すぐ試したい“アドビマジック”満載――クラウドを生かしたスマホ/タブレットの新しい可能性林信行が見た「Adobe MAX 2014」(1/2 ページ)

» 2014年10月09日 10時00分 公開
[林信行,ITmedia]

Adobeが披露したタッチ操作の未来

米国で開催された年に1回のクリエイター向けイベント「Adobe MAX」。2014年はMicrosoftのサトヤ・ナデラCEOと、Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOが共演した

 新たにリリースされたiPhoneアプリ「Adobe Shape」――このアプリを起動すると身の回りにあるさまざまな形を、「Illustrator」で加工可能なデータへ簡単に変換できる。

 Adobeが年に1度開催するクリエイター向けイベント、「Adobe MAX」の基調講演では、紙に印刷された文字をスキャンして、Illustrator向けにデータ化し、Adobeのクラウドサービスを通して、自分が持っているすべての対応デジタル機器で即座に利用可能にするデモが行われた。

iPhoneアプリ「Adobe Shape」を使って身の回りにある形を取り込み、それをiPadやMacで作成中に作品に組み込める

 iPadに入った「Illustrator Draw」(旧称:Adobe Ideas)を起動すると、右側のクラウド上のライブラリから、iPhoneで取り込んだ形(カリグラフィ)を使ってイラストを作成できる(ちなみにIllustrator Drawは、十数個のレイヤーを使った編集も可能なかなりの本格派だ。続いてPC版のIllustratorを開くと、やはり、こちらでもiPhoneで取り込んだ形がすぐに表示され、作品に統合できる。

Illustrator Drawは、元々Adobe Ideasという名前で人気があったiPadアプリだ。最新版はAdobe Illustratorの延長としてレイヤー重ね合わせた高度な描画が可能になった

 同時にリリースされたiPhoneアプリ「Adobe Brush」もすごい。例えば、紙の上にチョークで1本線を引く。この線をAdobe Brushが起動したiPhoneで撮影する。すると、すぐにその書き味がAdobeのクラウドサービスに登録され、すべてのアプリで利用可能になるのだ。実際に、iPad上の「Photoshop Sketch」というアプリを使って、作成したばかりのブラシを選び、指で線を描いてみると、線のかすれ方や、チョークの粉の周囲への飛び散り方まで本物で描いたようだ。

 ちなみにAdobe Brushでは、花を撮影してブラシにしたり、レゴのようなブロックを撮影してブラシにしたり、場合によっては人を撮影してブラシにすることも可能で、これによって、これまでなかったまったく新しい表現ができる。

チョークで描いた様子をiPhoneアプリの「Adobe Brush」で撮影

iPadでタッチ操作で炭の具合を調べた後、花、レゴ、人のブラシで絵を描いてみると……

 「うわ、凄い!これ自分でも今すぐやってみたい!」――そう思わせるのが世にいう「アドビマジック」だ。

 24年前にPhotoshopの最初のバージョンが出たときから、Adobeはある意味、年に1度の製品アップデートで披露するアドビマジックを売り物にして、成功してきた。

 だが、2011年からは「Adobe Creative Suite」というパッケージ版ソフトの販売をやめ、月ごとあるいは年ごとの利用料を支払って最新版アドビ製品を使う「Creative Cloud」というモデルに移行を開始している。正直、この3年ほどのAdobeの様子は、ビジネスモデルの移行途中ということもあり、最新版に真新しい機能が盛り込まれていないわけではないものの、個人的に少し魅力が衰えている気がしていた。

 しかし、Adobe MAX 2014にあわせて世界同時にリリースされた最新版のAdobe Creative Cloudによって、同社はクラウドへの完全移行を達成。そして、そこではクラウドへ完全に移行したからこそできる、新しいクリエイティブのワークフローを提案している。つまり、パソコンとスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器が簡単に連携する未来を実現した。夢のような未来的作業環境の時代が一気に幕を開けたのだ。

 「世間では最近、タブレット機器は使いものにならない、という悪評が出始めている。だが、我々はそうは思わない」――実際、基調講演の中でAdobeが見せた9個のiOSアプリが見せる、iPhoneで素敵な形や色を採取して、それをiPadで自分の指で直に触れて作品に仕上げていくスタイルは非常に説得力があった。

