第6回 ケータイコンテンツの中年事情コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく

» 2008年06月19日 15時20分 公開
[トミヤマリュウタ,ITmedia]
Photo 歌詞はきっちりギャル文字です。キラキラしています

 5月の中旬から、あの「ガールズウォーカー」で、あの“長渕剛”の歌詞デコメなるものが配布されています。皆さんはご存じでしょうか。

 「親子ジグザグ」とかリアルタイムで見ていた自分には口あんぐりですが、決して清原世代向けではありません。若い子向けです。「うっ……、いま俺は端末のバージョンアップより、感性のバージョンアップを求められている」と口に出さずにはいられない強力コンテンツ。はじめて見たときは、あまりの斬新さにちょっと意識が飛びました……。

 この「世代をマッシュアップしてしまう」かのごとき、ステキ発想には脱帽です。グッときました。しかし、逆ってなかなか難しいですよね。若い子向けのコンテンツを、年齢が上の人に向けて再加工するというのは。

 例えば「mihimaru GTを中年に向けて訴求するため、ケータイを活用したいのですが」なんていうプランがあったとしたら、多くの人が「おい、お前無茶はよせよ! そっから先行き止まりだぞ!」と止めるんじゃないでしょうか。

でも、中年層をターゲットにした仕事って面白いんですよ

 当社事情をお話しすると、ここ最近、なぜか中年(最近あまり聞きませんな)に向けた“何か”を考えてください&作りませんか的なお話をよくいただくようになりました。今年に入ってから、突然に……という感じです。本・雑誌、PCサイト、そしてケータイと、クライアントさんのフィールドは違えども、皆さんターゲットが30代、40代の“中年”なわけです。

 いや、打ち合わせでは“中年”なんて単語、でてきませんよ。M2とかF2とか、親世代とかアラフォーとか言ってますけど、僕的には“中年”と言いたい。30代には“壮年”って言葉もありますけど、今年32歳を迎える小生的にそれは逃げかなと。“中年”を受け入れたいなと。

 話が脱線しました……。さて、シニア向け、ティーン向け、アラサー向けなどなど、一時期にある層へ向けた仕事がドバッと増えるのはよくあることですが、“中年層”をターゲットにしたお話を集中していただくのは、今回がはじめてでございます。自分はいわゆるマーケッターではないので、そこに何かしら市場の変化があるのかないのか、データ的なことはわかりません。ただ、これだけは言えます。「中年に向けた仕事って面白いですなぁ」と。

 インターネットの登場以降、ユーザー/読者の接する媒体が変わっていくなか、中年は若者ほど「ケータイとPCばっかり」というのでもないし、高年ほど「紙とテレビばっかり」というのでもないし……というので、どう料理すべきか考える余地がいっぱいあって、その分楽しいわけです。プランの大枠にも、デザインやテキストのテイストなどといった細かなあしらいにも、答えがいろいろ考えられて、やりようが豊富なんですよね。

ケータイ中年世界のスタンダードは……まだない?

 というわけで、今年に入ってから中年向けの本、中年向けの広告、中年向けのパソコンサイトと、“中年仕事”をいろいろと楽しんで引き受けていた自分なわけです。が、しかし。いまは、“中年向けのケータイサイト”という難題を前に、苦しみもがく日々を送っております。

 なぜに難題なのか。もの凄くぶっちゃければ、「お手本にすべきものがない」からでございます。若者ケータイ世界であれば、モバゲーであったり、ガールズウォーカーであったり、スタンダードを築いた先駆者をお手本にすることもできます。しかし、中年ケータイ世界の決定的な先駆者は……、見渡す限りまだいませんよね。

 いや、もちろん、ゴルフ、パチスロ、競馬、子育て、レシピなどなど、カテゴリーキラーとしてその層を狙い、成功しているサイトはあります。日々ありがたく参考に(インスパイア!?)させていただいております。ですが、ケータイ中年事情全体に影響を及ぼすほどのスタンダードを築いたサイトって……まだないと思うのです。

 マーケッターの方は、「ケータイでWebを頻繁に見るのは、そもそもM0、F0層からM1、F1層までなんだから、中年狙ってケータイ使うなんて論外ですよ」とおっしゃるかもしれません。というかデータ見たら、本当にそのとおりです。無茶なのは分かっています。

