連載
» 2006年07月24日 11時01分 公開

第2回 プロダクトデザイナーとエンジニアとの熱い関係小牟田啓博のD-room

数々の魅力的な端末を世に送り出してきたデザイナー小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。連載2回目となる今回は、端末開発でプロジェクトリーダー的存在だったからこそ見た“商品としてのモノ作り”の現場を語る。

[小牟田啓博,ITmedia]

 こんにちは。今回は第2回目ということで、少し具体的につっこんだお話にしようと思います。テーマは「プロダクトデザイナーとエンジニアとの熱い関係」。主にモノ作りについて僕が経験してきたことを、あくまでも僕なりの思いでお話しますね。

違った役割を担うプロ同士が究極を目指す

 普通の人たちにとって「デザイナー」は「デザイナー」であり、それは「デザイン」する事を職業とする人たちを指す、くらいの認識なのではないでしょうか。でも実は、その「デザイナー」にもいろいろな種類のデザイナーがいて、ここでテーマになるケータイデザインに携わるデザイナーとは、「プロダクトデザイナー」を指します。

 ……はい、ここ注目! で、そのプロダクトデザイナーの仕事というのは、「プロダクト」の「デザイン」をする、となるわけです。プロダクトというのは「製品」ということです。ここでの製品とは「工業製品」を意味します。

 ちょっと前置きが長くなりましたけど、普通の人には「デザイナー」と一言で片付けられてしまうようなことかもしれませんが、我々プロの中では、このプロダクトデザイナーのプロとしての仕事とそのクオリティーが非常に大事になってくるのです。そこで、僕がご一緒させていただいた「デザイナー」の方々との仕事に加え、「エンジニア」との仕事、さらにはプロダクトデザイナーとエンジニアのプロ同士の関係について、僕の知る限りお話してみたいと思います。

 まずプロダクトデザイナーについてです。モノ作りが本業なので、プロダクトを製造するためのノウハウやアイデア、考え方のアプローチがすごいです。すごいって、どうすごいのか……。それは職人的なディープなノウハウと、ビジネスという視点から広く考えることのできる、両方の視野を兼ね備えている人たちなのです。「デザイナー」というとわがままで自己顕示欲が強くて、という一般的なイメージがありますが、そういうイメージとは程遠い存在です。

 一方エンジニアは、効率よく製品を製造することができ、かつ完成品に不具合が発生しないよう細心の注意を払いつつ、扱う数量や製造プロセス全体を把握して、プロジェクト全体のバランスを取る役割りを担っています。

 こういったまったく違った役割の職種のプロ同士が、一緒になって1つのプロダクトの完成を目指していくことになるのです。当然、役割の違いから意見の衝突は日常茶飯事ですし、場合によっては意見が平行線をたどり、会議が翌日に持ち越されるなんてこともしばしば。

 例えば、ケータイを作り上げて行く過程では、モノのサイズが小さいだけに扱う単位がゼロコンマ数ミリの攻防を繰り返すことになります。たった1ミリ本体寸法が厚いか薄いかだけで、製品としては生死を分けたりもするのです。ですから攻防バトルも時には激しいものになったりもします。

 そんななか、誰かが口火を切って突破口が開かれることになるのですが、それがデザイナーのときもあればエンジニアのときもあります。プロダクトデザイナーの仕事は、常に製品になった完成状態をイメージしていて、それがお客さまの眼にはどう映るのか、ビジネスとしてお客さまに受け入れられるのかなどを念頭に置きつつ、デザインとしてのオリジナリティーと完成度とのバランスをハイレベルに計っていくことです。

究極的な丸い端末と究極的な四角い端末

 技術的にいつも理想どおりの骨格ばかりではない中で、それはあたかもパーツの1つ1つ、ディテールのすべてがデザイン優先のこだわりで表現されたかのように製品が完成している。この完成に向かってい行く過程で生み出されてくるアイデアを見たときに、まさにプロ! とうなる瞬間があるのです。その具体的な例を説明しましょう。

 以前僕が携わったプロジェクトの中で「PENCK」というモデルがありました。それまでのエンジニアリングの常識では、バッテリーも液晶パネルも、それから小さなチップに至るまで内蔵物は四角いものが基本でした。モノの基本は四角いものがよいとされてきた中で、PENCKは角のない究極の丸みを帯びたデザインだったものですから、エンジニアの人たちにとって、それはそれはチャレンジングなテーマだったわけです。

 事実、理想的な丸い形状を実現しようとすると、どこかにコブのように不自然な突起ができてしまう。それを1カ所ずつ丹念に、コンマ数ミリ単位で形状に補正を加えてデザインを整えていきました。そのままでは四角く出っ張ってしまう部品を、丸い形に合わせてカットした部品に新しく作り直したり、カメラの部品が飛び出している箇所を丸い形に押し込めるために、ヒンジ部分の回転軸の位置を微妙にコントロールして丸いフォルムに納める検討が積み重ねられました。また造形だけでなく開閉の操作性も考慮し、端末を閉じたときのディスプレイ側の手前と側面の突起寸法を変えることで、開けやすさとデザインのバランスを取ったり、造形が破綻して見えないように部品分割線までもがバランスされたりなど、それらすべての攻防が、それはあたかもデザインされたかのように見せてしまう。デザインとエンジニアのコミュニケーションが密に密に繰り返された結果です。

 このときの後日談として、じゃあ“四角いデザイン”がテーマだったらもっと簡単なはずだったのに……という気持ちを誰もが抱きました。ところがです。その後に開発した「neon」というモデルでは、まさにこの四角さがテーマだったのです。はじめは僕もエンジニアも、それほど困難なことはないのでは、と考えていました。このモデルではもっと別の箇所に大きな課題があって、四角い形状そのものはそれほど高いハードルではないだろうと。でも実際には、neonでは四角いなりの究極的な形状とバランスが要求されますから、ほんの小さな誤差や突起物も見逃すわけにはいきません。そうです。四角いものであれば楽かも、という常識はものの見事に崩れていきました。それはそれは困難の連続だったのです。

 同じ厚みの板状の塊を2つ重ね合わせたような形状というのがこのneonのコンセプトだったわけですが、液晶側とキーボード側の厚みがどうしても同じにならない。そこでキー部分のみを盛り上げて見せることで板と板がキーをサンドしているようにデザインすれば、当初のコンセプトを崩すことなく同じ厚みのものの重なりを実現できる。これはデザイナーの深澤さんのアイデアでした。「一本!」思わず僕は感動のあまり、空手の試合でのジャッジをしてしまいました。


 いかがでしたか? 今回はちょっとディープな用語が飛び出してきましたが、プロのプロらしい仕事の様子、少しはご理解いただいたでしょうか。こうしたこだわりのすべてがハイレベルに調和したとき、最高の製品が仕上がってくるのです。そしてその製品が素晴らしければ素晴らしいだけ、お客さまの満足度が高く、長く愛される製品となっていくのです。これからもニッポンの「デザイナー」と「エンジニア」たちの熱い関係によって、続々と新機種が世に登場していくことでしょう。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、ブランドコンサルティングを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサティングの実現を目指してKom&Co.を設立。国立京都工芸繊維大学特任助教授、武庫川女子大学非常勤講師。


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