コンプライアンスを語る前に考えてみること:何かがおかしいIT化の進め方(35)(3/3 ページ)
昨今、官僚の収賄事件や天下り問題が話題になる。これらの背景には、社会全体の倫理観の喪失がある。この問題は「対岸の火事」ではなく、「他山の石」として考える必要があるのではないだろうか。
定年後の天下り
定年や定年間近で退社する人は、その後をどう考えているであろうか。民間(ユーザー)企業のIT部門の人たちにとって、定年後の職探しはなかなか難しい面がある。一般の企業ではITは専門的分野と認識されているし、また会社として社外のIT人脈はほとんどないのが普通であろう。
いきおい本人、あるいはIT部門自らがこの問題の中心にならざるを得なくなる。
真偽のほどは定かでないが、ある会社の部門長が定年間近にビッグプロジェクトの発注を行い、そのままそのベンダに天下ったという話を聞いたことがある。背景や内実は分からないが、疑念を持たせる行為であることは間違いない。真似をする部下や後継者が出てきても当然だろう。
ベンダがユーザー企業のOBを受け入れる場合、その狙いは大きくは次の3点であろう。1点目は、真にその人の能力を買って招き入れるという、理想的でまったく問題のないケースだ。
2点目は、その人のいた企業がその業界の中で一定の位置にいて、さらにIT分野で秀でた点があった場合、秀でたノウハウを使って、その業界のほかのユーザーへの商売を有利に展開したいといった場合である。世話になった企業で得たノウハウを、かつてのライバル企業に伝えるわけであるから、当人に多少なりとも引っ掛かる面があってしかるべきだと思う。
3番目は、その人間を通じて元の会社との取引を拡大したり、有利に展開したいという場合である。これは、その後の取引で不明瞭なことが起こらないよう、最大限の注意が必要だ。これをきっちりやると、天下りを受け入れたベンダにはあまりメリットがなくなるかもしれない。
また、当人は1点目のつもりで天下ったものの、相手の求めているのは2点目や3点目であったというケ−スもあるようだ。世の中甘くない。
大係長とマネジメントのプロ
従来から、定年退職者であれリストラで退職させられた人であれ、大企業の管理職はプライドが高く、その一方で外で通用する能力を持っていないとの理由で、再就職が難しいといわれてきた。お役所と同じなのだ。
大きな組織では管理職になると、実務から次第に遠ざかり人事管理のようなことにエネルギーがシフトしていく場合が多い。調整・折衝もごく限られた社内に限定されるから、お互い「なー、なー」の関係のなかでは、真の折衝力や調整力が育つわけでもない。社外とは多くの場合、買い手の立場だ。うまくやったつもりでも売り手とは真剣さが違う。逆の立場になった場合の力は付いていない。
管理職という同じ職種であっても、自ら経験してきた実務の延長、つまり、その仕事での先輩というだけで、人の上に立っているタイプの管理者がいる。その昔、組織が社長・部長・課長・係長・一般といった時代に、そんな課長や部長は“大係長”と陰で呼ばれていた。仕事はもっぱら、人の世話であり、人柄が重んじられた。清濁併せのみ、自分から方針や戦略を打ち出すより、何事も「うん、うん」と部下に任し、みこしにうまく乗るのが大人物とされた。仕事の内容の変化が少なく、また人の動きも少ない時代にうまく機能したやり方である。
しかし、いま管理職として求められるのは、マネジメントの専門家だ。扱う仕事が変われど、人が変われど、うまくマネージしていける能力が求められている。プロジェクトマネージャの能力にプラスして、組織を維持発展させていくための能力、方針や戦略を的確に設定できる能力などが必要なのだ。こんな能力が身に付いていくような組織運用や仕事のやり方をぜひ考え、実践されるよう期待したい。いま一度「プロフェッショナルとは?」という問題を考えてみる時期だと思う。
具体的な問題例……謝金の処理をどうしてますか?
要するに、問題は“私”の利益のための“公”の利用ともいえる、一種の意識的な公私混同である。上が大きな公私混同をやれば、下は上を見習って相応のレベルでの“公私混同”を始める。
随分前の話であるが、筆者が現役のころ、若い人たちが世の中を知り、またプロフェッショナルを目指す上での教育の一環として、社外の研究会への参加、フォーラムなどでの発表、セミナーで講演をするなど、一種の他流試合を勧めていた。するとベンダのマーケティング活動の支援のような内容の発表をする人が現れたりして、慌てて社外での発表に関するルールを決めたことがある。
研究会の活動にしろ、発表や講演の準備にしろ、発表や講演自体が勤務時間帯に行われる。遠隔地で開催される催しの場合は、旅費や宿泊費もかかってくる。すべてを業務の一環ととらえることにし、内容は事前に課長レベルで確認することにした。
業務だから出張旅費も日当も出る。その代わり講師謝金などは、営業外収入として会社に入れてもらうことにした。業務として多大の時間とお金を使って準備・発表して、謝金は個人の懐に入るのでは、筋が通らないと考えたからだ。会社のリソースが個人のアルバイト収入に使われるのではまずい。別のところで同じようなことをやられても、とがめようがなくなる。
年末になり、問題が出てきた。セミナー主催者から個人あてに支払調書(源泉徴収票)が送られてきた。相手側は会社に対してではなく、講師個人に支払ったとして処理していたわけだ。支払先を最初から会社あてに頼んでおけば問題はないのだが、この種のお金は、個人への支払いが世の中では通常の扱いになっているらしい。
さて、皆さんの会社では、講演の謝金はどのような扱いにされておられるだろうか。社外で発表などをする人、できる人はどうしても偏る。その結果、一部の人が会社のリソースで結構な額のアルバイト収入を得ているのと同じことになる。些細なことでも理不尽なことを容認していると、同じ種類のことを別の分野で始める人が出てくるものだ。より高額、より悪質であっても「あれと同じことだ。あれは良くて、なぜこちらは悪いのか?」といわれれば、反論できなくなる。
周りを見渡して、「会社の資源を使って私的な利益を得ている行為」はないだろうか?
数多くあるはずなのである。些細な例では、その会社の社員である信用で、飲み屋に“つけ”が効いている場合もある。子会社に出向した途端に、馴染みの店での待遇が変わったという人がいた。日本の社会は個人ではなく、組織に対する信用で動いている面がある。どのあたりまでが許容範囲なのか、世代間、グローバル化など価値観が多様化するなかで明確にしていく必要がある問題だろう。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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