“ビジネスセンター”といえば、街中どこにでもある“街のビジネスセンター”となる。彼らからすれば、ホテルは値段が張るし、なによりそういうところで外国人と一緒になって印刷をオーダーしたりPCを使ったりしていたら気疲れしてしまう。だから、地元の人たちが“ホテルのビジネスセンター”を使うことはまずない。

 ここでいう“街のビジネスセンター”とは、印刷・コピーサービスを提供する店のことで、日本で言えばフェデックス キンコーズ(以下、Kinko's)などに相当する。Kinko'sはオフィス街を中心に店舗を展開するが、中国では住宅街に店を構えることが多い。そして都市部に限らず、地方の小さな街にも存在する。その多くが個人が経営する、年季の入ったPCやプリンタ、そして、コピー機にFAXだけが置いてある小さな店舗だ(ただし、企業が経営するチェーン店もある)。

 こうした個人経営のビジネスセンターでは、店の前に「打印」(印刷)、「複印」(コピー)、「伝真」(FAX)、といった単語が並べられた看板を掲げている。店によっては、これらに加えて「刻録」(CDを焼く)、「下載」(ダウンロード)、「名片」(名刺)といった単語を並べている場合もある。

 地元の中国人にとって、“街のビジネスセンター”以外で、印刷やコピー、FAXができるところはない。日本では、コンビニエンスストアなどで利用できるが、中国ではほとんど対応していない。また、日本のインターネットカフェではプリンタを備えてプリントサービスを行っているところもあるが、中国のインターネットカフェは完全に娯楽施設化しているため、このようなサービスは行っていない。

 多くの“街のビジネスセンター”では、モノクロプリンタしか用意していない。数少ないチェーン店なら、A3以上に対応する大型プリンタやカラー印刷設備がそろっているので、かなり高度な要求にも対応できるが、普通の中国人がカラー印刷をするときは、そういう大規模チェーン店ではなく、コダックや富士フイルムの看板を掲げている写真屋に行って、手持ちの画像データを写真画質で印刷してもらう。これが、普通の中国人が自分で撮影した画像データを出力する唯一の方法だ。

 このように、ほぼすべての国民が年賀状と撮影画像出力ためにカラープリンタを所有している日本と違い、中国では、自分でプリンタを用意することなく、モノクロ印刷なら街のビジネスセンターを利用し、撮影画像などのカラー印刷なら写真屋を利用している。日本と中国でここまで利用事情が異なるPC周辺機器はほかに例を見ないだろう。

kn_yamayaprt_01.jpgkn_yamayaprt_02.jpg 街のビジネスセンターにはたくさんのサービス内容が書かれた看板がズラリとならぶ(写真=左)。撮影した画像の印刷は写真屋でしてもらう。この店では、(中国では珍しい)DVDや(中国では依然として現役の)VCDの作成サービスや、コピー、印刷サービスも行っている(写真=右)

中国で「街のビジネスセンター」が簡単に始められる理由とは

 所得格差の激しい中国では、日本のようにサラリーマン一筋で働こうと考えている中国人は少数で、多くは自分の店を起業して独立し、経営者になったら人を安く使って楽に稼ぎたいと思っている。

 起業資金が少ないごく普通の中国人にとって、“街のビジネスセンター”は最も容易に開業できる仕事の1つだ。住宅街の1階にちょっとしたスペースの店舗を借り、日本から流れてきた中古のコピー機と、中国メーカーのFAXと、PCとプリンタを1台ずつ、それにプリンタ用紙を準備すればすぐに始められるからだ。

 PCで動かすオフィスソフトはOpenOffice.orgやキングソフト(金山軟件)の製品がフリーで用意できるが、どこの“街のビジネスセンター”に行っても、Microfsoft Officeがインストールされている。フリーソフトといえば、中国ではPDFファイルがほとんど使われていないため、印刷を主な業務としているビジネスセンターにもかかわらず、Acrobat Readerが入っていないPCもしばしば見かける。

kn_yamayaprt_03.jpgkn_yamayaprt_04.jpg いたってシンプルな“街のビジネスセンター”内部(写真=左)“街のビジネスセンター”に必須のPCとプリンタとFAXと中古コピー機。これさえあれば、あなたも起業できる!(写真=右)

 “街のビジネスセンター”で一番高価そうなのが「中古のコピー機」だが、中国では中古のコピー機を売る専門の店が集まるエリアがどこの町にも存在するので、そこで購入したり借りたりすることができる。中国のAurora(震旦)というメーカーがコピー機を始めとするOA機器を日系メーカーに対抗して販売しているが、シェアは低い。何人かの店長に聞いたところ、「中古の日本製のほうが安くて安心。コピー機のボタン類に表示されている日本語はぜんぜん気にならない」のだそうだ。

kn_yamayaprt_05.jpgkn_yamayaprt_06.jpg 中国の都市ならどこにでもある「中古事務機販売店街」(写真=左)には、ラッピングされた中古コピー機を並べた店が集まっている

プリンタを持たないPCユーザーが支える“街のビジネスセンター”

 中国のPCユーザーでプリンタを所有している人は少ない。例えば、この連載で以前中国の“美人”PCユーザーを紹介したときも、PCの横にプリンタはなかった。筆者が記憶するの限り、プリンタをプライベートで所有する中国人はいない。筆者自身も、仕事で印刷しなければならない状況が多々あるにも関わらず、現在稼働しているプリンタはない。この連載の第1回目で紹介したように、レノボのデスクトップPCを購入したときに、日本人の習慣でプリンタも一緒にそろえたのに使っていないのだ。中国人がプリンタを買わないのも、日本人の筆者がプリンタを使わないのも、中国で普及している“街のビジネスセンター”のおかげだ。

 プリンタを自分で持たない中国のPCユーザーは、家にプリンタを用意しない代わりに、USBメモリにデータを保存して“街のビジネスセンター”に出向くことになる。静かな住宅街にある店でも数分に1回、学生街ならそれこそ途切れることなく利用客が店にやってくるので、“街のビジネスセンター”はそれなりに繁盛している。多くのユーザーが順番を待っている店では、自分の番が早く回ってくるように、利用客の多くが自分のUSBメモリをつまんだ指を差し出だしてアピールしている(こういう状況になると、押しの弱い日本人は別の店を探すことになる)。1枚10円に満たない価格設定であっても、“街のビジネスセンター”で働く店長や店員の生活を支えるだけの利益は上がっているようだ。

 “街のビジネスセンター”で印刷をおこなう場合、その価格は、筆者が主に利用するデータ印刷を例にとれば、1枚5角(=0.5元。日本円で8円)、記事や執筆した書籍の原稿チェックもビジネスセンターで印刷してから内容をチェックしている。筆者の名刺もこのビジネスセンターで1箱4元(約65円)で作っている。

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