リスティング広告は誘導係、説明係はどこへ行った?御社のWebサイト、行き詰ってませんか

リスティング広告は、ニーズが顕在化している顧客にアプローチするもの。いわば商品へのコンバージョンを高める最後の誘導係のようなものだ。それでは商品の存在自体を知らせたり、内容を説明するような広告は不要なのだろうか。

» 2010年01月26日 12時30分 公開
[石橋啓次,Business Media 誠]

 前回リスティング広告を社内で効率的に運用するため、5点のアイデアを示した。

  1. 明確な成果指標及び、成果ページの設定と、アクションタグの利用
  2. クリック率の向上目的ではなく、コンバージョン率の向上を目的とした運用
  3. アクセス解析とユーザー行動分析により、未知のキーワードの有無を検証
  4. 「キーワード」+「広告文」+「ランディングページ」のマッチング度合いを確認
  5. リスティング広告とディスプレイ広告の相乗効果を活用

 今回は前回説明できなかった(5)を説明していこう。

リスティング広告とディスプレイ広告の相乗効果を活用

 そもそもリスティング広告は、ニーズが顕在化している顧客にアプローチするもの。購買の直前に接触した広告が購買行動に影響を与えるという効果である「リーセンシー効果」を最大化させるツールと言えよう。

 ブランディングにもある程度の効果があると言われるが、それはSEOと連動させ、検索結果をその商品情報の検索結果で埋め尽くさない限り、インパクトは得られない。すると、リスティング広告はあくまでも販売促進策であり、認知の拡大や理解の促進を目的とする広告には力不足である。

 分かりやすく例えてみよう。

 あるサラリーマン(便宜的に田中さんとしよう)が、今朝歯磨き粉を使い切ってしまった。出勤前にテレビを見ていると、いつものニュース番組が映っている。番組の間に流れたCMで、以前から気になっていた歯磨き粉のCMが繰り返し流れた。商品名は「クリアトゥース」。日々この歯磨きの広告に接触している田中さんは、イメージ的にも機能的にもクリアトゥースが優れた商品だと擦り込まれていた。「そうだ、今日会社帰りに買おう」。

 そう決めた田中さんは帰り道、会社の近くの大きなドラッグストアに立ち寄った。急いで帰宅したい田中さんは、慣れない店の中で近くにいた店員にこう聞く。「すみません、『クリアトゥース』っていう歯磨き、置いてませんか?」。すると店員は「こちらへどうぞ」と丁寧に案内してくれた。同じ棚に並ぶ類似商品ともざっと比較し、納得したように「クリアトゥース」を持ってレジに向かった――。

 このような行動は、日常生活で誰しもが体験していることだろう。これをWeb広告になぞらえると、ドラッグストアの店員がリスティング広告であり、今朝やそれ以前に接触したTVCMがディスプレイ広告と捉えることができる。

 つまり、リスティング広告はすでに指名買いを心に決めた人に、どこで購入できるのか案内してくれる誘導係であり、それ以前に接触した広告が、顧客に少なからず何か影響を与えている教育(認知)係であったことも事実なのである。

 顧客は、関心のある広告に接触すると、心に何かを決定づける。購入意志を決定しているのか、購入検討候補として決定しているのか、買うならあんなイメージがいいかなと将来の意志を決定しているのか――人それぞれの結論となるわけだ。

 米Razorfishの調査(下図)によると、リスティング広告とディスプレイ広告を同時に実施した場合とリスティング広告のみの場合とでは、前者のコンバージョン率が80%も向上したという。

図は、ディスプレイ広告を掲載したことに対する、リスティング広告への影響を表している。ディスプレイ広告を掲載することで、リスティング広告のクリック数は1万件から1万2700件へ27%上昇した。さらに、リスティング広告からの流入ユーザーのコンバージョンレートは、1.2%から1.7%へ41%上昇し、ディスプレイ広告は、リスティング広告からの流入数を増加させるだけでなく、流入ユーザーのコンバージョンについても増加させることが調査の結果から分かった。この調査では、結果的にコンバージョンが調査前の120から216となり、96の新たなコンバージョンを生み出した。つまり、ディスプレイ広告への掲載は、 80%のコンバージョン増加を生み出したことになる

 リスティング広告をやり尽くしてしまって広告効果が頭打ちな企業にとっては、80%という数字は劇的な向上率だ。つまり、リスティング広告を実施する際は、それを過信せず、純粋な広告施策も同時にうちながら検証していくのが、これからのWeb広告の利用法として先進的であると言えよう。

エンゲージメントマッピングとは?

 今Web広告の世界に、「エンゲージメントマッピング」という概念が生まれつつある。広告する商品ごとに、また顧客が接触する媒体ごとに、顧客が影響を受ける度合いが大きく違うことを、技術的・視覚的に証明する手法だ。例えば新築マンションでいうと、顧客の認知の流れは大きくこのようになるだろう。

  • 新聞広告・折り込み広告・屋外広告→モデルルーム→現地視察・現地看板→営業マンとの商談→購入

 この流れの中で、一番顧客の購入モチベーションが上がるのはどこだろうか。当然モデルルームだ。売主もモデルルームの立地と、ルーム内のインテリアコーディネイト、そこで配布されるパンフレットや図面集、さらには営業マンの服装や立ち振る舞いまで、一番注意と力を注ぐところである。

図は概念を説明したもの。各ゴールを達成する上で、顧客の好意度に大きく影響を及ぼすメディアは、必ずしも最後に接触したものではない(上記オレンジの枠)。それは各企業・各商品カテゴリによって大きく異なる。オンライン広告では、テクノロジーを用いれば、さまざまなフォーマットに合わせて重みづけを行い、影響の強いメディアを理論上の数値で客観的に評価できる。その企業独自の結果となるため、今後のメディア選定とその予算配分を決定する際に、参考になることは間違いない

 顧客が接触する媒体と、コンバージョンへ向かういくつかのステージによって、力の入れ具合(予算の配分)をコントロールして、ROIの向上を全体的に目指す概念がエンゲージメントマッピングなのである。

 これをWeb広告上で利用すると何が起きるかというと、最終的には検索して表示されたリスティング広告をクリックし、そのまま購入した顧客ではあるが、実際その顧客に購買を意志決定づけた広告が、Yahoo!JAPANのブランドパネルだったり、実はMSNのマウスオーバーフローティング広告だったりする。つまり「クリック以前に接触した広告効果がコンバージョンに影響した」という効果をメディアごとに数値で配分し、科学的に仮説立てて示せるようになるのだ。

 現在Web広告には、多種多様なフォーマットがあり、さまざまな保証形態は周知の通り。企業はその膨大なメニューの中から、最も費用対効果の高い手法を見つけ出さなければならない。次々に出る手法を常にキャッチアップできるパートナーと組み、単一の手法に固執せず、チャレンジを繰り返し、長期的な視野で最適化を図るマインドが、いよいよ必要な時代になったのだ。

 次回はディスプレイ広告について。単なるバナー広告から一歩踏み込んだ広告効果向上策を説明しよう。

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著者紹介:石橋啓次(いしばし・けいじ)

 電通レイザーフィッシュのシニアメディアプランナー。1973年静岡県出身。日本大学経済学部卒。広告会社の営業として、マスメディア、OOH(Out of Home)メディア、セールスプロモーション、イベントなどでのコミュニケーションプランニングおよびクリエイティブディレクションを7年間経験した後、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに入社。入社と同時にアサツーディ・ケイ(現ADKインタラクティブ)に出向。多数の大手クライアントのインターネットメディアプランニングを約4年間経験し、2007年12月より現職。



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