「情報の私物化」を見える化する「現場の情報」を見える化する

武蔵野は、経営方針も、経理情報も、クレームも、社員の評価も、社長がキャバクラに行ったことも、社長の年収が1500万円なのも、よい情報も悪い情報も隠さない。情報を私物化せずに公開しているからこそ、社員の協力を得られるのです。

» 2010年04月22日 09時52分 公開
[小山昇,Business Media 誠]
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 長引く不況の中、自社の経営に悩みを抱えている中小企業の経営者が多いのではないでしょうか。そんな中、経営の内部を社員に公開し、徹底的な透明化(=見える化)を継続することで、社員のモチベーションを高め、増収増益を達成した会社があります。それが経営サポート事業などを行なう武蔵野――。

 とはいえ仕事の見える化は言うほど簡単ではありません。誠 Biz.IDの読者にも悩んでいる人が多いはず。そんな読者に「中小企業のカリスマ」と呼ばれる同社の小山昇社長が「現場の見える化」の方法を伝授します。


この連載は書籍『経営の見える化』から抜粋、編集したものです


個人個人にデスクを持たせない

 多くの会社は、社員1人につき1台デスクがあります。そして、そのデスクに書類をしまい、外出するときは引き出しに鍵をかけたりします。鍵をかけるのは、個人のプライバシーを守るためでしょうか?

 だとしたら、その考えは間違っています。なぜなら、仕事に必要なものは、個人のものではなく「会社のもの」だから。個人個人の机には鍵をかけてはいけないんです。

 武蔵野では、個人のデスクはありません。丸テーブル1つです。情報はデータベースに蓄積させ、グループウェアを使って共有しています。「個人情報保護法」が確立されるまでは、パスワードは1つしかなく、「6310」と入力すれば誰でも、すべての情報を閲覧することができました。

現在は法律を順守していますが、それも、お客様の情報が漏えいしないための策であり、社員どうしの情報は丸見え状態です。

 武蔵野は、入社時に「個人情報をオープンにする」という承諾書にサインしてもらっているので、給与も賞与も丸見え。わたしが書く本に社員が実名で登場するのも本人に承諾済みだからです。

 見られて困る情報などありません。むしろ注意しなければいけないのは、見られることよりも、壊されることだと思います。

 武蔵野では、情報を伝達する場合は、1対1のやりとりを禁止しています。1対1だと情報が埋もれてしまったり、私物化されやすいので、1対N(複数)が基本です。

 わたしの場合は、3人以上に知らせなければいけないときは「一斉メール」を使って知らせます。「これは役員会一斉です」と注記したうえで、課長にも同送するようにしています。

「見せるリスク」より「見せないリスク」のほうが大きい

 情報を「見せないリスク」と「見せるリスク」を比べた場合、どちらが大きいかといえば、「見せないリスク」です。

 情報を見える化しないと、「会社がどういう状態になっているのか」が社員に伝わりません。とくにPL(損益計算書)をクローズしている会社は、社員のモチベーションが低いように感じます。「会社が儲かっているのか、それとも儲かっていないのか」が分からなければ、社員だって頑張りようがありませんよね。

 武蔵野は2008年の12月に過去最高益でした。けれど期末現金は過去最低で、前年よりも1億円少なかったんです。

 したがって賞与は前年の90%に留め、支給金額は半分(残りは半年後)にしました。けれど、社員は誰も文句をいいません。なぜなら、PLもBS(貸借対照表)も公開しているから。そのうえ「会社は過去最高に儲かっているのに、現金は過去最低です。なぜなら銀行が貸しはがしをしたから。業績のよい会社でないと貸しはがしはできません。業績が悪い会社から貸しはがしをすると、倒産してしまいます」という解説付きです。

 武蔵野は、経営方針も、経理情報も、クレームも、社員の評価も、社長がキャバクラに行ったことも、わたしの年収が1500万円なのも、よい情報も悪い情報も隠さない。数字はすべてオープン。情報を私物化せず、すべて公開しているからこそ、社員の協力を得られるのです。

経営計画は1冊の手帳にまとめなさい

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著者紹介 小山昇(こやま・のぼる)

 株式会社武蔵野の代表取締役社長。その経営手法には定評があり、2000年に日本IBMと並んで、日本経営品質賞を受賞した。「中小企業のカリスマ社長」と呼ばれ、現在は全国300社以上の中小企業に経営のサポートを行っている。



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