携帯ビジネスの転換期、シャープは“ここ”を攻める――シャープ 長谷川祥典氏ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)

» 2008年07月17日 01時23分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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「2台目需要」と「法人向け端末」に注目

ITmedia ところで足下の端末市場環境に目を向けますと、今年の春商戦以降の販売動向は3カ月連続で大幅な前年比割れの状況です。年末にかけても、ドコモ向け端末市場の総販数が、バリューコース導入後の機種変更需要の落ち込みで大きく減る見込みです。市場環境全体をとりまく事業環境は、とても厳しいのではないでしょうか。

長谷川氏 2008年の国内市場の縮小は避けられないでしょうね。すでに4〜6月からその兆候が見え始めていますし、年末商戦に向けては2年の割賦販売による(谷間の)影響を大きく受けます。

 では、我々がこの市場全体の冷え込みにどう対応するかといいますと、1つには「2台目市場」へのフォーカスがあります。ここはiPhone 3Gのような新たなコンセプト端末が注目されていますが、それ以外に法人市場向けの2台目需要にも期待できます。特に法人向けは、BlackBerryのような企業内の情報サービスと連携した“新たなスタイルの市場”も創出されると考えています。

 そして、もう1つの対応策としましては、海外市場への積極的な進出があります。すでに中国市場への展開を発表していますが、再び海外市場にチャレンジすることで、販売規模の維持・拡大を狙っていきます。

ITmedia なるほど。巧みに新たな成長セグメントを獲得していくのは重要です。しかし、その一方で、私は日本メーカーに今後必要なのは、開発・生産の効率性における戦略だと考えています。例えば、AppleはiPhone 3Gを事実上1モデルしか作っておらず、これを世界中で売っています。すでに3日間で100万台を販売したとの報がありましたが、iPhone 3Gはおそらく1年間くらい売られて、非常にコスト効率がいい製品となるわけです。

 翻って、日本の端末市場を見ますと、短期間で大量のラインアップを開発・投入し、確かに「端末数」は多いですけれども、メーカーとしてのコスト効率の部分に大きな課題があるのではないかと感じています。

長谷川氏 そうですね。メーカーとしてはラインアップが多ければ、「それだけ売れて事業が拡大するのでは」と期待してしまうところもあるのですが、今後の市場環境の変化を考えれば、冷静な戦略が求められるのも確かです。

 率直に言えば、重要なのはモデル数ではなく、「ヒット商品を作ること」。1つ1つのモデル(の開発)に時間をかけて、注力するという考え方も必要になってくると思います。いきなりモデル数を減らすというのも難しいですが、新販売方式が広がるのにあわせて、メーカーの開発や生産の効率性に対する考え方も変化していくでしょう。

ITmedia 2年間の利用が広がることで、やはりユーザーとしては「本質的によいものが欲しい」となってきます。これはハイエンドモデルとスタンダードモデル(普及期)のどちらにも言えると思います。ですから、時間をかけてじっくりと作られた作品が登場する環境になってくれればと思います。シャープの一球入魂、満を持して作られたモデルというのを、個人的にも見てみたいですね。

新たなビジネスモデルは海外市場から導入する

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ITmedia メーカーのビジネスモデルとしては、Appleが「メーカーがコンテンツ/ソフトウェアの流通プラットフォーム」を作り、端末販売後の収益源にするというモデルを提案しました。これはメーカーにとって、魅力的なビジネスモデルの転換だと思うのですが、シャープとして取り組む考えはないのでしょうか。

長谷川氏 iPhone 3Gのようなビジネスモデルをやりたいとは思いますが、国内市場ではキャリアがコンテンツ/ソフトウェアの流通プラットフォームを提供していますので、なかなかそれは難しい。キャリアのビジネスと衝突してまで、そこに我々に参入するメリットがあるのかという課題があります。

 一方で、そのようなビジネスモデルは、中国など海外にシャープが進出する上で取り組む価値があると考えています。海外の新興市場ではキャリアのサービスやプラットフォームビジネスが未成熟であり、そこでシャープの端末シェアを拡大していけば、サービスやコンテンツ/ソフトウェア流通まで含めたビジネスの芽がでてくる。幸い、我々は日本市場での経験からコンテンツやソフトウェア流通をどうビジネス化するかのノウハウを持っています。ですから、(Apple的なビジネスモデルは)海外市場向けとして検討を進めています。

ITmedia 携帯電話メーカーを取り巻く環境変化として、もう1つ、総務省主導で進んでいる「SIMロックフリー」の議論があります。仮にSIMロックフリー市場の創出が、義務的にかどうかは別として行われた場合、シャープとしてはこの分野にどのような姿勢で臨みますか。

長谷川氏 SIMロックフリーになった時に重要なのは、キャリアを移し替えたときにどれだけのサービスを継続して使えるか、ということになるでしょう。ユーザーが求めるある程度のサービスは、SIMロックフリーの環境下でも実現できるようにしなければなりません。そういう意味では、Appleなど海外メーカーが実現しているようなサービスやソフトウェア提供の仕組みが必要になります。

 仮に日本でSIMロックフリー市場が現実化し、メジャーなものになるとすると、メーカーとしては「サービス提供まで踏み込む」ことになるでしょう。キャリアがサービスの仕様や基盤を共通化してくれればいいのですが、そうならなければ、メーカー独自のサービス提供が始まることは十分に考えられます。

ITmedia Appleの「MobileMe」などは、その好例ですね。海外メーカー製の端末ではGmailなどインターネット上のオープンなサービス対応も進んでいますし、SIMロックフリーが実現すれば、そういった流れが加速化するかもしれません。

 シャープとしては、もしSIMロックフリーをパブリックに「やらなければならない」ということになれば、独自のサービス提供やインターネット標準仕様/サービスへの対応を積極的に行う、と。

長谷川氏 それはやらなければならないでしょうね。ユーザーが困らない環境を提供するのが、我々の仕事ですから。

ITmedia 一方で、販売面でみるとSIMロックフリー市場では、従来のようなキャリアに対して供給するモデルではなくなります。こちらでの懸念はありませんか。

長谷川氏 販売リスクを直接的に負わなければならなくなる、販売チャネルとの関係構築が必要になるといった変化はありますが、我々は家電メーカーとして、そうした(メーカーとしての)販売モデルのノウハウがあります。また、中国ではSIMロックフリー的な販売になりますので、もし国内にもSIMロックフリー市場ができれば、海外向けの端末や販売モデルを(日本に)逆輸入できるでしょう。

ITmedia なるほど。日本メーカーが海外市場に進出することは、日本市場の変化に備えるという意味でも重要かもしれません。

スーパー3G時代に向けて、フォームファクターが変化する

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ITmedia これから2010年に向けては、ビジネスモデルの多様化と変化、さらにドコモのスーパー3G(LTE)のような、大容量高速通信インフラの導入など、携帯電話業界を取り巻く環境が大きく変わります。シャープとして、この2010年に向けてどのような展望を持たれていますか。

長谷川氏 これからスーパー3Gの時代に向かっていくにあたり、重要なのはやはり“インターネットとの接続性”ですね。この部分は今から強化していく必要があります。この潮流の中では、今ある携帯電話からフォームファクターが大きく変わるかもしれません。

 もう1つ(スーパー3G時代に向けて)重要なのは、ビジネスユーザー向けの端末やサービスです。これは2009年頃には本格化したいと考えているのですが、法人市場で従来よりもデータ通信サービスが使いやすく、かつセキュリティ性の高い利用環境を構築する必要があります。この分野もスーパー3Gなど大容量・高速通信時代にシフトする下地になるでしょう。

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