理美容師向けのハサミを手作り製造しているヒカリ(東京都板橋区)の高橋一芳社長が12年に地元の滝野川信用金庫の誘いで交流会に参加した。そこで出会ったのが、本田技研工業で2足歩行のロボット「アシモ」の開発に携わった生粋のエンジニア、西川正雄さん(当時76歳)だった。30人の職人が働くヒカリでは、繊細なプロ向けのハサミが作れるようになる技術の習得に、経験と勘に頼っていたため約10年も掛かっていた。だが西川さんが開発した道具を使うと、わずか1週間でできるようになったという。
高橋社長は「西川さんのおかげで、職人養成のための時間とコストを節約することができた。交流会で思ってもいなかった貴重な人材にめぐり会えた」と感激しきりだ。80歳を超えた西川さんは数年前までは週に1回ほど技術面のサポートをするため顧問として出社。ハサミを製造する機械の開発に携わるなど、同社にとってなくてはならない存在だった。一方の西川さんは「この現場にはホンダにいた時のような活気があった。精密加工の技術を若い人に継承していきたい」と話している。
このほかにも日本マクドナルドで働いていたマネージャーが、千葉県浦安市のお好み焼き店に労働環境の整え方や店舗運営の方法を指導したり、イタリアの航空会社アリタリアに勤務していた人が、イタリアの高級車の自動車部品輸入会社に、イタリアでのネットワークを活用して部品調達で支援したりするなど、「新現役」が中堅・中小企業をサポートした事例は数えきれない。
最近のケースでは、大手企業の現役のサラリーマンも定年後をにらんで新しい職探しと準備のため、交流会に参加していた。AGC(旧旭硝子)に勤務する課長職エンジニアのFさん(57歳)だ。
「先輩の姿を見ていて、自分が成長する姿が見えない。50代半ばになって、60歳以降にどうするか考え始めていました。会社を離れて、何かできないか、何か挑戦できないかと思っていたら、20年3月に『新現役交流会』があることを知り、早速登録しました。東京の亀有信用金庫を通じて、九州のモノづくりの中小企業の支援をすることになったのです。会社が副業を認めたので、許可を取って今の業務に差し支えない範囲で副業をしています。社内で知的財産関係の仕事をしたことがあったので、この知識を生かして中小企業の特許出願の手伝いをしたら、社長から大変喜ばれました。
しかし、こうした仕事が定期的にあるわけではありません。家族は私が定年前に退職することに反対しています。現在は60歳から65歳までは選択的定年制になっています。経済的にはこれを選ぶ方が良いかもしれません。しかし自分の気持ちに逆らってまで働きたくない気持ちも強い。お金を優先するか、自分の気持ちを選ぶかですが、後悔したくはありません。死ぬときに、あの時に挑戦してよかったな、楽しかったなと思いたい」
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