Symbian OSのオープン化は世界の携帯市場をどう変えるのか――英SymbianのクリフォードCEOに聞く:CEOに聞く、SymbianのOS戦略

» 2008年07月16日 21時01分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 英Symbianのナイジェル・クリフォードCEO

 携帯電話向けの汎用OSが注目を集める中、Symbian陣営が「Symbian Foundation」を設立し、OSをオープン化するという大きな動きに出た。

 Nokia、NTTドコモ、Sony Ericsson、Motorola、AT&T、LG電子、Samsung電子、ST Microelectronics、Texas Instruments、Vodafoneをボードメンバーとして設立されたSymbian Foundationは、Symbian OS上で稼働する「S60」「UIQ」「MOAP(S)」という3種のUIを統合したプラットフォームを開発し、オープンOSとして同ファウンデーションの参画企業に無償提供すると発表。開発者の負担を軽減するとともに、グローバル向けの端末開発を容易に行える環境を整え、エコシステムのさらなる強化を目指すとしている。

 同Foundationの設立については、「Linux陣営の台頭に対する対抗策」や「端末開発、サービス提供、OS開発を1社で手がけるAppleに対するNokiaの対抗策」と見る向きもあるが、その真意はどこにあるのか。また、統一プラットフォームへのMOAP(S)の統合が日本の端末開発にどんな影響を与えるのか。英SymbianでCEOを務めるナイジェル・クリフォード氏とシンビアン代表取締役社長の久晴彦氏に聞いた。

Symbian Foundation設立は、“開発者のため”

ITmedia Symbian Foundationの発足については、「Linux陣営やWindows Mobileに対する対抗策」「Appleへのけん制」などといった声が聞かれますが、設立に至った真意はどこにありますか。

クリフォード氏 Symbian Foundationを設立した大きな理由は、開発者のチャンスを切り開くためです。現在、Symbian OSには「S60」「UIQ」「MOAP(S)」という3つのユーザーインタフェースがありますが、あるプラットフォームが3つの異なるUIを持ち、さまざまな開発を行うためにコストや労力がかかるような状況は、ベストとはいえません。

 私たちは将来、健全なエコシステムを構築するのに重要なのが開発者の存在であると考えており、そのために分断していたUIを統合したわけです。これらを1つのソフトウェアソリューションにまとめることで、これまでは、UIQ、MOAP(S)、S60のそれぞれに発生した開発コストを、機能やフォームファクターといった差別化ポイントの部分に投資できるようになります。Foundationの参画企業にとって、より効率化された開発環境になるということです。

ITmedia 他の汎用OSの台頭やiPhoneの成功は、Symbian Foundationの設立にはあまり影響していないということでしょうか。

 :クリフォード氏 私たちは、(Windows Mobileなどの)大手ブランドやLinux陣営といった勢力と戦って、打ち勝ってきたわけです。パートナーや開発者のために、“どこまでSymbian OSを進化させることができるか”ということが、Foundationの設立の大きなきっかけです。

Symbian Foundationが日本の端末メーカーにもたらすメリットは

Photo Symbian Foundationが開発する統一プラットフォームの構成図。MOAP(S)は、すべての資産を提供するわけではなく、ドコモ独自の機能にかかわるところは差別化部分に含まれるという。また、今後の独自機能の開発もドコモが行うことになる

ITmedia Symbian Foundationが開発する統一プラットフォームには、ドコモが開発したMOAP(S)も含まれています。MOAP(S)は単なるUIではなくキャリア固有のサービスにかかわる部分も含んでおり、すべてが取り込まれると日本独自のサービス開発が難しくなることが懸念されます。この統一プラットフォームは、MOAP(S)のどこまでを取り込み、どこからを参画メンバーの差別化部分とするのでしょう。

