いまあらためて確認したい、情シスのイロハ(前編):何かがおかしいIT化の進め方(47)(2/2 ページ)
IT現場の課題や悩みは尽きることがない。問題は、その悩みや課題が解決されることも、時代とともに変わっていくこともなく、いつまでも同じ問題を引きずっていることだ。今回は基本に立ち返り、情報システム部門としてあるべき発想・行動のポイントを整理してみた。
「発想と行動へのポイント」〜システム化企画段階(後編)〜
情シスのイロハ その6
経営とITをつなぐのは、手続きや技法ではなく“人”である。効果を出すためには、やる人の強い意志とそれに基づく発想や行動が必要になる。その“人”が組織の中で責任を果たすためには、それに応じた権限が必要である。
従って――
- 情報化の仕事の中でやらなければならないこと(責任)と、その実行に必要な権限は実質的に誰(どのポジション)が持っているかを整理してみよう。
- IT部門は、実質的に「何に責任を持つべきなのか、持てるのか」を、よく考え直してみよう(権限のないことにまで、責任を求められるようなことをしてはいないだろうか?―――もしそうなら、IT部門の説明・啓蒙不足である。逆に権限を捨てることで、果たすべき責任を放棄していることはないだろうか)。
- 情報化の企画案は、的確な方向のたたき台を作り、ユーザー部門を巻き込んで検討し、お互いに協力してまとめ上げよう。
- プロジェクトの起案、プロジェクト責任者は、当該ユーザー部門の長にお願いしよう。
- ひと口に「ユーザー」と言っても、立場の異なる人がたくさん含まれる。問題ごとに「該当するユーザーは誰か」を考えよう(例えば、端末の操作手順を偉い人に聞いても分からないし、組織の形態変化にかかわることは担当者レベルでは判断できない)。
- 情報化/IT担当は、“プロジェクトの事務局/裏方”として、その内容をしっかり支えよう。関係者間の調整やプロジェクト管理の実務面、それを支える情報システムに責任を持とう。
情シスのイロハ その7
情報は、組み合わせによって価値を増す特性を持つ。1つ1つが縦割となっている情報システムも、将来的には横断的な情報活用ができるよう、データやソフトウェア/ハードウェアなどの整合性を維持できる仕組み/ルールが必要である。
そのために――
- 最初は粗くても良いから、自社の情報化のビジョン(理念・方針)、戦略を考えよう。
- それを基に、情報化(業務と情報システム)のグランドデザイン(中長期の全体構想)を、やはり粗くても良いので、描いてみよう。それを眺めていると、いろいろなことが見えてくるはずだ。
- 全社のITを統括するIT部門は、将来を含めた全体最適化のための指針を作ろう(この問題は1つのプロジェクトの中で考えられる問題ではない)。
情シスのイロハ その8
ITのテクノロジのレベルの高さ、新しさと、経営上の効果との間に相関関係があるわけではない。ITの技術は、これを用いて製品やサービスを提供するベンダにとっては日進月歩(日変月変?)であっても、ユーザ側にとって、自社の業務プロセスを抜本的に変えるような技術は数年に1つぐらいしかない。
従って――
- 技術の進歩は、経営上の効果ではなく、価格やコストで評価しよう。
- 標準化によるトータルコストの削減や、信頼性向上に注意を向けよう。
- 問題の本質を見定めて、長持ちするシステムを考えよう。寿命が2倍なら実質的にコストは半分。良いシステムを考える余裕もできる。
情シスのイロハ その9
「ITは先端技術」「先端分野」という考え方はやめよう。一部を除けば、もはや先端技術でも先端分野でもない。また、「ITは特別」という考え方も捨てよう。「ITのような後発分野は、管理の考え方や方法論の整備ができていない」と認識しよう。それらの答えの多くが先輩分野にあることを理解しよう。
従って――
- 社会人、企業人としての常識的発想と、教養を身に付けよう。
- 技術評価力を養おう。「技術」と「商品仕様」の違いを知ろう。マニュアルに従って何かを設定したり、登録したりする作業と、幅広い分野への洞察に基づいて何らかの価値を創出する“本物の技術”との違いをはっきり認識しよう。
- IT以外の分野に“もっともっと”関心を注ぎ、多くを学ぼう。そこには先輩分野が得てきた「IT分野にも共通する問題」の答えがある。
情シスのイロハ その10
「できない」「難しい」「問題だ」という言葉は、相手の心を萎えさせる。「できない」「難しい」のは、力がないのだと疑われるし、「できない」「難しい」理由を100並べてくれるより、1つだけ解決方法を示してくれる方がよほどありがたいはずなのだ。
従って――
- 「やろうとすれば、こういうことになる」「やるためには、こういう問題を解決する必要がある」などと答えれば、相手が判断したり、解決策を考えてくれたりする。
情シスのイロハ その11
説明は、必要性(何が、何のために必要か、その効果の程は?)から入ろう。必要性を理解できて初めて、人は内容や方法を知りたがるものである。内容や方法論から、必要性を想像したり判断することは、まず期待できないと考える方が良い。
従って――
- 自信のない企画、内容のない企画の企画書は内容が冗長になりがちだ。企画書は、問題の本質や骨格に絞り込み、全体を1〜2ページにまとめよう。大切なことが抜け落ちないようにするのと同じかそれ以上に、余計なことを書かないことが大切である。
- 1〜2ページにまとめて、その企画独自の特徴や具体的なポイントが浮かび上がってこないなら、それはまとめ方の方向を間違ったか、企画の詰めが甘いからだ。一から考え直してみよう。
- プレゼンテーションの場は、説明する側も聞く側も、お互い“内容の真剣勝負”なのだ。画面作りの奇抜さを競うコンテストではない。PowerPointのアニメや動きを付ける機能は、聴き手の理解のための注意力を損ねかねない。色の使用も最小限にとどめよう。
さて、いかがだっただろうか。もし思い当たることがあるようなら、ここに書いたことを自分の中でそしゃくしたうえで、ぜひ心掛けてみてほしい。次回は「システム化計画・実施段階」のポイントの紹介をしたい。
profile
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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