2塁打の人間の生き方オルタナティブな生き方 高木芳紀さん(2/2 ページ)

» 2011年12月08日 11時30分 公開
[聞き手:土肥可名子、鈴木麻紀,ITmedia]
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誰かに喜んでもらえる仕事を続けたい

 高木さんの話には「普通」という言葉がよく出てくる。「人のすごいところを見るとすぐにうらやましく思っちゃうんです。で、自分を比べてみて、僕は普通だよなって軽く卑下しちゃうというか」。高木さんは決して普通ではないと思えるのだが、本人いわく、普通じゃない人とは「芸能人。まぁそれは極端にしても、いるじゃないですか、ちょっとできる、切れ者みたいな人。自分はそういう人間じゃないし、かなりの確率で他人のことをすごいなって思っちゃいます」。

 常に自分のことを外から見ている感じがすると高木さんは続ける。「クールなんですよ。コレならできるっていうのはコツコツやったりするんですけれど、ちょっと違うな、ダメかなと思うとスパッと諦める。トランペットもね、1度でいいからソロやったあとでウィントン・マルサリスみたいに格好よく決めてみたいなって思うんだけど、できない(笑)。お辞儀してこそこそっと逃げ帰るみたいな」。

 自分がテレビに出て目立っている姿などは想像もできない。「ほら“持ってる人”っているじゃないですか。でも自分は絶対違うと思うんです。バットは短く持ってコツコツと、打っても2塁打くらい。3塁打なんて打ったら、ベース回ってるうちに緊張して足がもつれてショートあたりでこけるみたいな人間ですね」と、とことん自分を小さく小さく語る。でもその姿がなぜか嫌味でないのが高木さんの不思議なところだ。

 「小さい会社ですから、あまり目立ちすぎてもよくないかなあって。就業時間中に名刺関係の活動は極力しないようにしてますし、本の印税も会社に入れてもらってます。調子に乗ってるって思われたくないんで、そういうところは意外と気を遣ってまして。今日も会社の広報活動の一環です」。口では謙遜めいたことを言っても実は自信満々な人が少なくないが、高木さんは徹底して“和”の人でもあるようだ。

 高木さんは、いずれつばめやを卒業することも考えている。

 「入社するときに、10年以上はいないと思いますので、と言ったんです。もともと自分で何かやりたいなと思っていたので、ずっと“他人の家(ひとんち)”にいるつもりはないんです」(高木さん)

 今の仕事が天職とまでは言えない。「実は名刺も違うような気がするんです。いずれ見つかるのかなぁと思っている内に40歳になっちゃったんで、ちょっと焦ってるんです。いつか卒業はするつもりなんですけれど」。悩める40歳だと苦笑しつつ「今は僕が仕事をやることで喜んでくださる方がいる。でも、次の何かがあるような気がしてならない」と続ける。

 「名刺づくりやソーシャルメディアの講師として呼んでいただくことが増えたせいで、コンサルタントになっちゃえばと言ってくれる方も多いんですけれど、僕、実業がないと落ち着かないんですよ。清く正しい商人の道が好きというか。だからコンサルをするにしても、何か実業があって、それをやった上でないとイヤなんです」(高木さん)

 こぢんまりと喫茶店でもやろうかなと言った直後に「でも接客もかなり苦手なんですけどね」と笑い、「今はソーシャルのおかげでいろんな壁がなくなりつつあるから、商売を始めるにはいいときかもしれないですね。やるならそういう方向かも」とほわほわと話す。

 いつの日か、これぞという仕事、自分はこれに賭けるぞという仕事が出てきた暁には、さわやかに卒業して、清く正しい商人としてまい進したいという高木さん。一方で「独立するとなると“信用”ですよね」とも話す。

 「小さい会社といっても『つばめや』は今の社長で3代目、60年以上積み重ねた信頼がある。それが財産。僕そういう自信がないんです。信用してくださいって堂々と言えない。銀行さんを前に『こういう事業をしますから、5億貸してください』なんて絶対に言えないですもん。『うまく行くかもしれないけど、失敗するかもしれない』とか言っちゃいそう。おまけに四柱推命グラフが42歳から落ちるんです。普通どころか、普通以下、ダメダメおじさんになる可能性もあるんです。普通でいられるのもあと2年かも。ちょうどやりたいことが見つかって勝負に出るころだったりして、コワイなあ」と、どこまで本気で話しているのか分からない。「あ、でも独立したらカミさん(イラストレーターのおおきひろみさん)に前に立ってもらおう。今度は攻守ところをかえて僕が主夫でもいいんで。やっぱりゆるいですかねぇ」。

 高木さんには“持ってる人”のようなビカビカしたものはないかもしれない。しかし、ちょっとだけ、ちょっとづつと積み重ねてきたうるし塗りのような輝きは、いつか“普通”ではなくなるような気が(ちょっと)する。

高木芳紀氏 プロフィール

高木芳紀

渋谷の小さな老舗文具店のウェブマスター。

名刺の達人として書籍執筆、トランペッターとしてビッグバンドで活躍、双子の男の子のパパとして親バカ炸裂と八面六臂の活躍をするも、その実態は「普通のおじさん」。

ソーシャルなあれこれを普通の人目線で綴る、オルタナティブ・ブログ普通のおじさんとソーシャルメディア。からは、高木さんの人好き度があふれている。


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