Googleで深まる労使対立 優秀な人材が集う企業であり続けられるかITはみ出しコラム

» 2019年12月01日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米Googleと一部の従業員の対立が激化しています。オープンな社風と「Don't be evil」(邪悪になるな)のモットーで知られる企業でも、従業員数が10万人を超え、巨大化してひずみが目に見えるようになってきているのでしょうか。

codeofconduct Googleの「行動規範」。下の方に今も「Don't be evil」と明記されています

 最新の動きは、11月26日に4人の従業員が解雇されたことです。この4人はそれぞれ、企業の姿勢を疑問視する活動をしていました。昨年11月から活動している従業員グループ「Google Walkout」は、「GoogleはCode of Conductで『(Googleが)間違っていると思うものを見つけたら、声を上げよう』とうたっているのに、それを実行した従業員に報復した」と抗議しています(Mediumより)

Google Walkout 11月26日、Googleの姿勢を疑問視する活動をしていた4人の従業員が解雇されました(Mediumより)

 Googleの労使対立が世間の注目を集め始めたのは多分、昨年5月にGoogleと米国防総省のAIプロジェクト「Project Maven」の契約について、社内で反対する署名運動が起こった(その結果、契約は更新されませんでした)ころでしょう。

 それに続いて昨年11月1日には、同社の約2万人の従業員が世界のオフィスで会社の方針に対する抗議デモ「Google Walkout」を決行しました。


 このデモは、職場でのセクハラや不正行為温存体質、不透明性、不平等な職場環境の改善などを求めるものでした。当時は、社内の仕事用ネットワークを使って従業員同士で組織化できるなんて、自由な会社だなぁ、などと思っていました。

 デモを受け、スンダー・ピチャイCEOが職場での体制改善を約束しました。

 このGoogle Walkoutが一定の成果を上げたことは、MicrosoftAmazonなどのIT企業の従業員が企業方針に反対する運動に大きな影響を与えました。

 Googleでの従業員による活動はその後も、中国での検索事業再開を断念させるなど、成果を上げていました。

 でもその後、反対運動を組織した主な従業員に対する社内の風当たりが強くなり、次々と退社していきました。退社した人々は、ピチャイCEOが約束した改善はほとんど実現されていないと語りました。

Meredith Whittaker Googleを退社したメレディス・ウィテカー氏は優秀なAI研究者。現在はニューヨーク大学で研究を続けています

 企業側が約束したことが、なかなか実現しないといら立つ従業員が全社会議の録音をメディアに流すということも出てきました。

 Googleの全社会議「TGIF」(毎週金曜日に開催されていたことからThank God, It's Fridayの略でこう呼ばれており、ただし今は時差なども配慮して木曜日に開催)は同社の古き良き伝統で、ここではCEOや幹部が一般従業員の質問に答えることになっています。録音がメディアに流れるなどということは、これまでありませんでした。

 そんなことがあったからか、ピチャイCEOはTGIFを週1から月1に縮小すると従業員に告げました(米The Vergeより)。

 縮小の理由は、聞きたいトピックが多様すぎて毎週やってもうまく機能しないこと、TGIFの内容を社外で共有しようとする動きがあって、これがTGIFに影響を与えていること、出席者が減っていることだとしています。2つ目の理由が遠回しな表現でよく分からないのですが、要するに情報をもらしちゃう人がいるから、ということだと思います。ちなみに、このメール自体も従業員宛のものを、従業員がメディアに流したものです。

 Googleはまた、8月に社内のコミュニティーガイドラインを改定し、就業時間中に政治をめぐる議論をしちゃだめ、という項目を追加しました(米Recodeの記事に新しいガイドライン全文が掲載されています)。また、ポリシーに違反したと判断した社内のディスカッションフォーラムは閉鎖し、必要な場合は懲戒処分もするとあります。

 10月には、従業員が社内で使うWebブラウザ(もちろんChrome)に、組織行動を検出するための拡張機能を一方的にインストールしたことが話題になりました(米CNETより)。この拡張機能は、誰かが100人以上が参加するイベントをカレンダーに入力したり、10以上の会議室を予約しようとするとそれを検知するというものです。会社側は、間違って予約したりしないよう警告するための機能だと説明しましたが、従業員は当然、集会を監視するためのツールだと解釈しました。

 また、New York Timesによると、Googleは企業に労働組合対策をアドバイスするIRI Consultantsという会社と契約しました。Googleに労働組合はありませんが、この会社は企業の経営陣に労組と戦うノウハウを伝授するそうです。

IRI Consultants IRI ConsultantsのWebサイトより。労使交渉のベテランが経営陣にアドバイスするそうです

 そして冒頭で触れた通り、11月26日、抗議活動をした従業員が4人解雇されました。IRI Consultantsのアドバイスがあったのでしょうか。Google Walkoutのメンバーは、「Googleはわれわれの努力を押しつぶせると思っているが、そうはいかない」としています。完全に対立姿勢です。

 Googleを支えているのは世界有数の能力の高い従業員です。彼らを敵に回したら、そして、優秀な人材が出て行ってしまったら、大打撃です。かといって、営利企業として利益を伸ばし続けるには、資本が豊かな政府(中国を含む)の仕事も請け負っていかなければ、競合に負けてしまいます。

 労使対立が激化して、優秀な従業員が出て行ってしまうのでしょうか。Googleが従業員のさまざまな要求を受け入れて(そうすると営業コストにいろいろ影響が出ます)、純利益が落ちても何とか円満解決するのでしょうか。

 1企業が21年も成長し続けてきただけでも驚異的ですが、できればまだしばらく、すごいサービスを作っていってもらいたいものです。

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