有能なプロジェクトマネージャを育てるには(1):何かがおかしいIT化の進め方(28)(3/3 ページ)
団塊の世代が定年を迎えようとしている。しかし、団塊の世代が持っているノウハウは若い世代に受け継がれているのだろうか。今回から3回にわたって、2007年問題ともいわれているノウハウ継承の問題について、特にプロジェクトマネジメント能力の育成に焦点を当てて考えていく。
システム開発方法論がプロジェクトマネジメントの前提
マネジメントの対象となる開発方法や作業のやり方が明確でなければ、そのマネジメントの方法や仕組みは具体的にはできない。システム開発のプロジェクトマネジメントの前提条件はシステム開発方法論(注4)にある。
プロジェクトマネジメントの知識を仕事に生かせるレベルのものとして身に付けるためには、情報システム開発の方法論とマネジメントの仕組みが一体のものとして、頭の中に整理できていることが必要である。プロジェクトマネージャの立場に立てば、システム構成方法(ソフトウェア工学)は、情報システム開発方法論を具体的に裏付けるPDCAの“D”の内容に相当する。
なお、マネージャも1人のITのプロとして、1〜2の代表的な開発方法論をマスターしておくことが必要だ。キチッとマスターしておけば、問題や使う技術に合わせた応用・修正(モディフィケーション)は比較的容易にできると思うがどんなものであろうか。
10年〜15年使う可能性の高い基幹システム(注5)に対しては、マネジメント問題として、確立されて久しいフェイズ管理方式(結果的に一種のウォーターフォール型)とデータ中心設計に代わる実用的な方法は、いまあるのだろうか。データベースの構成とプログラムロジックを実体の写像としておくことは、どのような方法を取るにせよ必要であるし、適切なサブシステム分割、プログラム分割やプログラムの再利用は昔からある課題だ。こんなことが実施段階でキチっとやれていないことに起因する問題を、開発方法論の問題ということにしてしまっていないだろうか。
また、IT屋は無意識のうちに技術指向になりがちだ。経営陣から見ると枝葉にすぎない新技術を、技術への思い入れから幹と見間違えないような注意が常に必要だ。
なお、オブジェクト指向とこれをベースとする仕組みが、ソフト問題の救世主という意見があるが、頭の固くなったオールドタイマーの筆者には、十分理解・評価ができていない点をお断りしておきたい。1ユーザー企業にとってではなく、多数の顧客を対象に同種のシステム開発や保守を念頭に置くシステムインテグレータには魅力のある方法かもしれない。しかし、これはマネジメントというより、開発方法論を具体化する技術レベルの問題のように思う。
マネジメント力の習得に大切な“場”の設定
プロジェクトマネジメント能力の育成には、適切な“場”が必要になる。最も有効な場は、適切な指導やアドバイスが受けられる実際のプロジェクト?OJT(On the Job Training)だ。
しかし、実際の現場では時間に追われ、トレーニングの面からはもう一歩突っ込んでおきたいことがあってもなかなかできないという現実もあるし、適時に能力向上のためのアドバイスが得られる環境にあるとは限らない。
Off the Job Trainingでは、同じ問題意識を持つ人たちの間で、共通の課題を設定して行う共同作業と討論が有効だと思う。鍵は心の「集中の度合い」、つまり、どこまで打ち込んで一生懸命になれるかにある。しかし、ここでできるのは判断のための知識やノウハウの向上であって、マネジメントの大切な要素である決断力や徹底的な実行力は、やはり実際の修羅場をくぐらないと身に付きにくいようだ。
次回予告
プロジェクトマネジメント能力育成の第2回目となる次回は、システム開発のプロジェクトマネジメントをPMBOK(the Project Management Body Of Knowledge)を参考にして考えてみる。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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