対iPhone4S――一般層へのスマホ普及に向けた、ドコモの2つの戦略とは?神尾寿の時事日想・特別編(2/3 ページ)

» 2011年11月02日 16時30分 公開
[神尾寿Business Media 誠]

スマホ一般市場化で重要になる「dメニュー」

 これらの取り組みの中で、今後を見据えて特に重要なのが、「dメニュー」と「dマーケット」である。とりわけ注目すべきはdメニューの方だ。

 iPhoneの登場以降、"スマートフォンといえばアプリ"という風潮が強いが、モバイルインターネット市場全体に目を向ければ、有料コンテンツ/有料サービス市場においてカジュアルユースを支えているのは携帯サイトと呼ばれるWebブラウザ型のコンテンツだ。ケータイからスマートフォンへの転換においてコンテンツ市場全体におけるアプリ市場の構成比率は高くなるが、それでも"一般ユーザー向けコンテンツ"の主役はWebブラウザ型となる可能性が高い。

スマートフォン向けポータルサイト「dメニュー」のイメージ。iモードでマイメニュー登録していたコンテンツは自動的に引き継がれる

 この背景には、2つの理由がある。

 1つは「Webブラウザ型コンテンツ」は、Androidスマートフォンで大きな問題となっている端末間やOS世代間の互換性問題を受けにくいことだ。周知のとおりAndroidスマートフォンは、Apple1社が端末/OSをコントロールするiPhoneに比べて、端末/メーカーごとの仕様がバラバラだ。OSのバージョンによる差異も大きく、同一モデルでも"バージョンアップの有無"によって仕様・環境の違いが生まれる。これはアプリ開発においては「開発コストの増大」につながっており、端末仕様やOSバージョンの違いによって"アプリが正常に動作しない"という問題になっている。

 一方、Webブラウザ型のコンテンツは、スマートフォンのブラウザ環境に最適化はされているものの、アプリに比べれば端末間/OS世代の互換性問題は受けにくい。新機種が増えたときの対応も、アプリよりも低コストかつ容易だ。今後、iPhone以外のスマートフォンは様々なバリエーションが生まれていき、その反面で互換性(フラグメンテーション)問題は深刻化する。他方で、一般層向けコンテンツ市場では、コンテンツそのもののバリエーションも大切になる。このような状況下では、開発・検証コストが低く済み、アプリよりも運用しやすいWebブラウザ型コンテンツのメリットが出てくるのだ。

 2つ目の理由は、今回の「dメニュー」のように、キャリアが"Webブラウザ型コンテンツに使いやすい認証/課金システム"を導入することで、「アプリでなくても有料ビジネスが成り立つ仕組み」が整備されることだ。AppleやGoogleは企業性質上Webサイトごとにユーザーが簡単に利用できる認証・課金システムを提供することが難しく、必然的にアプリストアで"配信時に課金する仕組み"を主流することになった。しかし、通信インフラとISP機能をまとめて提供するキャリアであれば、認証・課金システムを「公式サイト」として認めたWebブラウザ型コンテンツに提供することが可能だ。しかも、キャリア課金ならばクレジットカード利用を嫌忌するユーザーに対しても、簡単な手続きで少額課金・コンテンツ決済サービスが提供できる。

 Webブラウザ型コンテンツで有料というと、ITリテラシーの高いユーザーを中心に「(PC向けの)インターネットで無料なものが有料で需要があるのか」と考える向きもあるだろう。またハイエンド層のスマートフォンユーザーの一部は、「iモード型ビジネスモデルはガラパゴス」と短絡的に決めつけるかもしれない。しかし、一般市場では、自分に合ったアプリの検索・導入(インストール)までできるユーザーはむしろ少数派であり、ブラウザだけで利用できるコンテンツの方が利用率が高いのが実情だ。さらにスマートフォンに最適化されたWebサイトは、スマートフォンのフルブラウザでPC用サイトをそのまま見るのとはまったく異なるユーザー体験がある。キャリアが誰もが使いやすく安心して使える認証・課金システムを構築すれば、使い勝手がよくデザイン性に優れた「スマートフォン用公式サイト」は有料課金ビジネスが可能だ。今後、既存のケータイユーザーのスマートフォン移行が進み、市場全体の裾野が拡大することを鑑みると、ドコモの「dメニュー」の取り組みはとても重要なものになるのである。