 すごいのは採取系のアプリだけではない。これまでiPadのみに対応していた「Photoshop Mix」のiPhone版もリリースされたが、こちらはPC版Photoshopで培われた画像認識技術を使って、人物やモノなどを指でなぞるだけで簡単に写真からきれいに切り抜き、そこに背景などを合成できるうえ、意図せず映り込んでしまった人物やモノも、指でなぞるだけで(クラウド側で計算/処理して)きれいに消し去ることができる。

指でなぞるだけで木の形などを認識するPhotoshop Mix。切り抜き作業だけでなく、じゃまな映り込みを消したりもできる

 また、タブレット機器を使ったタッチ操作の未来こそがクリエイティブ作業の可能性を広げると信じるAdobeは、基調講演の最後にサプライズゲストとしてMicrosoftのサトヤ・ナデラCEOを招待。Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOがこれを迎え、世界2大ソフト開発社の2大インド人CEOが初めて同じステージに立ち、タブレット機器の未来を存分に描き出して見せた。

 ここで披露されたデモのまるで魔法のような驚きは、写真だけでは伝わりにくいので、動画と一緒に簡単に解説していこう。

 まずは動画で2つ目に紹介されているMicrosoft Surface版のIllustrator。Surfaceにキーボードがついている間は、通常のPCと同じ作業画面だが、キーボードをはずした瞬間に画面がタッチ操作に最適化された画面へと切り替わる。ハートのような難しい形もタッチ操作で(ベジェコントロールを触ることなく)簡単に描けてしまう。

Surface版llustratorはキーボードを使っている間はPC版として動作し、キーボードを外すと即座にタブレットモードの操作画面に切り替わる

 こうした、すでに製品化されているものに加えて、Adobeはこれからの可能性を探るアプリもいくつか共同で開発している。その1つが動画の冒頭で紹介している「Project Animal」だ。これはAdobeのAdvanced Product Developmentチームに属する特殊効果アプリ「After Effect」の開発者らが作ったもので、画像として描いた人をドラッグ操作で簡単に操り人形のように手足を動かすばかりか、Surfaceなどのカメラ付きPCで自分の動きを真似させることができる。

描いたキャラクターを自由自在に動かすプロジェクト「Animal」。Surfaceについたフロントカメラで自分の動きをキャプチャしてその通りに動かしたり、発生して口の形を真似させる機能も

 Microsoftのサトヤ・ナデラCEOは「(AdobeとMicrosoftの)パートナーシップが今、再燃しています。Microsoftの核はプラットフォームと生産性ツールの提供。我々はクリエイティブな作業があらゆるサイズの機器で利用できるようにしていくことが大事だと思っています」と話し、Adobeとともにタッチ操作を使ったクリエイティブ作業環境「タッチワークスペース」の操作をともに開発していく意向を示した。基調講演では巨大スクリーンを使って作業をするデモも披露されている。

 その後、Adobeが見せた「タッチ操作の未来」の映像もすごかった。例えば、草原を走っている馬の映像で子馬の位置をドラッグ移動する。元々いた場所は自動的に背景が描かれ、もともと親馬の奥に子馬がいたような絵に見える。ここまではすでに従来のPhotoshtopでも実現できていたが、その後、再生ボタンを押すと、なんとこれは静止画ではなく動画で、子馬がきちんと新しい位置で走り始める。

 あるいはiPhoneで2色の絵の具を混ぜて新しい色を作った後、それをSurfaceの上で振ると、絵の具がSurfaceの画面に落ちて、タッチ操作で絵を描ける、といったものだ。百聞は一見に如かず、ぜひ、動画を見て欲しい。

 なお、Microsoftのサトヤ・ナデラCEOは、最後にAdobe MAXの5000人近い参加者の全員にSurface Pro 3をプレゼントすると発表した。会場総立ちの大歓迎を受け、基調講演会場の外でも、知らない人たち同士で抱き合ったりハイタッチをする人が大勢いた。Adobe周辺のクリエイティブコミュニティは、これからiOSも愛用しつつ、Surface Pro 3への移行が一気に加速するかもしれない。

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