第3回 NTTドコモ 辻村清行氏──ドコモ2.0に合わせてiモードもバージョンアップしたい石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)

» 2007年06月05日 22時43分 公開
[房野麻子(聞き手:石川温、神尾寿),ITmedia]
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変わっていくキャリアと端末メーカーの関係

石川 このあいだ色々な人たちと、なぜ日本の携帯端末メーカーが世界で弱いかという話をしたときに、逆にドコモが早すぎたんじゃないか、ということを言う人がいてハッとしたんです。つまり、メーカーはドコモの仕様についていって一生懸命に3G端末を作った。確かに世界最速で3Gを作り上げたけれど、そのとき世界にはまだ市場がない。日本メーカーが海外でうまくいかずに撤退していっているときに、ようやく世界が3Gに追いついて市場が一気に広がり、海外メーカーがおいしいところを持っていった。早すぎることが逆に弱点になったのかな、と。3.9Gや4Gになるときは、もう少し世界と時間差を縮めてやってくれるといいなあ、ということを言っていたんです。

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辻村 そんな器用なことはできませんよ(笑) 全速力で走らないと、容易に追い抜かれてしまいます。逆に、少しでも歩みを止めたら、それは驕りだと僕は思います。世界になるべく差が付かないような一番いいスピードで走るなんていうのは、驕りだと思いますね。やっぱり一生懸命、研ぎ澄ませていって、それで先に行ったら、先に行ったメリットをデメリットにしないで、どうやってマネタイズしていくかということを考えるべきですよ。

神尾 私は辻村さんの考えに賛成です。技術革新のスピードを緩めたら、それはリングの上から降りるのと同じ。無条件降伏です。だから(ドコモが)全力で行くというのは大事なんですが、メーカーさんが国内市場しか重点的に見ていないというのが、かつての3Gのときに問題としてあったと思うんです。

辻村 携帯電話を開発する場合に、SymbianであれLinuxであれOSがあって、その上にミドルウェアがあって、さらにアプリがあるわけですが、アプリの部分は、それぞれのオペレーターの事情で変えていかなくちゃいけない。つまり途中のミドルウェアをきちっと作っておかないと、全部最初から作り変えなきゃいけないことになるわけです。では日本のメーカーさんが世界戦略の立場で端末を最初からデザインしていたかというと、必ずしもそうじゃないですよね。

 ドコモが3Gをやるときに、メーカーさんが最初から、「確かにドコモは先行してる。世界は2〜3年後から付いてくる。そのときに自分たちの有利な部分をどういう風に使えるのかな」ということを考えていたら、海外での状況は今とは違ったと思います。でも、我々ドコモはきちんとメッセージを出さなかったし、世界がすぐ後についてくるような雰囲気もありました。我々はメーカーさんを責めているわけではなくて、共通の反省として考えていったらいいんであって、スピードを緩めるという議論ではないと僕は思います。

神尾 メーカーとキャリアの関係性にちょっと問題があったのかなと思っています。メーカーがキャリアにお伺いを立てて、“キャリアの言う通り作ればいいんだ”っていう感覚が、あの当時のメーカーにはあったと思うんです。自分たちの足でどうやって海外に出るかということを考える独立独歩の意識が乏しかったように感じています。よくいえば実直なんですけど、日本でキャリアとともに共同開発した“成果”を、いかに海外に持ち出して儲けるかという狡猾さが足りなかったと思うんです。

 イメージ的には官庁営業じゃないですけれど、話を聞いて、言われたものを作るというスタンスだったのかなと。その関係が今後変わっていって、キャリアの立場、メーカーの立場で対等に話をして、メーカーも自分で海外戦略を考えていかなくてはいけないと思います。

辻村 今はそうなってきていると思います。世界市場の中の、“One of Them”(多数の中の1つ)としての日本市場であって、その中でどうやって全体の最適化を図るかという方向でメーカーさんも考えていらっしゃると思います。SamsungもMotorolaもNokiaも、そういう風に考えているわけですから、日本のメーカーさんもそういう風に考えていかれるだろうと思います。

神尾 ドコモの立場としては、基礎研究の部分でかなり先行してるので、それをいち早くユーザーニーズに合致する形で市場化する。その中でメーカーさんがビジネスモデルを描いて、ビジネスをやっていって、海外も狙う、という構図を作っていくという形なのでしょうか。

辻村 そうですね。HSPAにしろスーパー3Gにしろ、まずは日本で市場を立ち上げることが第一だと思います。それはFeliCaでも同じですが、やはり日本マーケットにチューニングしているんですよ。日本のクレジット業界、日本の流通業界、あるいは日本のユーザーが映像をどういう風に使いたいかということにチューニングしているはずなんです。そして海外に出るときは、当然ローカライズ、カスタマイズしなくてはいけない。重要なツールである端末も変えてもらわなくちゃいけない。そのときに、全部取り替えなくちゃいけないとなると開発コストの無駄なので、アプリケーション部分を変える。みんなが、世界に出るんだということを前提に日本でのことを考えていかないとダメだと思います。

神尾 グローバルになったときには各国市場向けにローカライズするのが前提で、その中で日本市場をとらえて、ドコモもやるし、メーカーさんもそうやって考えてもらう、ということですね。

辻村 僕は昔、GSMはどうしてSIMなんかを採用するのかな、と思っていました。けれど、いわゆるROMライターは、代理店などと非常に高い信頼関係がないと、それで偽造される可能性があって、困るものなんです。ところがSIMの場合にはその心配がない。だから、日本以外のいろいろな事情のある国に提供しても可能なビジネスモデルというのを常に頭の隅、というか結構重要な部分に置いておきながら、自国のサービス開発を考えていかなくてはいけないんです。自国で全部チューニングして、向こうに持っていくときにまた全部チューニングっていうのは、なかなか大変だろうと思いますね。

NTTドコモ 辻村清行氏


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