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» 2007年12月03日 20時44分 公開

韓国のWiBro事業にみる、モバイルWiMAXの未来韓国携帯事情

韓国が国ぐるみで開発や普及に取り組んできたが「WiBro」が、IMT-2000として世界標準に採択された。WiBro技術の開発や対応機器の輸出に弾みがつくと予想され、関連企業の海外進出が勢いづいている。

[佐々木朋美,ITmedia]

 「WiBro」は、WiMAXを拡張した次世代の移動体通信規格で、韓国版モバイルWiMAXともいえる技術だ。WiBroの開発は、韓国のIT産業発展計画である「IT839」戦略の1つであり、当初から国際市場への進出を目標に据えていた。

 2002年に韓国電子通信研究院が中心となり、Samsung電子やKT、SK Telecom(以下、SKT)といった企業が参加して開発がスタート。技術の標準化から商用化、海外進出に至るまで、政府、研究機関、メーカー、通信事業者が一丸となって活性化を進めてきた。その成果が今回の国際標準採択といえるだろう。

「次世代WiBro」はすでに進行中

photo WiBroとWiBro Evolutionの比較図(情報通信部資料より)

 IT839戦略を担当する韓国政府の情報通信部によると、世界40カ国がWiBro(またはモバイルWiMAX)の導入を推進、あるいは検討中であるという。今回WiBroが世界標準となったことが追い風となり、2012年のWiBro市場規模は当初の予想から3兆ウォン(約3587億円)以上上回る、9兆3877億ウォン(約1兆1223億円)に達すると見込んでいる。

 しかし現行のWiBroは通過点に過ぎない。韓国では次の規格である「WiBro Evolution」の開発が進んでいるのだ。WiBro Evolutionは、現行のWiBro(Wave1)にMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術やスマートアンテナ技術を採用した「WiBro Wave2」を基礎にする規格。WiBro Wave2は、2007年中には技術開発が完了すると見込まれており、WiBro EvolutionはITU(国際電気通信連合)が2010年ごろに策定する4G規格への採用を狙って研究が進められている。

 WiBro Evolutionは、時速120キロメートルの移動中でも下り20Mbps以上の通信速度が保障されているほか、IPv6にも対応。今後の通信環境の変化に合わせて、大きな進化を遂げると予想されている。韓国情報通信部はWiBro Evolutionの開発を、2008年までに終えると明言している。

韓国市場の現状

photo 各地下鉄駅のプラットフォームの端にある、WiBroの中継器。SKTとKTが共同で設置しているようだ

 現在韓国では、ソウルを中心とした首都圏でWiBroが提供されている。サービス事業者はKTとSKTの2社だ。サービスエリア内であれば、地下や繁華街以外の場所、車や地下鉄での移動中など、大抵の場所で利用できるので、モバイルユーザーにとっては利便性が高い。

 通信速度は1Mbps程度。Web検索やメールチェック程度であれば十分だが、大量のデータ通信を行う際には、移動中でなくともたまに途切れる場合もある。

 料金プランは事業者によりさまざまで、KTの場合は2つ。「実速宣言」プランは月額1万ウォン(約1200円)で1Gバイトまで利用でき、超過した場合に25ウォン(約3円)/Mバイト課金されるもの。「自由宣言」プランは定額制で、月額1万9800ウォン(約2400円)でデータ通信が使い放題になる。なお現在は、キャンペーン期間中(2008年3月まで)ということもあって、新規手数料の3万ウォン(約3600円)が無料になっている。

 一方のSKTには5種類の料金プランがある。KTと似たものとして、月額2万ウォン(約2400円)で450Mバイトまで利用でき、以降は48ウォン(約6円)/Mバイトずつ課金される「スリム料金制」がある。これには、3万ウォンの新規手数料が必要だ。また加入費が免除される「WiBroフリー」は、月額1万6000ウォン(約1920円)で上限なくデータ通信が可能だ。

 新規手数料が無料になるケースとならないケースがあるように、WiBroの料金は市場を見ながら常に調節されており、非常に流動的だ。端末も以前はUSB端子の付いた外付けモデム程度しかなく、バリエーションの少なさが嘆かれていた。最近は、Samsung電子から一度に4機種も発表され、少しずつ選択の余地も増えている。

photophotophoto バスおよび電車の中でWiBroに接続している様子(左、中央)。WiBroの接続ソフト。オレンジ色が多ければ多いほど、WiBroの電波が強いことを意味する(右)

 WiBroの加入者は11月下旬で10万人を越えた。SKTが2004年に予想したデータでは、WiBro開始から1年後の加入者は400万人程度、2年後は800万人程度だが、実際は予想に比べれば大変少ないといえよう。事実、事業のテコ入れを訴える声も多く挙がっている。

 韓国でWiBroがいまひとつ普及しない背景には、加入者予測をしたSKT自身の責任もある。SKTはWiBroに関してあまり宣伝を行っていないのだ。“WiBroの加入者が10万人を突破した”というのはKTだけの話であり、SKTの場合は数万人に留まると予測される。SKTはHSDPA/HSUPAを利用するデータ通信サービスも行っているため、WiBroのアピールにちゅうちょしているのかもしれない。

photo Samsung電子が11月中旬に発表した、WiBro用デバイス。右の女性が手にしているのは、WiBroとCDMA2000 1x EV-DOに対応したスマートフォン「SPH-M8200」。その前にあるのがWiBro/Wi-Fi/HSDPAに対応する「Delux MITs 2(SPH-P9200)」で、OSはWindows XPだ。左の女性が手にしているのがWiBro専用モデム「SWT-H200K」で、その前のノートPCにつながっているのが、WiBroとHSDPAに対応するモデムの「SPH-H1300」。いずれもKT用だ

WiBroの周波数が取り上げられる?