 でも、でもです。ケータイ業界は、その論調にあまりにも組み込まれすぎだったんじゃないでしょうか。今年の11月で32歳を迎え、中年に足を踏み入れておる自分は、そう思うわけでございます。「ケータイサイトは若い子のものなのかぁ。おじさん、ケータイの世界に居場所ないなぁ」といって、夕刊フジを開く……。そんな心境にさせているのならば、それは機会損失でしょう。

 ただ、ケータイ上における中年層向けコンテンツは、若者向けのそれと比べてはるかに薄いわけですから、狙い目と考えることもできますよね。例えば子を持つ親。ここのところケータイ世代本が多数発行されていますけど、それは親世代が子どもたちの気持ちを理解したい、しなければと考え、悩んでいることの表れ……。

 悩みがあればそこにはビジネスがある。何もその悩みを解決する方法は本に限らないわけで、ケータイ上で解決手段を用意したっていいわけです。ケータイを介した子どもとのコミュニケーションを円滑にする決定的なコンテンツを提供できれば……。当たりそうな気がするんですけどねぇ。

中年(筆者)に居場所をください!

 中年層に訴えるコンテンツの種は思い浮かぶし、現在のケータイインターネット上にも結構落ちています。ただ、その種をどう演出すれば、どんなテキストで、どんなデザインで、どんなコンテンツに仕立てて見せれば花開くのかは……うむむむと。今一つ見えてこない。

 ゴルフや競馬をケータイコンテンツ上に持ち込む? 韓流を持ち込む? でもそれをどんなフォーマットで持ち込んだらいいのでしょうか。“長渕”を「デコメ」に落とし込み、ケータイ上で“若者”に訴えているように、“韓流”を「どんなフォーマット」に落とし込んだら、ケータイで「中年」に届くのか……。この「中年フォーマットの確立」が、目下の悩みでございます。

 ケータイ向けに新たな文体と構造=フォーマットを生んで、“ケータイ小説”となった文学は、見事若者に受け入れられました。ケータイで中年に向けて何かのコンテンツを展開したとき、そこにはどんな落とし方があるのか……。

 また話がずれて申し訳ないんですけど、昨年、作家の猪瀬直樹さんが、ケータイ小説と日本の近代文学史とを紐付けて解説された記事(関連リンク参照)を読み、1人会社で「なるほど!」と相槌を打ちました。「明治の女学生が発展に大きく関与した近代文学史。ケータイ小説はその延長線上にある」という切り口がとても腑に落ちるものだったのです。

 猪瀬氏いわく、明治時代の女学生は、日本にはじめて登場した「目的のない、自由な時間を持つ女たち」。時代の先端を行く存在だったわけです。カッティングエッジな女学生のなかで盛り上がり、女学生の間で消費されていた(同人活動!)女学生たちの文学は、いつしか多くの作家に影響を与え、そして、そこから成熟した文化が生まれていきます。

 内藤千代子の「ホネムーン」は少年時代の川端康成に影響を与え、平塚らいてう(明子)は夏目漱石の弟子である森田草平と駆け落ちし、それに興味を持った漱石が彼女をモチーフに三四郎のヒロインを描いた。太宰治にいたっては、入手した19歳の女性の日記を再構築して「女生徒」なんていう小説を書いている(脱線の脱線をすると、誰か太宰の女生徒をケータイ小説にリライトしないかなぁなんて思ったりします)。

 話をケータイ中年事情に戻しましょう。明治の世界の最先端であった「女学生たちの文学」をそしゃくして、大人(含む中年)が楽しむエンターテイメントへと昇華した文豪たち。彼らになぞらえれば、既存メディアにある中年の文化をケータイに持ち込むのではなく、ケータイ世界でいま花開いている若者文化をかみ砕いて、中年向けコンテンツにそのスパイスを加えて再構築する……というのが、道なのでございましょう。たぶん、きっと。自信ないですけど。

 とはいえ、じゃあ具体的なデザインやUIや文章のテイストなどといった最後のあしらいはどうするの? といわれればまったくもって藪の中。目下のところ、いろいろテスト中でございます。テストを重ね、その先に何か見えてくることを信じて……。何も見えてこなかったら、そのときは「中年にも居場所をくださいよ!」と1人底辺で叫び、新宿の思いで横丁で泣きぬれたいと思います。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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