スマートフォンとネットワークの質が問われる――通信事業者5社の年頭所感
ドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス、UQのトップが年頭所感を発表した。スマートフォンへの本格的な移行や通信の高速化が進む中、各社はどのような戦略で2012年の事業を展開していくのだろうか。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス、UQコミュニケーションズの5社が2012年の年頭所感を発表した。
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、各社の通信網も大きな被害を受け、災害時における携帯電話のあり方が問われた1年だった。モバイル市場に目を向けると、2011年に発売された新機種の半分以上がスマートフォンであり、ケータイ(フィーチャーフォン)からスマートフォンへの移行が本格的に進んだ。ドコモはXi、KDDIはWiMAX、ソフトバンクモバイルはULTRA SPEED対応スマートフォンを投入するなど、モバイルインターネットの高速化も進んだ。このような情勢の中、各社はどのようなビジョンで2012年の通信事業を展開していくのだろうか。なお、ウィルコムは年頭所感を発表していない。
ネットワークの高度化が喫緊の課題――NTTドコモ
NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏は2011年について「東日本大震災が何よりも重い出来事」と振り返り、「安心・安全の確保」の重要性をあらためて認識したと述べている。今年もさらなる安心・安全に向けたさまざまな取り組みを行うとした。
2011年のドコモにとって大きなトピックの1つが、J.D.パワー社 顧客満足度調査の個人部門で1位を2年連続、法人部門では3年連続で1位を受賞したこと。2つ目が、スマートフォンへの取り組みを加速させたこと。2011年度冬春モデルでは計17機種のスマートフォンを投入し、うち4機種はXiに対応する。スマートフォンのコンテンツ事業にも注力し、dメニューとdマーケットを開始した。3つ目が「中期ビジョン2015 ~スマートライフの実現に向けて~」の策定。クラウドと連携させることで「モバイルのサービス進化」と「産業・サービスの融合による新たな価値創造の取り組み」を加速させる。
2012年は「お客様満足度のさらなる向上」と「中期ビジョンの実現」を目指す。お客様満足度については、スマートフォンの端末、販売、サービス、料金、アフターサービス、エリアにおいて、全社を挙げて取り組みを加速させるとした。一方で、2011年8月と12月には、スマートフォン向けISPのspモードで大きな通信障害を起こしてしまった。山田氏は事態を重く受け止め、「スマートフォンに適したネットワークの高度化を喫緊の課題と位置づけ、昨年の反省も踏まえ、スマートフォンの拡大に伴って新たに発生する事象にも万全の対策を行う」と述べた。
中期ビジョンの実現に向けては、まずXi対応スマートフォンを充実させるほか、Xiのサービスエリアを2012年度末までに全国主要都市に拡大し、2014年度末までに人口カバー率約98%を目指す。サービス面ではdメニューやdマーケットに加え、同時通訳電話や高度な音声エージェントなどのクラウド連携サービスにも注力する。アライアンス企業と協業を進める。その1つが4月に開始予定のスマートフォン向け放送局「NOTTV(ノッティーヴィー)」で、NOTTV対応端末を充実させ、販売促進を積極的に行う構えだ。海外に向けては、M2Mなどのプラットフォームサービスや、金融・決済などの地域特性に応じたサービスを展開する。
2012年に設立20周年を迎えるドコモ。山田氏は「スマートライフの実現に向け、本年も全社一丸となって取り組んでいく」と力を込めた。
競争力は着実に回復している――KDDI
2011年の業績は「確実に回復傾向にある」とKDDI代表取締役社長の田中孝司氏は振り返る。「純増数、MNP、解約率、ARPUは一部で課題が残ったが、上期はおおむね達成した。特にMNPは当初の目標を6カ月も前倒しして9月に純増に転じるなど、当社の通信事業者としての競争力は着実に回復している」と手応えを感じたようだ。ただ、下期に入ってからは「厳しい状況になっている」とのことで、「ここで踏ん張ってこそ、新しい時代に行けると思います。みんなで力を合わせて乗り越えましょう」と社員に呼びかけた。
