その考え、本当にあなた自身のものですか?:何かがおかしいIT化の進め方(38)(3/3 ページ)
みんなで同じことをやると、それが状況にかなっていれば成果を発揮するが、一歩間違えれば全滅になりかねない。自ら考えるより右にならえ──日本が繰り返してきた行動パターンのツケが、いまあらゆる分野に影を落としつつある。
こんなことでよいのだろうか?
「追い付け、追い越せ」を達成し、次の目標を失った日本において、国や企業も、企業のIT関係者も、それぞれの将来ビジョンを設定することが喫緊の課題である。 そのためにいま求められているのは、与えられた問題について精緻に分析したり回答したりする能力以上に、「的確に問題を設定できる能力」と「そのための能動的発想」であると思う。
問題を的確に設定できていなければ、後の作業は水泡に帰してしまう。それだけならまだしも、誤った方向に組織を動かすことにつながってしまう。 「創造」や「応用」とは、幅広い経験から得た知識の組み換えから生まれる。しかし現在、そうした能力を伸ばす教育・訓練の機会は極めて少ない。
私立小学校の入試にこんな問題が出るそうだ。ゾウ、キツネ、ネズミのそれぞれを天秤ばかりにかけた3枚の絵が示されている。問題は「3匹の動物を重さの順序は?」というものである。常識的に考えればゾウ>キツネ>ネズミである。しかし、問題として記された絵の中においては、キツネはゾウより重く、ネズミはキツネより重く、ネズミはゾウより重い。答えも「一番重いのはネズミ、次いでキツネ、ゾウ」である。
出題者としては、この問題を設定した意図を、「先入観にとらわれず論理的に発想するため」とでもいうのかもしれない。しかし私なら、「問題が間違っている」か、「回答はゾウ、キツネ、ネズミの順。ただし、絵のはかりは故障している」と答える。
中学、高校、大学の入試問題を眺めてみても、トリッキーな問題が実に多いように思う。幼いころからこんなパズルのような入試問題に取り組み、その解き方の手順を覚えることがすべて──そんな価値観の中で育てられたら、いったいどんな人間になってしまうのだろう。
新規採用に際して、最も重要視する項目は「学力」ではなく「人間性」だと多くの企業はいう。企業は学校教育に期待していないわけだ。このミスマッチは社会的に大きな損失である。
過去10年をもう一度、振り返ってみよう
少し前の話になるが、現役時代は東西本社制の会社にいたため、毎週水曜・木曜は東京のオフィスに出勤する生活を送っていた。そんなこともあって、東京の研究会や会合に出席する機会も多かったのだが、最初のころは面白かった会合が、次第に億劫に感じるようになっていった。多少いい過ぎかもしれないが、「いうことがみんな同じだ」がその理由であった。
東京は巨大な情報流通都市だ。誰かがどこからか持ち込んだ話が、ベンダ、有識者、メディアのトライアングル連合によって、あっという間に、消費者(買い手)に向けて広く伝播される。周囲の誰ものいうことが同じであれば、深く考えずにそれが正しいことのように思えてくるものだ。誰かが実際にやりだせば、本当は「よそはよそ、うちはうち」であるべき問題も、やらないと世間に遅れを取るような気持ちになりがちだ。
過去十数年を冷静に振り返ってみて、自分たちの視野や興味の範囲がどのようなものであったか、1度考えてみてはどうだろうか。きっと、いままで見えていなかったものが見えてくるように思う。人間10年も同じ状況の中にいると、それが当たり前になってしまい、問題意識そのものが消滅しているものである。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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