有能なプロジェクトマネージャを育てるには(3):何かがおかしいIT化の進め方(30)(4/4 ページ)
前回、前々回に引き続き、2007年問題ともいわれているノウハウ継承の問題について、特にプロジェクトマネジメント能力の育成に焦点を当てて考えていく。今回は特にプロジェクトの運営について考える。
終わりに代えて――PERTについて
IT関係者は、PERT(Program Evaluation and Review Technique:工程計画)が嫌いなようだ。日進月歩している技術を適用することへの思い込みからか、「やってみないと分からない」が言い訳になっているような気がする。
やってみないと分からないとは、「できることややるべきことはすべてやった終わりに代えて――PERTについて人事を尽くした人」がいう言葉だと思う。事前に十分考え、苦労して準備していれば、うまくいけば強い自信につながる(自信はプロジェクトマネージャにとって大切なコンピテンシーだ)。うまくいかなければ、猛烈な反省や原因解明などを通じて、次の成功への大きな経験・知識につながっていく。
十分に考えなかったり、準備をしないでやっている人は、うまくいってもいかなくても、結果の評価ができないから経験は将来への有用な蓄積にはならない。毎回毎回ゼロからの出発になってしまう。
PERTの概念や特徴を、各作業の所要時間の「最早・通常・最遅」の3点見積もりと、プロジェクトの所要期間の統計的な予測とする考え方が昨今あるようだが、基本は各作業の前後関係の論理的表現にあると筆者は思う。
PERTのネットワークを見れば、各担当者は自分の担当する作業の「全体から見た位置付け」が分かる。その意味で、PERTはコミュニケーションツールになる。スケジュールの管理の問題に対しては、クリティカルパスの明確化がこのツールの特長だ。重点管理対象が明確になっていることが大切なことなのだ。
システム開発プロジェクトの標準的/一般的なPERT図が、時々書籍で紹介されている。この数十程度の作業(アクティビティ)で表されたネットワークを基に、目前の具体的なプロジェクトのPERT図を描いてみると、恐らくアクティビティが数倍になると思う。しかし、ここまではあまり苦労しないでできるが……。まだ目前のプロジェクトの特徴を表現するレベルに至っていない。
PERTを役に立つレベルにするには、もう一段階ブレークダウンする必要がある(アクティビティの数はさらに数倍〜十倍にアップする)。
しかし、ここから先は、例えば、開発するシステムの構成などをある程度具体的に頭に描いてみないとブレークダウンできない。全体を通じてキーとなる問題は、具体的にどの辺りにありそうか、その対策は……、などなど、「やってみないと分からない」としていることの多くに対して、事前にその見通しを立てる、方針として決める……、といったことをしないと図が描けない。
実はここにポイントがある。マネジメントに携わる幹部社員には、洞察力(感と勘)は必須の能力だ。この能力は、分からないことを考え抜き、これしかない、これでやってみようといった覚悟をして、「マネジメントが先行して方針や枠組みを決める(マネージャがリスクを負う)仕事のやり方」の中でしか育たないのだ。
もし、「やってみないと分からない」とトランプのカードめくりになっているような方がおられたら、小さなところからでも勇気を持って一歩を踏み出していただければと思う。PERTをこんな“場”を提供するツールとして考えてみるのはどうだろうか。
前々回、前回に述べてきたPMBOKやプロジェクト構造のモデル作りも、PERTも、自分たちの能力を自ら育成していくための“場”や“土俵”として考えていただければ幸いと思う。プロジェクトをうまく運ぶ鍵は、これらのツールではなく、人の頭と心の中にある。
この十数年、われわれはシリコンバレーやウォール街的な競争原理や、米国流個人主義の悪しき側面に振り回されてきたのではないだろうか。誰かが得した陰で、その分だけ損した人の出るゼロサムの“量”の競争社会がある。一方で、誰かが優れた考えを出せば、それに負けじとさらに良いアイデアを出そうと努力して“質”を競う、お互いが切磋琢磨(せっさたくま)する協働(コラボレーション)もある。いま、必要なのも、またわれわれ日本人が得意としてきたのも後者のはずだ。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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