iモード登場から5年。携帯インターネットの発展は着メロ、壁紙、アプリなどデジタルコンテンツと共にあった。そのビジネスモデルが、今、大きな転換期を迎えようとしている。
「ゲートウェイ時代の終焉」──。転換期を象徴するかのように、こんな表現を使うのは、KDDIの執行役員である高橋誠氏だ。
iモードスタート当初、現在のiモード事業部が「ゲートウェイビジネス部」と呼ばれていたのを覚えている人も多いと思う。その名の通り、もともとゲートウェイ(具体的に言えば「iモードメニュー」だ)を使ったビジネスの一例がiモードだった。
通信キャリアが用意したゲートウェイ=ポータルにユーザーを集中させ、課金代行機能を付加し、デジタルコンテンツを販売する──。このビジネスモデルは、iモードだけでなくEZwebでもボーダフォンライブ!でも変わらない。
キャリアのインターネット接続サービスの根幹は、このゲートウェイであり、“携帯コンテンツビジネス”の成功は、いかにゲートウェイに密接に関わるかにあった。
それは、いわゆる“公式サイト”の存在の大きさを見れば一目瞭然だ。携帯コンテンツの急成長が話題になったときにささやかれた「公式サイトにならないと儲からない」という言葉。建前では“オープン化、オープン化”と言ってはいても、ゲートウェイにユーザーを集めて集中管理してきたのが実態だ。
ところが、このところ「ゲートウェイをスキップするような技術をキャリアが容認している」(KDDIの高橋氏)という動きが目立ってきている。キャリア自ら、5年間かかって組み上げてきたゲートウェイビジネスの仕組みを壊しにかかっているのだ。
携帯内蔵カメラの活用法として、ドコモをはじめ、ボーダフォン、KDDIが最近積極的に推進するQRコード読み取りもその1つ(2003年8月12日の記事参照)。QRコードに含まれたURLに、ユーザーがダイレクトにジャンプすることで、ゲートウェイを通らずにサービスを受けられることになる。
ドコモがこの夏から展開するFeliCaサービスも同様だ(4月15日の記事参照)。FeliCaアプリケーションのダウンロードには通信を使うものの、実利用シーンではパケット通信は特に必要ない。“リアルとの連動”とは、実のところゲートウェイを介さずに、ユーザーにサービスを提供することを意味している。
こうした仕掛けによって、“Webにアクセスしてゲートウェイを通過する”必要は確かになくなる。そして“生活インフラ”として、携帯がますます便利になるのは間違いない。しかしここには、これまでのビジネスの基盤だったゲートウェイをスキップするという、大きなモデル転換が見て取れる。
このリスクを敏感に察知しているのが、着メロ・壁紙など、いわゆるデジタルコンテンツを公式サイトで提供してきたコンテンツプロバイダだ。基本的に、キャリアが作ったゲートウェイビジネスのプラットフォームの上でコンテンツを展開してきただけに、この方向転換にとまどいを隠せない。「FeliCaで何かサービスを……といっても……」というのが、多くの着メロ/壁紙提供元の本音だ。
ここに来て、キャリアがゲートウェイを使わない携帯利用法を提案し始めた背景には、デジタルコンテンツの限界がそろそろ見え始めてきたことがある。
デジタルコンテンツビジネスの成長は、端末とネットワークの性能アップに歩調を合わせてきた。着メロが、4和音から16和音、64和音、そして着うたへと進化してきたのもその一例。さらに分かりやすいのが、アプリの進化だ。
当初20Kバイトの容量しかなかったiアプリだが、130Kバイト、230Kバイトと世代を重ねるごとに容量が増加(2003年4月18日の記事参照)。そして「最後のマルチメディア端末」(iモード事業部の夏野剛企画部長)とされた「900i」シリーズでは500Kバイトと、当初の25倍まで容量が拡大している。
ところが、夏野氏が「携帯電話のマルチメディア化も行きつくところまで行った」と表現するとおり(2月2日の記事参照)、コンテンツの進化はそろそろ限界に近づいてきた。これ以上強化してもニッチ……というのが夏野氏の考え。液晶もQVGA26万色で一段落、着メロも和音数は64和音で十分だろうし、着うたの高度化(フル楽曲配信など)には、技術とは別の課題がある。
こうした行き詰まりの中で、ゲートウェイビジネスから、FeliCaなど新しいビジネスへの転換を模索しているわけだ。
次回は、全く新しいビジネスモデルへの転換を迫る「パケット定額制」について考えてみたい。
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