東京都内の高校生、北野望(16)は今年8月にボーダフォンからauに乗り換えた。理由は「パケ代が高すぎるから」。毎月平均3〜4万円、最も多い月で5万円の携帯電話利用料が請求され、そのほとんどのパケット料金だったという。
キャリア変更までして“定額ライフ”を手に入れた彼女だが、コンテンツ利用が爆発的に増えたのは最初の2カ月ほど。auが定額制ユーザー向けのコンテンツとして用意したEZチャンネルは1カ月でやめてしまった。着うたのダウンロード数が増えたのも最初の2〜3カ月で、「(今では)コンテンツの使い方は定額制移行前とあまり変わらなくなりました」(北野さん)。
一方で、大きく変わったのがメールの使い方だという。
「メールの量が増えました。あと使い方が変わった。自分がちょっと気に入った画像や、写真を送ることが増えています」(北野さん)
一般サイトでダウンロードした画像の中で、気に入ったのがあれば友達にメールする。メールで音楽や雑誌の話をしているときに、そのジャケットや表紙、面白いページを写真に撮り、添付して送る。
定額制導入前も写真付きメールなど添付機能は使っていたが、「今はパケ代がかからないから、前よりずっと気軽に(添付)メールするようになった」(北野さん)という。
筆者は10代から40代まで約30人の「定額制ユーザー」のヒアリング調査を定期的に行っており、すべてのユーザーから、定額制移行後にメールの添付機能の利用が増えたという回答が得た。中でも10代〜20代前半の若年層、女性層にこの傾向が顕著に現れている。
彼らは1999年のiモード登場後に携帯電話を使い始めた層であり、コミュニケーションに占めるケータイメールの重要性が極めて高い。ヒアリング対象者のひとりである20歳の女子大生は、「電話で話すのは特別なときだけ。友達はもちろん、恋人や家族とも普段のコミュニケーション(手段)はメール」だと話す。また、彼らは2000年から始まったJ-フォン(現ボーダフォン)の「写メールブーム」にも積極的に参加しており、写真付きメールの認知度と利用率が高いのも特徴だ。
パケット料金定額制はケータイメール利用の多い層を中心に、メールの利用量を増やすだけでなく、使い方を質的に拡大する作用をもたらすようだ。
例えば27歳の主婦は、これまで主婦友達同士で料理のレシピや感想をメールで交換しあっていたが、定額制導入後は作った料理の写真も添付するようになったという。彼女は「写真を付けることで料理の見た目が伝わり、レシピ交換の会話がさらに弾むようになりました」と話す。
写真付きメールなどメールの添付機能は以前から存在したが、テキストメールよりパケット料金が高くなることから、これまでは「特別なもの」だった。しかし定額制の下では、テキストメールと、写真や動画などデータが添付されたメールの間に料金的な差違はない。ケータイメールのリテラシーが高く、ライフスタイルに溶けこんでいる層から、写真や動画などさまざまなデータを気軽にメールに添付する、という使い方が、じわりと広がり始めているようだ。
とはいえ、メールの添付機能をよく使うユーザーが、女性や若年層を中心とした高感度な少数派であることは間違いない。だが、彼らが送信する添付データつきの“リッチメール”が定額制ユーザーを増やし、結果としてリッチメールの利用量そのものを増やすかもしれない。
都内の建設会社に勤務する中村和義さん(仮名・38歳)に、その可能性が見られた。
「もともと妻がケータイをよく使っていて、今までもメールの利用が多かったのですが、定額制に加入してから子どもの写真や動画を頻繁に送ってくるようになりました。すると私のパケット料金も高くなり、結局、私も定額制に入ることになりました」
また冒頭の北野さんは、写真やデータ付きメールを多用するようになった結果、メールをやりとりする友達の多くがパケット料金割引や定額制を導入したという。彼女が送る添付データつきのメールが、送られる側のパケット料金負担を増やし、それに耐えかねての結果である。送られる側にしたら迷惑な話ではないか、という気もするが、「パケ代が定額になると、友達もメールでいろいろ送ってくるようになる」のだという。
ケータイメールは相手のあるサービスである。そのためコンテンツサービスに比べて、高感度ユーザーのリテラシーや利用スタイルが伝播していきやすい。特に定額制を前提にした送信メールのリッチ化は、それを受ける側のコストアップにもつながるため、半ば「自衛策」としてパケット料金割引や定額制に“引きずられる”可能性があるのだ。
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