アイピーモバイル、杉村会長をのぞく取締役が退任──事業立ち上げの具体策は示せず

» 2007年09月28日 17時33分 公開
[園部修,ITmedia]
Photo 会見するアイピーモバイル代表取締役社長の竹内一斉氏

 アイピーモバイルは9月28日、記者会見を開き、携帯電話事業の免許返上は現段階では考えていないこと、事業立ち上げへ向けて、これまでと変わらず必要な作業を進めていることを明言した。

 2005年11月、イー・モバイル(イー・アクセス)、BBモバイル(ソフトバンク)と同時に、2GHz帯での携帯電話事業免許を取得し、TD-CDMA方式で独自のサービス展開を予定していた同社だが、2007年4月、筆頭株主だったマルチメディア総合研究所が、全株式を森トラストに譲渡し、さらに7月には筆頭株主が森トラストから米NextWave Wirelessに変わった。

 NextWave Wirelessは、米国でTD-CDMA方式の通信機器を開発し、アイピーモバイルにも機器を供給するIP Wirelessなどを傘下に持つ企業であり、事業化への筋道が開けたかに見えたが、わずか2カ月でNextWave Wirelessは事業化を断念、取得した株式については、契約時のオプションを行使して森トラストに買い戻しを請求した

 いったん森トラストが買い戻した株式は、アイピーモバイル会長でもある杉村五男氏個人がすべて買い取るという契約が、森トラストと杉村氏の間で結ばれたようだが、アイピーモバイルの株式には譲渡制限が付いており、取締役会の承認なしに譲渡できないという。取締役会はこの譲渡に反対しており、アイピーモバイル側は「筆頭株主は依然森トラスト」との認識で、混迷を極めている。

 アイピーモバイル代表取締役社長の竹内一斉氏は「なんとしても事業を立ち上げたいという思いは杉村氏も我々も同じ。ただ、そのやり方について意見が一致していないだけだ」と発言。アイピーモバイル経営陣としては、森トラストからの株式買い取り提案を拒否していたが、杉村氏が個人で株式を取得することにしたため、対立が深まったようだ。

 なお同氏は、会見が始まる直前に、森トラスト側から、杉村氏の要請に基づき臨時株主総会の招集を請求され、現取締役の退任と新取締役の選任を提案されたことを明らかにした。

 竹内氏は会見で、今後の方針などについても触れるつもりだったようだが、退任要求があったことから「今後の事業展開に関しては、新しい経営体制で進めていくことになる」と述べるにとどまり、11月9日に迫ったサービス開始の期限までに、どれだけのエリアでどのようなサービスを提供できるのか、本当にサービス開始が可能なのかといった質問には明確な答えを提示しなかった。

 「退任は致し方ない。むしろ筆頭株主である森トラストが何らかの形で強く関与してくれることを以前から望んでいたので、免許の返上ではなく、臨時株主総会の招集と新しい経営体制への刷新を打ち出してくれたのはよかったと思う。現状は、一部メディアで報じられているとおり、膠着状態なので、何らかの進展につながるだろう。事業立ち上げへ向けて、一歩踏み出せるのであればそれでいい」(竹内氏)

 竹内氏ら現経営陣は、請求に基づき速やかに株主総会を開催して、新しい経営体制への引き継ぎを行う意向だという。

混乱の原因は、会長の杉村氏が筆頭株主にならんとしている点

 竹内氏が「膠着状態」と表現したアイピーモバイルの現状。それは、森トラスト側が株式を杉村氏にすでに譲渡済みであり、もはやアイピーモバイルとは関係がない、という認識であるのに対し、アイピーモバイル側は、前述の株式譲渡制限の関係で、杉村氏への株式譲渡契約は有効ではなく、筆頭株主は依然森トラストであるという認識があるためだ。

 現経営陣が、杉村氏への株式譲渡に反対しているのは、杉村氏に資金を提供しているのが誰なのか分からない点もさることながら、アイピーモバイルとして、今後も森トラストが経営に関与し、資金面でもコアとして存在してほしいという願いがあるからだ。竹内氏は「森トラストの関与が事業の正否を握ると考えていた」と話す。しかし、森トラスト側は杉村氏に株式を売却し、杉村氏の計画(まだ明らかになっていないが)に委ねるつもりのようだ。

 竹内氏は「森トラストにしても、あくまでも事業をなんとかしようとしてくれているのだと思う。本来は、NextWave Wirelessから株式の買い戻し請求があったら免許を返上するとしていた森トラストが、実際に請求があっても免許を返上せず、杉村氏に預けようという判断を下した。あくまでも、事業化を進める意志があるからだと理解している。ネガティブに考える必要はないと思う」と話し、新しい経営陣が事業化を進めてくれるとの認識を示した。

果たしてサービスは開始できるのか

Photo 退任する竹内氏は「過程がどうであれ、事業が立ち上がるのであれば不満はない。今後どんな形になるかは分からないが、状況に応じて我々の力が必要だということになれば、力を注ぎたいと思っている」と話す。ちなみに杉村氏とは電話で「がんばる」(杉村氏)「ぜひがんばってください」(竹内氏)という会話を交わしたという

 竹内氏は「アイピーモバイルがサービス提供を開始する際のイメージは、今後総務相と話し合う必要がある」としながらも、残り1カ月少々でのサービスインは実現可能であることを明言。これは経営陣が刷新された場合でも、達成できるという。また総務省とは密に連絡を取っており、状況は説明しているとのこと。現在開設計画の変更申請を用意しており、パートナー企業などがフィックスして、最終的な資金計画が固まったら提出するつもりだと竹内氏は話した。

 「エリアや想定加入者などの話をする以前に、本質的にその先の資金的な裏付けや根拠を示すことの方が重要。資金的な部分さえクリアできれば、今後時間をかけてきちんとやっていく価値があると判断できる状態を作れる」(竹内氏)

 竹内氏によれば、そのタイミングで、具体的なサービス展開なども話せるようになるという。しかし、経営陣は臨時株主総会で変わってしまうため、同氏の発言には何の説得力もない。

 また、4月に筆頭株主が森トラストに変わって以来、事業計画の精査を開始したことや、パートナー探しなどを行ってきたために、基地局など設備面での進展はほとんどないことも会見で明らかになった。4月の会見で杉村氏は「23区でのサービス開始に際しては、約500局程度の基地局が必要だと想定している。現状では約200局分の用地の予約が取れているが、工事が完了しているのは7局」と話していた。この状態からほとんど変わっていないのだとすると、23区内に限定したとしても、到底サービスを開始できる状態とは言えないだろう。

 さらに、いくらすばらしいサービスを提供できたとしても、このような騒動を引き起こした会社のサービスを、積極的に利用したいと考えるユーザーは以前より減っているはずだ。これも同社の事業立ち上げに対する懸念材料の1つといえる。

 しっかりした説明と今後の見通しが話せるのは、会長であり、臨時株主総会後も経営陣に残る杉村氏のみという状況だが、竹内氏は「(杉村氏が)会見をしない理由は分からない。会見をすべきだと本人に伝えてはいるが、それを強制することはできない」と話すにとどまった。

 事業立ち上げか、免許返上か──。11月までに、何らかの説明がアイピーモバイルからなされることに期待したい。

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