新料金 + テザリングで「Xi移行」を強力に推進

 このようにドコモはコンテンツサービスで一般市場向けの施策を強化する一方、料金やインフラ面では、iPhoneを擁するソフトバンクモバイルとKDDIを引き離す策に出た。その鍵となるのが「Xi」(クロッシィ)だ。

 ご存じの通りXiは、次世代通信規格LTE (Long Term Evolution)を採用した次世代インフラサービスであり、今後のモバイルIT市場で主流となるものである。この国内エリア展開ではドコモが他キャリアを大きくリードしており、同社の優位性になっている。

 ドコモは今回、このXiを従来のデータ通信端末だけでなくスマートフォンにも展開し、料金体系を一新。競争力を底上げしてきた

 まずXiの強みであるデータ通信分野では、フラット型の「Xiパケ・ホーダイ フラット」(月額5985円)と2段階型の「Xiパケ・ホーダイ ダブル」(月額6510円)を投入。価格設定を既存の3G(FOMA)スマートフォンと同等に抑えた上で、2012年4月30日までの「Xiスタートキャンペーン」期間中は、Xiパケ・ホーダイ フラットは月額4410円、Xiパケ・ホーダイ ダブルは月額2100円〜4935円でXiの国内パケット通信を利用できるとした。このキャンペーン価格は現在のiモード携帯電話(フィーチャーフォン)と同価格帯であり、通信料金が割安に設定されているiPhoneとも十分に渡り合える内容だ。さらにXiパケット定額サービスでは、テザリング利用時の料金も上限額は据え置きとなる。現在、スマートフォンとモバイルWi-Fiルーターを持っているユーザーは、Xiスマートフォン1台のデータ通信料にすべてまとめられることになるので、コストメリットはかなり大きい。

パケット定額サービスの料金図。なお、Xiパケ・ホーダイ ダブルには2100円分(5000Kバイト)の無料通信が付帯し、無料通信分を使い切ると、料金の上限まで1Kバイトあたり0.42円が発生する

 むろん、「Xiスタートキャンペーン」はあくまで"キャンペーン価格"ではあるが、複数のドコモ幹部・関係者の話を総合すると、「販売市場の反応やライバルとの競争環境を見ながらキャンペーン延長の検討を行う。その(キャンペーン延長の)可能性はある」という。

 そして、Xiスマートフォンではデータ通信以外の料金でも攻勢を強める。それがドコモ初のキャリア内音声定額サービス「Xiカケ・ホーダイ」(月額700円)である。これはXi用の音声料金プラン「タイプXi」(月額1560円)もしくは「タイプXi にねん」(月額780円)と組み合わせられるオプションサービスで、加入するとドコモ同士の音声通話が24時間かけ放題(通話料無料)になる。ドコモでは、タイプXi にねんとXiカケ・ホーダイとの組み合わせ(月額1480円)を「Xiトーク24」と命名し、お得な料金サービスとしてユーザーに訴求していく方針だ。

 キャリア内の音声定額サービスは他社でもすでに展開されており、Xiトークの内容そのものには目新しさはない。しかしドコモの場合、利用時間帯の制限がなく、通話料無料の対象となるドコモユーザーが稼働シェアの約5割と他社より圧倒的に多い。ユーザー側の利用メリットが、この分野で先行したソフトバンクモバイルやウィルコム、KDDIなどよりはるかに大きいのだ。とりわけ携帯電話のビジネスユースではドコモ利用率が高いため、Xiカケホーダイ導入後は、「個人のビジネスユース」と「法人市場」でのドコモの競争力は圧倒的になるだろう。

 総じて言えば、Xiの新料金プランはユーザーにとって魅力的であり、市場競争の観点ではとても攻撃的だ。商品力においてiPhoneの脅威を感じたドコモが、Xiの料金・サービス面で反撃に出たといってもいいだろう。

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