“誰にでもやさしい”ITは良いことなのか?:何かがおかしいIT化の進め方(9)(2/2 ページ)
ITの設計思想はFail Safeの概念だけではない。「知識や能力がない人でも仕事ができるような環境を作るため、さらなるマニュアル化や自動化」を目指すか、「教育を重視して人の能力アップでの対応」を目指すかという思想がある。この2つの使い分けを真剣に考えるべき時期に来ている。
中途半端な自動化は人間を混乱させる
航空機の分野では、一度事故を起こすと、多数の人の命にかかわる可能性が高い。こうした分野では、Fail SafeやFool Proofの実現に大変力を注いできており、これら人間工学的問題に関する最強の情報源の分野でもある。
ジェット旅客機では、1950〜60年代の第1世代の飛行機と比べて、ハイテク機と呼ばれる第4世代の最新機種(B777やジャンボ、エアバス機では、主翼の先端がピンと折り曲げてあったり、変な飾りのようなものが付いていたりするのが目印)では、全損事故率が10分の1以下に激減している(杉浦一機著「堕ちない飛行機」光文社新書)。
これには自動操縦装置の進歩が大いに貢献しているが、その自動化には米国とヨーロッパでは考え方が相当異なるようだ。飛行機の事故は、離陸後の3分間、着陸前の8分間に集中しているといわれる。速度が遅いため飛行が不安定であることに加え、パイロットの作業が集中的に発生するため、パイロットの錯覚や判断ミス、作業ミスも少なくはない。
反対のように感じられるかもしれないが、ヨーロッパの自動操縦システムの考え方は、「緊迫した状態で人間より機械に頼ろう」というものであり、対して「いざとなれば人間の判断優位」が米国の考え方である。10年ほど前、パイロットが誤って“着陸やり直し”の位置にレバーをセットしていたため、着陸するつもりで機首を下げる操作をしたパイロットと、“着陸やり直し”指示のため機首上げ操作をする自動操縦システムの間で対立が続き失速墜落してしまったヨーロッパの飛行機の事故が、名古屋空港であった(その後、この飛行機のシステムは改善はされたらしいが、思想まで変わったという話は聞かない)。
一方、操縦レバーを引くと簡単に自動操作が解除される構造になっている米国の飛行機では、簡単に自動操作が解除されてしまうが故の事故もあると聞く。一概にどちらの考え方が正しい、間違っているといい切れる問題ではないが、いずれにせよ完全な自動化は大変難しく、不完全な自動化は異常事態には人間にとって大変扱い難いものになる。設計者の見識と自制が求められる問題である。
ITの分野でも、例えばパソコンのオフィスソフトの一見便利そうに見える“オート××”といった機能も、思わぬことを勝手にやってくれるので、大変苦労する場合がある。アプリケーションシステムのデータ入力でも、入力量を減らすユーザーサービスのつもりで、単に「技術的にできるから」と既存データの再利用などを見よう見まねでやっていると、逆に問題を作ってしまう可能性もある。いろいろな考え方や背景を持つ、いろいろなレベルのユーザーがコンピュータにアクセスしてくる。設計者が考えているのと同じ発想や行動をしてくれる保証はない。ビジネス用のシステムには、カッコよさより「堅実性」が大切だ。こうしたことを認識しておきたい。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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