Googleのゲームストリーミング「Stadia」はイマイチな評判 ライバルの動向は?ITはみ出しコラム

» 2019年11月24日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米Googleのゲームストリーミングサービス「Stadia」が11月22日に米国など14カ国(日本は入っていません)でスタートしました。

 スタート段階では、公式コントローラーと「Chromecast Ultra」、3カ月分の権利が付いて129ドルの「Premiereエディション」を購入する必要があります。来年にはこうしたエディションを購入しなくても月額9.99ドルでプレイできるようになる見込みです。

Stadia 米Googleのゲームストリーミングサービス「Stadia」がついにスタート

 ゲームストリーミングサービスというのは、ゲーム本体はデータセンターにあって、ユーザーは何も手元にダウンロードせずにWebブラウザやアプリからリンクを1クリック(タップ)するだけでプレイできるというサービスです。よく「Netflixのゲーム版」と表現されます。

 メリットは、手元にある端末が非力でもプレイできること。従来は最新世代の家庭用ゲーム機、あるいはゲーミングPCをはじめとするハイスペックなPCが必要だったような高いグラフィックス性能を求められるオンラインゲームが、スマートフォンや普通のPCで遊べるようになります。Stadiaの場合、スマホのPixelシリーズ、PC、Mac、Chromecast Ultraを接続したテレビなどでプレイできます。

 ゲームストリーミングサービスは処理を全部クラウドでやるので、スマホやノートPCにかかる負荷が小さく、発熱しにくいという利点もあります。

Stadia PixelにStadiaの専用コントローラーを接続した状態

 問題点は、サーバやネットワークが非力では成り立たないこと。Netflixのようなコンテンツストリーミングは多少の遅延はバッファなどで気にならないように処理できますが、格闘ゲームなどで遅延があれば勝負に関わるので絶対ダメです。

 ゲームストリーミングというコンセプトは、10年くらい前からあります。米OnLiveという新興企業がピカピカのコントローラーをひっさげて登場したときにはわくわくしました。

OnLive OnLiveが2009年に発表したカードサイズの小型ゲーム機「MicroConsole」とコントローラー

 米Gaikaiという企業も出てきました。でも、要はクラウド側がしっかりしていないと無理な構造なので、新興企業には荷が勝ちすぎました。ネット環境自体もまだまだでしたし。GaikaiOnLiveもソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント、以下SIE)に身売りし、2014年にスタートしたゲームストリーミングサービス「PlayStation Now」に生かされました。

PlayStation Now ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「PlayStation Now」

 ネット環境が整ってきて、5Gも見えてきた今、ゲームストリーミングは絵に描いた餅ではなくなるタイミングだと、Googleは思ったのでしょう。

 そもそもStadiaのきっかけは多分、常日頃から「Web高速化」に取り組んでいるChromeチームによる「Project Stream」だと思います。Chromeブラウザでどこまで高品質なゲームをストリーミングできるかテストするために米Ubisoftに協力してもらって、「Assassin's Creed Odyssey」を使いました。

 この2018年10月の段階は、まだゲームストリーミング事業に参入するつもりはなかったんじゃないでしょうか。このプロジェクトに目を付けたGoogleもしくは親会社Alphabetの経営陣の誰かが、新たな収益源につなげない手はない、と動いたのではないかと思います。

 Googleには何といっても世界中のデータセンターで作り上げたクラウドネットワークがあるし、ゲーマーと親和性の高いYouTubeもあります。ゲームストリーミング業界でトップに立てる素養は十分です。

 ところが、蓋を開けてみたら、スタート段階のStadiaの評判は散々です。プレイできるゲームはまだ22本しかないし、4K HDRのはずの映像がどう見ても4K HDRじゃないというレビュー(9TO5Google)もあるし、ゲームにはあってはならないレイテンシがやっぱりある(PC Gamer)との声も。

Stadia 立ち上げ段階でプレイできるゲームのラインアップ

 これはまだ「β版レベルだ」というのが多くのメディアの評価です。ゲームの評価に厳しい日本が立ち上げの14カ国に含まれていなくて良かったかもしれません。

 Googleは昔から、サービスを出してみて、使ってもらいながら改良していくというやり方でここまで大きくなりました。Stadiaもそのつもりなんでしょう。でも、ゲーマーにはそれはちょっと通用しないかもしれません。

 SIEがPlayStation Nowを値下げしたし、米Microsoftのゲームストリーミング「xCloud」のβテストは順調だし、米Amazon.comも2020年にこの市場に参入しようとしているという、かなり確度の高いうわさ(The Information)もあります。AmazonにはAWSがあるし、Twitchも持ってるので、うまくしたら強力なライバルです。

xCloud Microsoftは「xCloud」のプレビュー版を米国などで公開中。2020年には日本でも利用できるようになる見込み

 ゲームストリーミングではないですが、来年にはSIEが「PlayStation 5」を出すし、Microsoftは次期Xbox Oneを出すでしょう。

 米Appleも、ゲームストリーミングではありませんが、9月に定額制ゲームサービス「Apple Arcade」を始めました

 これだけ本気を出しているライバルがいるのです。

 それにゲーム市場は、特にユーザーのコミュニティーを大切にしないとうまくいかないところです。Googleがユーザーコミュニティーを大切にしていないとはいいませんが、ソーシャルサービス的なことが苦手なのは過去証明しています。

 リソース的には、Googleはゲームストリーミング業界で成功できるだけのものを十分持っているけれど、嫌な予感がします。そして怖いのは、Googleは見切ったサービスはばっさり切り捨てるところです(下のツイートは、GoogleのChromeチームが今年のハロウィーンシアトルのキャンパスに作ったディスコンサービスのお墓です)。


 Stadiaで購入するゲームは、購入といっても本体がクラウド側にあるので、GoogleがStadiaをやめたら、ゲームも戦績も消えてしまうでしょう(今のところ利用規約にそうなったときにダウンロードさせてくれるかどうかなどは明記されていません)。アーケードゲームだと割り切ればいいのかもしれませんが、もやもやしそうです。

 いずれにしてもゲームストリーミング競争が本格化するのは、xCloudが公式版になり、Amazonのサービスが発表されてからになりそうです。

 ゲームは自分でプレイするより上手な人のプレイを後ろで応援するのが好きな私は、この勝負も息を詰めて見守ります。

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