 KTやSKTがWiBro事業者として認可された2005年当時、2007年には全国20カ所以上にサービスエリアを広げることが条件だった。実際には思ったほど順調に事業が進まず、特定地域で無線LANスポットのように存在するのが実情だ。

 ここで思い出されるのが、LG Telecom(以下、LGT)のIMT-2000事業だ。LGTはIMT-2000をサービスすると約束して電波を割り当ててもらったものの、これを実現できず電波を返上することになった(2006年8月1日の記事参照)

 情報通信部は、KTやSKTが当初の計画通りにWiBro事業を進めないことに対し、それなりの制裁を与える構えだ。韓国政府は2007年末をめどに市場が活性化することを望んでおり、KTとSKTは市場の現実とは裏腹に早急な対応を迫られた。

 SKTは、11月中旬にWiBro活性化計画を公表。大変遅ればせながらWiBroを専門的に担当する「WiBro事業チーム」を新設すると発表したほか、WiBro事業の戦略と新規ビジネスモデルの発掘、マーケティングの基盤確保などを進めるとしている。そして現在の3万3000ウォン(約3950円)の新規手数料を免除するうえ、なんと2008年6月いっぱいまでWiBroを無料で提供する戦略を打ち出した。これにあわせKTも、2008年に積極的なエリア展開を行うと宣言している。

 ブロードバンド大国の韓国では、固定回線によるインターネットが発達し、PC用のコンテンツも充実している。あえて移動体通信であるWiBroを導入させるには、ユーザーにはコストに見合ったサービスを実感してもらう必要がある。固定回線以上の投資に見合う利便性をどこまで感じさせるのかが、今後加入者を増やす鍵となりそうだ。

 また当初は、WiBroとHSDPA/HSUPAといった3.5G技術が競合することを懸念する声もあった。しかしWiBro事業者の2社は、HSDPAなどは音声に強く携帯電話で利用するもの、WiBroはデータ通信に強くノートPCなどで利用するもの、といった立場をとりこれを否定。しかし実際には、HSDPAのUSBモデムなども登場しWiBroよりも広い範囲での通信が可能となっている。

 代替するサービスとの関係をどう整理し、WiBroを使う理由付けをいかに与えられるかが、韓国のWiBro市場を左右するだろう。

元気なWiBro関連メーカー

photo POSDATAが開発した「G100」

 WiBro事業社がようやくやる気を出し始めた今、最も元気なのがWiBro関連のメーカーやソリューション業者だ。国際電気電子学会(IEEE)は2005年、「モバイルWiMAX(IEEE802.16e)」を国際標準として承認し、WiBroはその規格の一部として盛り込まれた。韓国のメーカーは、世界的に普及が始まっているモバイルWiMAX向け技術を輸出できる体制にある。

 Samsung電子は10月28〜29日に日本でWiBroの公開試験を行ったほか(10月25日の記事参照)、米国「CERDEC」(the U.S. Army's Communications Electronics Research & Development Engineering Center:陸軍電子通信研究所)と韓国国防部用のWiBro試験サービスに端末ソリューションを提供することが決まっている。この他にも中南米や欧州、米国など、さまざまな国で商用化に向けたソリューション提供で提携を行っている。

 このほかWiBroの基地局や制御局を開発・提供するPOSDATAは、WiBro専用端末「G100」を開発した。G100は、ゲームや音楽、動画などを楽しめる多機能なゲーム端末で、4インチのタッチパネルを搭載。WiBroだけでなくWi-FiやBluetoothなどの規格にも対応する。同社では、早ければ2007年末にも市販すると述べている。

 そしてモバイル・マルチメディア・メッセージング・ソリューション企業の韓IntroMobileは、米Sprint Nextelが2008年4月に商用化を目指しているモバイルWiMAXサービスに自社技術を提供する計画だ。提供するのは同社のDCD(Dynamic Communication Covergence)プラットフォームで、これによりユーザーはデバイスやネットワークに縛られない自由なコミュニケーションが楽しめるようになるという。同社では中国やアフリカなど、世界20カ国との取引があるが、2008年にはこれを30カ国に増やしたいとしている。

 すでにある程度の成果が見え始めてきたメーカーに対し、今後も努力が必要な通信事業者と対照的ではあるが、世界的に見ても環境が整うまでにはさまざまな施策が必要となりそうだ。世界に先駆けてサービスを提供している韓国の悩みは、モバイル文化や考え方の違いこそあれ、今後モバイルWiMAXを導入する日本の悩みになる可能性もありそうだ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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