NTTドコモからの依頼は、「佐藤さんが考えるケータイのデザインを提案してほしい」というものだった。それに対し、佐藤氏はしばし思い悩んだ。まず自分はケータイをデザインしたことがないし、メーカーに勤務してデザインした経験もない。何より、現在使っている携帯電話の機能をフルに活用しているとはとてもいえそうにない……。
「最終的に引き受けたのは、自分が考えているような『シンプルで使いやすい』ケータイを欲している人が、実は世の中には多いのではないかな、と考えたから。その人たちに向けて作ってみたいという気持ちが大きくなりました」
こうして、「携帯電話」と聞いたときに誰もが思い浮かぶ「折りたたみ」の形状に決めた。スライド式や回転式は最初から頭にない。とにかく、シンプルなかたちを。さらに、ドコモとのやり取りで決まったコンセプトである「光」を使うことで、端末と人がコミュニケーションを図れること。光ならば形状に影響を与えない。
実際に端末を作ってくれるメーカーとしてはパナソニックを指名した。同社が持つ高い技術力に、以前から大きな興味を寄せていたからだ。3者で初めてミーティングを行った際、佐藤氏側の提案として長方形のシンプルなケータイに見えないモックアップを持って行くと、パナソニック モバイルコミュニケーションズの担当者にこう言われた。
「佐藤さん。これをそのまま形にするのは、いろんな意味で無理です。なぜ無理なのかについては今後ゆっくりお話ししましょう」
もちろん佐藤氏にとって、メーカーからのそういった反応は当たり前という前提だった。パナソニック モバイルコミュニケーションズには技術者側の意見を聞きたいと思っていたし、面白い偶然もあった。パナソニック モバイルがこれまで追求してきたテーマが偶然にも「光」であることが分かったのだ。こうして新しいケータイは、シンプルなボディと細やかな「光」によるコミュニケーションの表現を追究していくことになる。
「開発者とデザイナーって、互いの意見を主張し合っていがみ合う──というイメージを持たれがちですよね。でも僕のスタイルは、『衝突』ではなく『理解と協調』。意見を出し合う中でどちらかにNGが出たとすれば、その問題をどう解決すればいいのかを、相手と同じ目線に立って一緒に探っていくのです」
“異なる分野のプロフェッショナル同士が衝突するのはナンセンス”という考えを持つ佐藤氏は、ドコモやパナソニック モバイルと具体的にどのように話し合いを進めたのだろうか。
後編ではキャリア、開発、デザイナーそれぞれが意見を出し合い、コラボレーションしていった過程、そして端末のデザインにおいて、佐藤氏が力を入れたポイントなどを探っていこう。
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