久氏 これまでのMOAP(S)のドコモ独自のユニークな部分や、今後の日本独自のサービスや機能は「差別化部分」として持つことになるでしょう。ここを将来、統一プラットフォームとして提供するかどうかは、ドコモさんの考え次第です。

クリフォード氏 ユーザーにどんな付加価値を提供するかは、端末メーカーや通信キャリア、サービスプロバイダによって実現されます。あるいは、共通で利用可能なアプリケーションやゲーム、ダウンロードできるコンテンツを1つのパッケージにまとめた形で、ある通信キャリアやメーカーが提供するとか、サードパーティが特定のセグメントに対してパッケージ化されたものを提供するといった形も考えられます。

ITmedia 統一プラットフォームでは、S60がUIの軸になるのでしょうか。

クリフォード氏 参画メーカーは、共通プラットフォームの構成要素となる「アプリケーションスイート」「ランタイム」「UIフレームワーク」「ミドルウェア」「オペレーションシステム」「ツール・SDK」の部分を使うことになります。

 また、Symbian OSとS60は統一プラットフォームのコアとなるので、Symbian Foundationではコードの統合を行います。(S60、UIQ、MOAP(S)が含まれた)統一プラットフォームを利用することで、これまでMOAPのためにのみ開発を行ってきた開発者は今後、端末やアプリをグローバルで展開しやすくなります。

久氏 統一プラットフォームがS60、UIQの要素を包含しているので、統一プラットフォーム上のアプリは、海外端末でも動くようになるわけです。

Photo Symbian Foundationの参画企業。このうち10社がボードメンバーに名を連ねている

ITmedia S60は、統一プラットフォームの軸になることから今後もNokiaが開発を進めることになると思いますが、MOAP(S)とUIQに関しては新たな発展はないのでしょうか。

久氏 現在、ここには既存のUIQとMOAP(S)とS60が挙がっていますが、将来、Foundationの参画企業が提供することで拡張を期待できる部分です。

ITmedia Symbian OS自体の開発は今後、Nokiaが主導することになるのでしょうか。

クリフォード氏 Symbianの社員はNokiaの社員になるので、Symbianの大半の開発者が、最初の段階ではNokiaの人間になります。

ITmedia そうなるとOS開発において、NokiaとほかのFoundation参画メンバーが平等な関係にならないのではという懸念もあります。

クリフォード氏 Foundationには10社で構成されるボードメンバー制があり、OSに必要とされる機能はボードメンバー間の話し合いで決まります。そのため、平等な関係を維持できるはずです。

 また、ボードメンバーの構成は定期的に見直しの対象になると考えられます。それはFoundationにどれだけ貢献しているか、Foundationの資産を使った携帯端末がどれだけ出荷されているかなどで決まります。

Foundationは、携帯にかかわるプレーヤーにどんなメリットをもたらすのか

Photo ケータイ向けOSのシェアを示すグラフ。Symbianは60%でシェアトップを守っているが、他のOSも存在感を示し始めている

ITmedia 統一プラットフォームは、携帯市場に携わる各プレーヤーにどんなメリットをもたらすのでしょう。

クリフォード氏 端末メーカーにとってのメリットは、さまざまなソフトウェア資産を無償で活用でき、その分のコストを差別化のために振り向けられることです。あるいは端末のコストダウンをはかるためにも利用できます。これにより、端末メーカーは、各国固有のサービスや機能の開発に専念できます。例えば、さまざまなライフスタイルに適した多彩な端末の開発や、特定の国や言語への対応といったところに集中しやすくなるでしょう。

 通信キャリアにとってのメリットは、サポートしなければならないプラットフォームを減らせることです。これまでは、それぞれのインタフェースごとにアプリなどのテストを行う必要があり、それにコストや時間を割かれていたわけですが、それを軽減できます。

