携帯電話向けの汎用OSが注目を集める中、Symbian陣営が「Symbian Foundation」を設立し、OSをオープン化するという大きな動きに出た。
Nokia、NTTドコモ、Sony Ericsson、Motorola、AT&T、LG電子、Samsung電子、ST Microelectronics、Texas Instruments、Vodafoneをボードメンバーとして設立されたSymbian Foundationは、Symbian OS上で稼働する「S60」「UIQ」「MOAP(S)」という3種のUIを統合したプラットフォームを開発し、オープンOSとして同ファウンデーションの参画企業に無償提供すると発表。開発者の負担を軽減するとともに、グローバル向けの端末開発を容易に行える環境を整え、エコシステムのさらなる強化を目指すとしている。
同Foundationの設立については、「Linux陣営の台頭に対する対抗策」や「端末開発、サービス提供、OS開発を1社で手がけるAppleに対するNokiaの対抗策」と見る向きもあるが、その真意はどこにあるのか。また、統一プラットフォームへのMOAP(S)の統合が日本の端末開発にどんな影響を与えるのか。英SymbianでCEOを務めるナイジェル・クリフォード氏とシンビアン代表取締役社長の久晴彦氏に聞いた。
ITmedia Symbian Foundationの発足については、「Linux陣営やWindows Mobileに対する対抗策」「Appleへのけん制」などといった声が聞かれますが、設立に至った真意はどこにありますか。
クリフォード氏 Symbian Foundationを設立した大きな理由は、開発者のチャンスを切り開くためです。現在、Symbian OSには「S60」「UIQ」「MOAP(S)」という3つのユーザーインタフェースがありますが、あるプラットフォームが3つの異なるUIを持ち、さまざまな開発を行うためにコストや労力がかかるような状況は、ベストとはいえません。
私たちは将来、健全なエコシステムを構築するのに重要なのが開発者の存在であると考えており、そのために分断していたUIを統合したわけです。これらを1つのソフトウェアソリューションにまとめることで、これまでは、UIQ、MOAP(S)、S60のそれぞれに発生した開発コストを、機能やフォームファクターといった差別化ポイントの部分に投資できるようになります。Foundationの参画企業にとって、より効率化された開発環境になるということです。
ITmedia 他の汎用OSの台頭やiPhoneの成功は、Symbian Foundationの設立にはあまり影響していないということでしょうか。
:クリフォード氏 私たちは、(Windows Mobileなどの)大手ブランドやLinux陣営といった勢力と戦って、打ち勝ってきたわけです。パートナーや開発者のために、“どこまでSymbian OSを進化させることができるか”ということが、Foundationの設立の大きなきっかけです。
ITmedia Symbian Foundationが開発する統一プラットフォームには、ドコモが開発したMOAP(S)も含まれています。MOAP(S)は単なるUIではなくキャリア固有のサービスにかかわる部分も含んでおり、すべてが取り込まれると日本独自のサービス開発が難しくなることが懸念されます。この統一プラットフォームは、MOAP(S)のどこまでを取り込み、どこからを参画メンバーの差別化部分とするのでしょう。
久氏 これまでのMOAP(S)のドコモ独自のユニークな部分や、今後の日本独自のサービスや機能は「差別化部分」として持つことになるでしょう。ここを将来、統一プラットフォームとして提供するかどうかは、ドコモさんの考え次第です。
クリフォード氏 ユーザーにどんな付加価値を提供するかは、端末メーカーや通信キャリア、サービスプロバイダによって実現されます。あるいは、共通で利用可能なアプリケーションやゲーム、ダウンロードできるコンテンツを1つのパッケージにまとめた形で、ある通信キャリアやメーカーが提供するとか、サードパーティが特定のセグメントに対してパッケージ化されたものを提供するといった形も考えられます。
ITmedia 統一プラットフォームでは、S60がUIの軸になるのでしょうか。
クリフォード氏 参画メーカーは、共通プラットフォームの構成要素となる「アプリケーションスイート」「ランタイム」「UIフレームワーク」「ミドルウェア」「オペレーションシステム」「ツール・SDK」の部分を使うことになります。
