イー・アクセスは3月から、広域・高速モバイルブロードバンドサービスの実現に向け、フィールド実験を開始する予定だと発表した。TD-SCDMA(MC)方式を採用して、数Mbpsの無線通信サービスを提供したい考え。無線通信でVoIPを行えば、定額制のIPモバイル電話サービスが登場する可能性もある。
具体的なビジネスモデル、料金、開始時期などは未定。ただし、「1年ほど実証実験を行った上で、2年後に東京、大阪などメトロポリタンエリアから開始、と考えてもらうのがいいだろう」(イー・アクセスのCEO、千本倖生氏)。
TD-SCDMA(MC)とは、時分割多重を採用したCDMA方式であるTD-CDMA(モバイルのキーワード参照)を改良すべく、複数の技術を追加したもの(本日掲載の別記事参照)。携帯キャリアが採用するCDMA方式に比べ、音声通話よりも高速データ通信に重心をおいた無線規格となっている。
韓国では既に実証実験が行われており、時速90キロで走行する車で、1.8〜2.2Mbpsの通信速度を実現できることが確認されている。「東京のように、ビルが乱立する中で、どのくらい速度が出るかはこれから実験する」(千本氏)というものの、ソウルは東京と比較的類似した街並みであることから、2.5〜3Mbpsが実現できるのでは……との予測も聞かれた。
焦点となるのは、データ通信を利用してVoIP通話ができるかどうか。現状のIP電話は、通信速度として80Kbpsもあれば、まずは満足がいく品質で通話できる。実際、イー・アクセスの新規事業企画本部副本部長 兼 技術部長、諸橋知雄氏も、「(VoIPは)技術的には、問題ない。ユーザーニーズに応じて考える」としている。
これが実現すれば、NTTドコモなどの携帯キャリアをおびやかす“IPモバイル携帯”の誕生となる。千本氏は「携帯キャリアのように、端末を作る気はない」と話しており、PDAにデータカードを挿すかたちで通話する可能性もある。
気になるのは、やはり定額制を実現できるかという点だろう。前述のとおり、イー・アクセスではサービス料金の詳細を明らかにしていない。
ただ、千本氏は定額のIPモバイル電話実現に意欲を見せる。「従量課金ではだめだ。TD-SCDMA(MC)は、定額サービスを実現できる可能性が、より高い技術」と意気込む。
これに続けるかたちで、諸橋知雄氏が「実証実験をやらないと、何ともいえない」との慎重な姿勢を見せたが、千本氏はこの発言に重ねて「しかし、従量課金ではやる意味がない」とコメント。事業者として、目指す方向性を明確にした。
今回発表されたTD-SCDMA(MC)では、データ通信をメインに、音声通話も実現できる通信方式。一方、携帯キャリアはW-CDMAなど、音声通話ベースで、より高速な通信も実現できるサービスに取り組んでいる。両者は、別の方向から同じゴールを目指しているようにも見える。
TD-CDMAをめぐっては、イー・アクセスのほかに、IPモバイル、NTTコミュニケーションズ、ソフトバンクBBなども実証実験を行う意向を示している(記事参照)。ソフトバンクBBも、明言こそしないものの、IPモバイル電話の実現を目指しているとの見方は根強い。「ADSL事業者が、携帯電話分野へ進出する」という構図が、いよいよ現実味を帯びてきた。
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