 開発者には、アプリを複数のインタフェースに対してではなく、1つのインタフェースに対して開発すればいいというメリットがあります。

ITmedia Symbian OSがトップシェアを守るためには、開発者の存在が重要になります。開発者を増やすために、どんな取り組みをしていますか。

クリフォード氏 草の根レベルでは、大学にカリキュラムを提供することで、コンピュータの授業でSymbian OSに関する教育を提供できるようサポートしています。また、パートナーや開発者へのプログラムを通じた、1つのバーチャルコミュニティも作っています。開発者に集まってもらい、さまざまな問題に関する回答をSymbianの専門家から得たり、プロジェクトチームを結成したり、オンライン学習をしたり――といった環境を整備しています。

ITmedia 携帯電話市場では汎用OSの台頭が顕著ですが、他のOSの状況をどうとらえていますか。

クリフォード氏 競争力を保つ必要はありますが、私たちはLinux陣営やMicrosoft、Apple、Googleなどとの競争には慣れており、依然として市場ではリーダーです。私も久も常に、いかにして市場におけるリーダーシップを保つことができるかを考えています。次の重要なステップとして発表したのがSymbian Foundationであり、開発者には最適なチャンスを提供できると思います。競争が激化していることは認識していますから、自己満足に陥ることなく、さらに先を行くためにさまざまな施策を行っているわけです。

 Symbian Foundationは、オープンソースの動きとしては歴史上、最も大きな取り組みといえるでしょう。

ITmedia 日本のSymbian陣営にメッセージをお願いします。

クリフォード氏 Symbian Foundationは最大規模のチャンスを提供できますから、多くの開発者の方々や企業に参加してほしいですね。それこそが、無償でオープンプラットフォームとして展開する意図なのですから。私たちはみなさんの頭脳を必要としています。

Photo Symbian Foundation設立からプラットフォーム資産のオープンソース化までのロードマップ


携帯業界のトレンドを知りたいと思ったら→+D Mobile「業界動向」へ
  • 各キャリアの発表会リポート
  • 国内外の携帯市場動向
  • 通信業界のキーパーソンインタビュー
  • 携帯事業者別シェア/携帯出荷台数
  • 携帯関連の調査リポート記事

携帯業界のトレンドや今後を把握するのに必要な記事だけを集めたのが“+D Mobile 業界動向”。記事はトピックや連載ごとにアーカイブされ、必要なときにまとめてチェックできます。
今すぐアクセス!


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年09月25日 更新
  1. 富裕層向けカードの潮流が変化 アメックス、三井住友、ダイナース、ラグジュアリーカードが狙う“特別な体験価値”とは? (2026年09月22日)
  2. 「iPhone 18 Pro」は何が進化した? 「iPhone 17/17 Pro」とスペックを比較 全て20万円超えの価格が悩ましい (2026年09月10日)
  3. 似て非なる?「iPhone 18 Pro」と「iPhone 17 Pro」の外観上の違いを比較する (2026年09月23日)
  4. “iPhone 18難民”の買い替え先は? 最新「iPhone 18 Pro」と型落ち「17/17e/16」から最適解を考える (2026年09月25日)
  5. ドコモがahamoの料金刷新、40GB・60GB・120GBの3段階制に 月額3135円〜に値上げ (2026年09月25日)
  6. 出そろった「iPhone 18 Pro」の価格を4キャリアで比較 ソフトバンクが衝撃の安さ、楽天モバイルが異例の施策 (2026年09月13日)
  7. どちらを選ぶ? 「iPhone 18 Pro」と「iPhone Duo」のスペックを比較、14.5万円の価格差をどう捉えるか (2026年09月24日)
  8. 「マイナポータルアプリ」が「マイナアプリ」へ刷新されて何が変わった? メリットや利用方法を解説 (2026年09月20日)
  9. イオンでアプリ使ってる? お得に買い物をする方法を調べてみた【2026年9月版】 (2026年09月24日)
  10. キャリアショップや家電量販店よりも厳しい現実――街中の「併売店」の“今”を探る (2026年09月21日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー