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» 2007年06月28日 22時35分 公開

ワイヤレスジャパン2007 キーパーソンインタビュー:音声サービス開始が大きなターニングポイント──イー・モバイル 阿部基成氏 (1/2)

HSDPAによる高速通信が定額で利用できる点が人気のイー・モバイルだが、今後のエリア展開や2008年3月に予定している音声サービスの開始にも注目が集まる。同社 執行役員副社長の阿部基成氏に、イー・モバイルの勝算を聞いた。

[神尾寿,ITmedia]

 今年3月31日、携帯電話業界の13年ぶりの“新規参入”キャリアとしてサービスを開始したイー・モバイル。当初エリアは東名阪のみ、高速・低価格のデータ通信のキャリアとしてスタートした同社は、6月1日段階で約5万件の契約を獲得した(6月22日の記事参照)

 携帯電話の累計契約数が1億に届こうとしている中で、イー・モバイルは携帯電話ビジネスにどのようにチャレンジしていくのか。そして、その勝算はどこにあるのか。イー・モバイル 執行役員副社長の阿部基成氏に聞いた。

Photo イー・モバイル 執行役員副社長の阿部基成氏

サービス開始後3カ月の契約数・トラフィックは想定内

ITmedia イー・モバイルのサービスが開始されてから、3カ月少々が経過しました。新規参入キャリアとしてゼロからスタートされたわけですが、この3カ月の手応えはいかがでしたか。

阿部基成氏(以下敬称略) 我々は(HSDPAによる)下り最大3.6Mbpsという高速データ通信サービスを、月額5980円の完全定額で提供するという形で携帯電話市場に参入しました(2月19日の記事参照)。正直に申し上げますと、この料金でお客様が(ネットワークを)どれだけ使われるか、はっきりとシミュレーションできていたわけではありませんでした。ただ、これまでのイー・アクセスでの経験から、トラフィックはADSL並みが最大かな、という想定に基づいてサービス開始を迎えました。料金設定も含めて、手探りであったことは事実です。

 そして実際にサービス開始をして3カ月が経過したわけですが、これまでの契約数は約5万(6月22日の記事参照)。これは9月までの目標である10万人を考えますと、順調な滑り出しだと考えています。また実際の利用容量の平均は1人あたり月間1.4Gバイトで、これはADSLよりやや少ないくらいです。

ITmedia PCも含めた完全定額だとトラフィックがどれだけ増えるかが、キャリアにとってのリスクになるわけですが、その点については想定の範囲内だった、ということですね。

阿部 予想と言うより、想像でしたけどね(笑) ただADSLキャリアとしての過去の経験則から導いた予想の範囲内に収まっています。

ユーザー層の裾野を広げていく

ITmedia 現在のイー・モバイルユーザーというのは、どういった人たちなのでしょう。

阿部 現段階では明らかにモバイルの“ヘビーユーザー”ですね。さらに個人契約が大半を占めています。これまでは月額5980円のプランだけでしたから、この価格帯に投資していただけるのは、やはりモバイルを活用されているリテラシーの高い方が中心になります。

ITmedia イー・モバイルの速度と価格ならば固定ブロードバンドの代わりにもなりそうですが、現時点ではモバイルのヘビーユーザーが多いのでしょうか。

阿部 そうですね。今まで固定のブロードバンド回線を使っていなかった人がいきなりイー・モバイルに加入するというケースは少ないです。ただ、実際にお使いになっていただければわかりますが、(イー・モバイル契約後は)自宅内でも気づかずイー・モバイルで使ってしまうくらい、速度的には十分なものが出ていると思います。

 私もそうなんですが、ときどき(固定ブロードバンドにつながった)自宅の無線LANに切り替えるのを忘れてしまうくらいです(笑)

ITmedia 現在のユーザー層はヘビーユーザー、すなわち利用者層の中核になる人たちですが、今後の利用者層の拡大についてはどのように考えていますか。

阿部 まず今回、新たに投入する「ライトデータプラン」で従来よりもライトユーザーになる人たちを獲得したいと考えています。最近のPC市場はノートパソコンが中心ですし、まだニッチですが、EM・ONEのようなスマートフォンが作り出す(ライトな)データ通信利用の市場があると考えています。

ITmedia これまで携帯電話以外のモバイル通信市場は、300万契約前後と言われていましたが、成長の可能性は大きいということですね。

阿部 ええ。既存のPCモバイルの世界とは別に、新たに成長する領域が今後出てくると考えています。その鍵になるのが「ライトデータプラン」とスマートフォンのラインアップですね。