また、Symbian OSとS60は統一プラットフォームのコアとなるので、Symbian Foundationではコードの統合を行います。(S60、UIQ、MOAP(S)が含まれた)統一プラットフォームを利用することで、これまでMOAPのためにのみ開発を行ってきた開発者は今後、端末やアプリをグローバルで展開しやすくなります。
久氏 統一プラットフォームがS60、UIQの要素を包含しているので、統一プラットフォーム上のアプリは、海外端末でも動くようになるわけです。
ITmedia S60は、統一プラットフォームの軸になることから今後もNokiaが開発を進めることになると思いますが、MOAP(S)とUIQに関しては新たな発展はないのでしょうか。
久氏 現在、ここには既存のUIQとMOAP(S)とS60が挙がっていますが、将来、Foundationの参画企業が提供することで拡張を期待できる部分です。
ITmedia Symbian OS自体の開発は今後、Nokiaが主導することになるのでしょうか。
クリフォード氏 Symbianの社員はNokiaの社員になるので、Symbianの大半の開発者が、最初の段階ではNokiaの人間になります。
ITmedia そうなるとOS開発において、NokiaとほかのFoundation参画メンバーが平等な関係にならないのではという懸念もあります。
クリフォード氏 Foundationには10社で構成されるボードメンバー制があり、OSに必要とされる機能はボードメンバー間の話し合いで決まります。そのため、平等な関係を維持できるはずです。
また、ボードメンバーの構成は定期的に見直しの対象になると考えられます。それはFoundationにどれだけ貢献しているか、Foundationの資産を使った携帯端末がどれだけ出荷されているかなどで決まります。
ITmedia 統一プラットフォームは、携帯市場に携わる各プレーヤーにどんなメリットをもたらすのでしょう。
クリフォード氏 端末メーカーにとってのメリットは、さまざまなソフトウェア資産を無償で活用でき、その分のコストを差別化のために振り向けられることです。あるいは端末のコストダウンをはかるためにも利用できます。これにより、端末メーカーは、各国固有のサービスや機能の開発に専念できます。例えば、さまざまなライフスタイルに適した多彩な端末の開発や、特定の国や言語への対応といったところに集中しやすくなるでしょう。
通信キャリアにとってのメリットは、サポートしなければならないプラットフォームを減らせることです。これまでは、それぞれのインタフェースごとにアプリなどのテストを行う必要があり、それにコストや時間を割かれていたわけですが、それを軽減できます。
開発者には、アプリを複数のインタフェースに対してではなく、1つのインタフェースに対して開発すればいいというメリットがあります。
ITmedia Symbian OSがトップシェアを守るためには、開発者の存在が重要になります。開発者を増やすために、どんな取り組みをしていますか。
クリフォード氏 草の根レベルでは、大学にカリキュラムを提供することで、コンピュータの授業でSymbian OSに関する教育を提供できるようサポートしています。また、パートナーや開発者へのプログラムを通じた、1つのバーチャルコミュニティも作っています。開発者に集まってもらい、さまざまな問題に関する回答をSymbianの専門家から得たり、プロジェクトチームを結成したり、オンライン学習をしたり――といった環境を整備しています。
ITmedia 携帯電話市場では汎用OSの台頭が顕著ですが、他のOSの状況をどうとらえていますか。
クリフォード氏 競争力を保つ必要はありますが、私たちはLinux陣営やMicrosoft、Apple、Googleなどとの競争には慣れており、依然として市場ではリーダーです。私も久も常に、いかにして市場におけるリーダーシップを保つことができるかを考えています。次の重要なステップとして発表したのがSymbian Foundationであり、開発者には最適なチャンスを提供できると思います。競争が激化していることは認識していますから、自己満足に陥ることなく、さらに先を行くためにさまざまな施策を行っているわけです。
Symbian Foundationは、オープンソースの動きとしては歴史上、最も大きな取り組みといえるでしょう。
ITmedia 日本のSymbian陣営にメッセージをお願いします。
クリフォード氏 Symbian Foundationは最大規模のチャンスを提供できますから、多くの開発者の方々や企業に参加してほしいですね。それこそが、無償でオープンプラットフォームとして展開する意図なのですから。私たちはみなさんの頭脳を必要としています。
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