2012年に向けては「移動通信事業のモメンタム回復」と「固定通信事業の増収増益の確立」を目指し、同社が掲げる「3M戦略(マルチデバイス、マルチユース、マルチネットワーク)」を本格的に展開する元年になるとした。
社員に向けては、2012年のテーマを「真の『ジブンゴト化』と『スピードアップ』が輝かしい未来をつくる」とし、具体的には「目標達成に向けた深掘り」「組織の壁を越えた部門間連携」「新しいことへのチャレンジ」「外部を常に意識した取り組み」を挙げた。「『未来は、選べる』は、お客様に対してだけでなく、社員の皆さんに対してのメッセージでもある。1人1人が一歩踏み込んだ仕事をしてほしい」と呼びかけた。
世界の情報革命をけん引していきたい――ソフトバンク
ソフトバンクグループ代表の孫正義氏はまず東日本大震災について触れ、「被災地の方々のお話をお伺いするにつけ、情報通信事業がいかに人々のライフラインになっているかをあらためて痛感した。通信網の整備は社会的使命である、との思いを全社で再認識し、さらに充実した通信網の構築に取り組んでいく」と決意を新たにした。
孫氏の根底にある「情報革命で人々を幸せにする」という想いは2012年も変わらない。「いつでもどこでも誰とでも高付加価値の情報をやり取りできる、本格的なモバイルインターネットの時代が現実のものとなりつつある。昨年もインドや中国のインターネット企業などと資本提携したが、成長著しいアジアを中心としたパートナー企業と志を共有し、手をとり合って事業を展開していくことで世界の情報革命をけん引していきたい。情報革命を通じて、人々の悲しみを少しでも減らしたい、そして喜びを大きくしたい」と決意を語った。
3月にLTEを開始、革新的な商品やサービスも提供する――イー・アクセス
イー・アクセスの代表取締役会長の千本倖生氏は、東日本大震災を受け、「『すべての人に新たなブロードバンドライフを』という当社の企業理念の重さをあらためて痛感した」と語った。
イー・アクセスは2011年3月31日にイー・モバイルを吸収合併。「2011年3月期実績では、高収益事業ADSLをベースとした健全な財務基盤とともに、モバイルデータ通信事業が着実に顧客基盤を伸ばし、連結売上高と当期純利益では過去最高を更新した」と千本氏は胸を張る。イー・モバイルの契約数は11月に累計370万を突破。端末についてはPocket WiFiの高速モデル「GP02」、国内最小・最軽量のAndroidスマートフォン「Sony Ericsson mini」、大容量バッテリーを搭載した「GS02」など、イー・モバイルならではのユニークなモデルを発売できたとした。
2012年は、データ通信を核としたサービスのさらなる高速化を目指す。3月には下り最大75MbpsのLTEサービスの提供を開始し、早期に112Mbpsへの高速化も目指す。また、「固定通信とモバイル通信を融合させた革新的な新サービス・新商品も積極的に提供する」ことも約束した。
年度末200万契約の達成も視野に――UQコミュニケーションズ
UQコミュニケーションズは2011年、「より速く、より広く、より便利に」を目指してWiMAX事業に取り組んできた。7月には世界で初めてWiMAX 2(2013年提供予定)のフィールドテストを行い、下り100Mbpsを超える速度を実現した。12月28日には上り速度を10Mbpsから15.4Mbpsに向上させた。エリア整備にも注力し、特に要望が多かったという地下鉄では、都営地下鉄三田線の大手町駅でWiMAXサービスを12月26日に開始した。端末については世界最軽量、最薄を実現したモバイルノートPC「Ultrabook」や、WiMAX内蔵タブレット「GALAPAGOS」が発売された。2回線目を割り引く「WiMAXファミ得パック」を12月に提供したことも記憶に新しい。
こうした施策が功を奏し、2011年12月末の累計加入者数は160万を超える見込みで、「年度末200万契約の達成も視野に入ってきた」と野坂氏は手応えを話す。“エリア全力宣言”で公約したとおり、全国実人口カバー1億人を2011年度末に達成する見込みだ。野坂氏は「『次世代インターネットの本命』としてのポジションをさらに確固たるものにしたい」と意気込みを語った。
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