 また、既存(PCモバイル)の市場で見ましても、我々の契約数規模から考えれば、十分に魅力的な数があります。この市場もしっかりと獲得していきたい。

ITmedia ビジネスユーザーや法人顧客の獲得状況はいかがでしょうか。

阿部 現段階では少数ですね。ビジネス利用の取り込みには、やはりエリアをもう少し広げなければなりません。9月までに政令指定都市までエリアを拡大する予定ですので、この段階になれば、都市部のビジネスパーソンが出張先で使う分には十分な状況になります。その辺りが(ビジネス利用獲得の)ターゲットですね。

エリアは今後も積極的に拡大

Photo

ITmedia 私もサービス開始時からイー・モバイルを使っているのですが、そこで感じるのが「予想以上にエリアが広い」ということです。イー・モバイルはゼロからエリア拡大を続けているわけですが、この部分での現在の状況と手応えはいかがですか。

阿部 サービス開始時のエリアは東京23区と京都・大阪の一部でした。正直、我々としてはもっと広いエリアから始めたかったですね。しかし、4月以降はエリア拡大のペースがあがりまして、当初6月の予定だった(東京の)16号線内のエリア化を5月末までにほぼ完了しました。基地局設置のノウハウが貯まってきたこともあり、エリア拡大のスケジュールは安心して組めるようになってきました。

ITmedia 昨年、マンションの耐震強度偽装が社会問題になって以降、ビルやマンションへの基地局設置が難しくなっています。慎重なオーナーによっては、建物への新たな基地局設置を拒んだり、非破壊検査を行った上で基地局設置後の耐震強度シミュレーションのデータ提出を求められるケースもあると聞いていますが、そういった状況がイー・モバイルのエリア拡大に影響していないのでしょうか。

阿部 そこは後発の強みが出ています。我々が使う基地局は最新型ですので、技術革新の結果、大型冷蔵庫くらいのサイズまで小型化しています。基礎工事もいりませんし、1トン以下の重さなので加重問題が生じにくい。従来から既存キャリアが使っている基地局に比べれば、設置交渉がしやすい状況にあります。

ITmedia なるほど。ドコモのルーラル型基地局のように小型で設置しやすいタイプが基本になっているのですね。

阿部 またビルオーナー様によっては、すでに既存キャリアの基地局が設置されているので、もう1社の基地局が追加されることに抵抗感がない場合もあります。“後発だから”という理由で、基地局設置が難しいという状況ではありません。

ITmedia 設置場所の確保は一見後発キャリアの弱点になりそうですが、そうとも限らない、というわけですね。

阿部 基地局の小型化や軽量化については、(基地局メーカーの)エリクソンやHuaweiに強い要望を出しました(2006年7月の記事参照)。技術革新の恩恵が受けられる部分でもあります。もちろん、既存キャリアも今後は小型基地局を使うでしょうが、我々は“最初から”小型のもので展開できています。

ITmedia 1ユーザーとして感じるのは、イー・モバイルの電波は「よく飛んでいる」ということです。地図上のサービスエリア内なら、屋内や、開口部近くの地下でも使えることが多い。実際のところ、一部の既存キャリアが圏外で、イー・モバイルはアンテナ3本という状況もありました。

阿部 我々の技術部門も「予想以上に1.7GHz帯は使いやすい」という評価をしています。屋内基地局のないビル内でも、中心部近くまでいかなければ圏外にならないケースが多い。

ITmedia 今後のエリア拡大はどのように進むのでしょうか。

阿部 まず7月に北海道、宮城県、福岡県の主要部にエリアを拡大します。9月までに主な政令指定都市をカバーするのが目標ですが、重点的に力を入れているスポットとしては、全国の地方空港や新幹線駅がありますね。ここは都市部のビジネスパーソンがアクセスする場所になりますから。

ITmedia 空港と新幹線駅はありがたいですね。今も羽田や成田のラウンジではイー・モバイルが使えるので快適ですが、(出張先の)地方空港だと使えない。しかも地方空港のラウンジは、公衆無線LANが充実していない場合もあるので、ぜひ早期対応に期待したいところです。政令指定都市と空港・新幹線駅がエリアになれば、まず都市部のビジネスパーソンにとってイー・モバイルは魅力的な選択肢になりそうですね。

ITmedia その後でいいますと、エリア拡大の最大のターニングポイントは音声サービスが始まる来年3月ですね。ここまでにどれだけ面エリアが拡大できるか。また地下鉄駅や地下街のサポートもこのタイミングまでを目標にしています。

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