事を大きくして「クレーム」を見える化する「現場の情報」を見える化する

人間は、面倒なことは後回しにしがちです。特にクレーム処理は気乗りもせず、後回しにしたくなるもの。武蔵野ではどのようにクレーム処理を見える化しているのでしょうか。

» 2010年04月21日 18時50分 公開
[小山昇,Business Media 誠]
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 長引く不況の中、自社の経営に悩みを抱えている中小企業の経営者が多いのではないでしょうか。そんな中、経営の内部を社員に公開し、徹底的な透明化(=見える化)を継続することで、社員のモチベーションを高め、増収増益を達成した会社があります。それが経営サポート事業などを行なう武蔵野――。

 とはいえ仕事の見える化は言うほど簡単ではありません。誠 Biz.IDの読者にも悩んでいる人が多いはず。そんな読者に「中小企業のカリスマ」と呼ばれる同社の小山昇社長が「現場の見える化」の方法を伝授します。


この連載は書籍『経営の見える化』から抜粋、編集したものです


クレームは全員で共有、クレーム隠しは賞与半減

 お客様から寄せられるクレームは、いわば「業務改善の指摘」です。ですから、クレームは全社員が一斉に共有しています。クレーム対応は会社にとって大事なこと。だから事を大きくする。クレームは、みんなで共有しなければ改善されません。

 普通の会社は、例えば「アイスクリーム部門の社員は、チョコレート部門のことは分からない。チョコレート部門の社員は、おにぎり部門のことは分からない」といったように、他部門のことが分からないのが当たり前です。ところが、武蔵野はすべての部門で情報を共有していますから、「あそこの部門はクレームが多いな」ということまで一目瞭然です。

 武蔵野では、クレームが発生した責任を社員に取らせることはありません。クレームが発生する原因は、すべて社長にあります。クレームが起きるような商品を扱ったのも、クレームを起こすような社員を雇っているのも、すべて社長に責任があるからです。本来はすべて社長が対応すべきですが、わたし1人では受けきれないので、社員がわたしの代わりに対処しています。

 ただし、報告と連絡を怠った場合は、賞与を半額にします。報告すればお咎めはなしですが、クレームを隠した場合は厳しく罰します。過去には、たった1本クレームを報告しなかっただけで、更迭された役員もいます。よい情報は報告しなくても会社はつぶれません。けれど悪い情報が上がってこないと、会社は倒産することがあります。ですから悪い情報を見える化するしくみを作っておくことが重要です。

クレーム処理をするまで、自動的にメールが送り続けられるしくみ

 武蔵野はコールセンターを構えており、お客様から寄せられるクレームは、コールセンターで一括して受け取るようにしています。クレームが届くと、営業担当者に「ボイスメール」(個人のメールボックス宛に、声やファックスを送信できるサービス)を使ってただちに連絡します。さらに、営業支援システム(IBMの「System i」)を併用して、営業担当者の携帯メールに文字情報を送信しています。

 ところが、これまではコールセンターが一方的に情報を送るだけで、営業担当者からのフィードバックを受け取ることができませんでした。「ボイスメール」にしても、送った相手が「聞いたか、聞いていないか」までは分かるのですが、クレームに対応したかどうかまでは分からなかったのです。携帯メールにしてもそう。メールを見たのと、アクションを起こすのは違います。

 普通の会社であれば、ボイスメールや携帯メールを送った時点で、「営業担当者はただちにアクションを起こす」と思っているかもしれませんが、武蔵野は、人は信用しても仕事は信用していませんから、「確実に行動を起こす」しくみが必要でした。

 そこで、双方向性とフィードバック率の向上を目的として、2009年の6月から、営業支援システムをWeb化しました。お客様からクレームが届くと、コールセンターは、営業担当者にサイトのアドレスを送ります。営業担当者がWebにアクセスすると、住所、電話番号、地図(グーグルマップ)、使用している商品といったお客様情報の確認ができるため、すぐにクレームに対処できます。そして、処理の内容をWebに書き込めば、コールセンターは進捗状況と対応結果をリアルタイムで把握できるようになります。

 ところが……、こんなに至れり尽くせりのシステムを構築しても、社員はなかなか使おうとしません。武蔵野の経営計画書には、「お客様への第一報は30分以内」と規定されていますが、対応が遅いとお客様から二重のクレームが届くことがあります。

 そこで20分経過しても営業担当者からフィードバックが届かなければ、5分おきに、「2回目の送信です」、「3回目目の送信です」と、対応するまで何回も何回も何回も自動的にメールを送り続けるようにしました。しかも、本人だけじゃなく、上司にも、部門の長にも。いつまでもほったらかしておくと上司の怒りを買うことになりかねませんから、このしくみなら否が応でも対応するようになります。事実、このようなしくみにしたことによりフィードバック率は上がっています。

 また、Web化すれば、お客様の個人情報を保護する上でも役立ちます。携帯電話のアドレス帳にお客様情報を登録した場合、もしも携帯電話を紛失してしまうと、お客様情報まで一緒に流出してしまう危険性があります。ところが、営業支援システムは、リンク先を転送しているだけですから、万が一携帯電話を紛失してしまっても、その携帯電話からのアクセスをカットすればいいので、情報の漏えいを防ぐことができます。

クレーム処理するまで、自動メールが送られるしくみ

 人間は、面倒なことは後回しにしがちです。「後でやろう」といいながら、後でもやらず、忘れてしまう。あるいは、切羽詰ってからやろうとするから慌ててしまう。だから質が落ちるわけです。とくに悪い情報は後回しにしがちですが、悪い情報こそ、リアルタイムで対処していかなければならないのです。

経営計画は1冊の手帳にまとめなさい

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著者紹介 小山昇(こやま・のぼる)

 株式会社武蔵野の代表取締役社長。その経営手法には定評があり、2000年に日本IBMと並んで、日本経営品質賞を受賞した。「中小企業のカリスマ社長」と呼ばれ、現在は全国300社以上の中小企業に経営のサポートを行っている。



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