「Windows 10 S」「Surface Laptop」に対する期待と不安鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/3 ページ)

» 2017年05月17日 06時00分 公開

 長らくウワサになっていた「Windows 10 Cloud」と「クラムシェルノート型Surface」だが、その答えがようやく出た。

 米Microsoftは5月2日(米国時間)、ニューヨーク市内で開催された教育分野向けイベントの「Microsoft EDU」において、Windows 10 Cloudと呼ばれてきた新OSの「Windows 10 S」と、同OSを搭載したクラムシェルノートPC「Surface Laptop」を発表したのだ。

 今回は戦略的な意義と今後の可能性から、これらの2製品について考えてみる。

Surface Laptop 新OS「Windows 10 S」をプリインストールして登場したSurface初のクラムシェルノートPC「Surface Laptop」

かつてのWindows RTとWindows 10 Sはどこが違うのか

 Windows 10 SはWindowsストアでのみアプリの導入が可能なWindows 10の機能限定エディションとなる。現在のところ、デスクトップアプリケーションの導入に必要なmsiファイルやスクリプトの実行など、サイドロードが可能な機構は確認されておらず、非常にセキュアなOSと言える。

Windows 10 S Windows 10 SはWindowsストアからダウンロードできるUWP(Universal Windows Platform)アプリのみが実行可能な教育分野向けのOSだ

 これにはModern UIのアプリのみが実行可能だったかつてのWindows RTの陰が見えるが、当時とは1点大きな違いがある。当時のWindows RTで実行可能だったのは「Windows RTでの動作に最適化した(つまりWinRT APIを使うARMバイナリ)アプリ」だけで、Windows RT動作用にアプリを新たに作り込む必要があった。

 しかし、現在のWindows 10およびWindowsストアに対応した「UWP(Universal Windows Platform)」アプリは、Desktop App Converter(Project Centennial)を使って署名入りAPPXファイルに変換されたWin32ベースのデスクトップアプリケーションも含んでいる。

 Desktop App Converterとは、膨大な資産があるWindows旧バージョン向けのデスクトップアプリケーション群を、Windows 10のネイティブ実行基盤であるUWP対応のモダンなアプリに変換し、Windowsストアで配信できるようにする仕組みだ。つまり、Windows RT専用アプリの時代とは異なり、既存のデスクトップアプリケーションをWindows 10 Sで動作可能なUWPアプリとして展開しやすくなっている。

 Windows 10 Sの中身としては、4月に配信が始まった大型アップデート「Creators Update(1703)」世代以降のx86プロセッサ向けWindows 10をベースとしている。Microsoftが公式のFAQで示しているように、これら変換済みデスクトップアプリケーション(Win 32 Centennialアプリ)の実行も可能だ。

Windows 10 S spec Windows 10 Sと他のエディションの機能比較一覧

 その他にも、Windows 10 Sは非常に面白い特徴を持っている。一般PCユーザー向けエディションの「Windows 10 Home」に比べても管理機能が非常に充実しているのだ。

 具体的には、Azure AD経由でドメイン参加が可能なことに加えて、Windows Update for Businessやビジネス向けWindowsストア(Windows Store for Business)が利用できるなど、一見エンタープライズ用途にも適している。

 しかしMicrosoftの意図として、この仕様はビジネス向けというよりも、今回のイベントの本題である「教育分野」でのデバイス管理を念頭に置いた仕掛けだと考えるべきだ。かつてのWindows RTはコンシューマー市場を念頭に置いており、ドメイン参加や管理機能は備えていなかった。動作可能なアプリのバリエーションだけでなく、ここだけを見てもWindows 10 Sがそもそも異なるターゲットを狙っていることが理解できる。

 このタイミングで新エディションのWindows 10 Sを投入した理由は、同社のプレゼンスが弱い教育分野で現状の最大勢力であるGoogleのChromebookに対抗するためだ。

 ちょうど発表会当日の5月2日にFuturesource Consultingが発表した教育分野(K-12)でのデバイスOSシェア調査報告によれば、米国でのOSシェアは過去2年間でGoogleのChrome OSが38%から58%へと急伸する一方、それまで比較的シェアを獲得していたWindowsとmacOSはその比率を漸減させており、特にiOSは非常に落ち込みが大きい。

 iOSの落ち込みはタブレット市場の動向とも連動しているが、この間隙を縫って安価なデバイスとクラウドソフトウェアを提供するGoogleが躍進したことは、Microsoftが戦略を見直すきっかけとなるには十分な出来事だろう。

 なお、「K-12」とは北米における高校卒業までの12年間の教育課程を指す用語だ。ここでテクノロジーに慣れ親しんだ子どもが将来的に社会に出ることで、各社の動向に大きな影響をもたすことになるだろう。

Futuresource Consulting K-12のモバイルデバイス市場におけるOSシェアの年間推移(出典:Futuresource Consulting)
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