救急医療現場で広がるiPad――「MCPCアワード 2012」のグランプリは「99さがネット」に

» 2012年04月20日 19時55分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo MCPCの安田靖彦会長(左)と、佐賀県の古川康知事(右)

 モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は4月20日、優れたモバイルソリューション活用事例を表彰する「MCPCアワード 2012」の各賞を発表した。グランプリは、iPadやモバイルネットワークを活用して救急患者の病院搬送を効率化した、佐賀県の医療情報システム「99さがネット」が受賞した。

 今回で10回目の節目となるMCPCアワード。グランプリ候補として選出されたのは、Android端末を活用した中古車査定システム「インスマート」(カーセブンディベロプメント)、東日本大震災の被災地調査で活躍したAndroidタブレット端末による「被災建物調査支援システム」(国立大学法人 東北大学)、電子カルテの入力効率化や患者への医療情報説明に役立つ「iPadを利用した患者参加型 医療支援システム」(習志野台整形外科内科)、牛の体温をセンサーと通信モジュールを連携させて常時監視し、分娩を予報する「遠隔監視システム『牛温恵』」(リモート)、そしてグランプリを受賞した99さがネットだった。


photophoto ノミネートされた5つのソリューションもそれぞれ賞を受賞。また、牛の分娩事故問題にモバイルコンピューティングを活用して取り組むリモートに対し、審査委員長特別賞が与えられた

 佐賀県では現在、県内すべての救急車にiPadを導入しているという。佐賀県内では救急車で搬送される人の数が年々増加している一方、搬送先の病院を探す方法としては「救急隊員が各病院に電話をひたすらかける」しかなく、「搬送までに時間がかかる」「特定の医療機関に搬送が集中する」といった課題があった。急患受け入れ情報の共有システムもあるにはあったが、救急車にインターネット環境がなく参照が難しかったり、医療機関が多忙で入力率が低かったこともあり、真価を発揮できていなかった。


photophoto 既存の情報共有システムは十分に活用されておらず、搬送時間は年々増えていた

 こうした中で佐賀県では、救急隊員に情報端末としてiPadを持たせ、救急隊員自らが急患受け入れの各種情報を入力し、共有できるシステムを構築した。救急隊員が症状や科目を選択すれば、搬送先の候補が自動的にリストアップされ、効率的に急患を搬送できるようになっている。また、医療機関だけでなく“受け入れ情報を最も求めていた救急隊員自身”が情報を入力できるシステムとしたことで、情報の入力率も高まり、利用率は約10倍に増えたという。この結果、搬送が集中しがちだった救命救急センターへの搬送割合が低下し、年々増加していた搬送時間も前年度から約1分の短縮を実現した。


photophoto 必要項目を選択して検索すれば、病院がリストアップされる
photophotophoto iPad導入により、システム利用率は大幅に高まった(写真=左)。また、搬送先が分散されたことで救命救急センターへの搬送割合も減少(写真=中央)。救急車の平均搬送時間も減少に転じた(写真=右)

 MCPC普及促進委員長の武藤肇氏は、99さがネットが「公共性が高い」システムであること、「佐賀県だけでなく全国に普及しつつある」ことなどを、グランプリ受賞のポイントとして紹介。「社会インフラとして大きな意義がある」と賞賛した。同システムはすでに、香川、奈良、岐阜、群馬、栃木の5県が導入済みあるいは2012年に導入を予定しており、その他にも18の地域で導入の検討や視察が進んでいるという。

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