ケータイの歴史に、未来を重ねる――デザイナーに聞く「PLY」が生まれるまでau design projectのコンセプトモデル(2/2 ページ)

» 2008年08月12日 19時58分 公開
[青山祐介,ITmedia]
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10年前なら思いつかなかった、PLYのかたち

 トークショーの後半では、神原氏が自らPLYのコンセプトについて説明。PLYをデザインするにあたっては、どうすればいいかと悩み、いつまも古くならない普遍的なデザインとはどういうものかを考えるのに時間がかったと振り返る。デザインに思いを巡らす中、“過去のケータイのデザインに自分が重ねていくもの、乗せていくもの”という発想から生まれたのがPLYだった。

 「おそらく10年前であればこの形は思いつかなかっただろう。“PLYとして描いた絵”が、リアルなものとして実現できてしまう時代に、実際にデザインできたことに感謝している」と神原氏。「たくさんのデザイナーが積み上げてきたものに感謝し、歴史を伝えたいということでこの“層”というものをコンセプトにした」(神原氏)

 コンセプトモデルのメインカラーは、積層の木材であるプライウッドをイメージしたもので、木材を感じさせる色味を使い、美しい機能と温かみを表現することに挑戦している。側面に機能の名称が入ったタブが並ぶ独特のデザインについては、“普通の人が言葉で伝えたり、絵を描いて伝えたりできるものがいいデザイン”という発想に基づいていると話す。「例えばINFOBARだったら、“下に四角いタイルを描いてここがいろいろなカラフルなやつだよね”と人に伝えられる。PLYは、“層になっていて横にタブがついているヤツ”という簡単な言葉で人に伝えられるデザインだと思う」(神原氏)

 PLYはタブで機能を選べる仕組みで、それぞれの層にさまざまな機能が仕込まれている。例えば2層目と4層目の間にはダイヤルキーの層があり、別の層にはプロジェクターやモバイルプリンターがある――といった具合だ。そしてこれが、機能とデザインの両立にも一役買っている。

 「PLYにはプロジェクターも入れており、本体の開き方は、まるでオペラグラスや本を開くように自然な形にしている。最初は無理やりプロジェクターを入れようとしたが、意外にも本体の形に添って入れるのが美しく、また、展開したときに傾斜しているのがプロジェクターらしくなった。こうした機能をタブで開くように考えたのは、正面から見たときにいろいろな色を見せたいというほかに、ファイルにタブをつけて整理していくというイメージも含ませた」(神原氏)

 さらに、プライウッドをイメージしたブラウンのほかにもピンクをはじめとする多彩なカラーバリエーションを用意。特にピンクは、神原氏も含めて男性でも好きになるピンクを、さまざまな色を組み合わせることで表現できたという。

Photo PLYは造形的な提案に加え、カラーバリエーションも提案。それぞれのボディカラーが、層ごとに違う色味を持つ

 こうした神原氏の説明に対して、鈴木氏は「最初にPLYを見ただけで、神原君のやりたいことが理解できた。カドケシもそうだが、神原君自身の目指しているものとやりたいことが常に一致していてとても明快」と評する。

 「“層”は今までのケータイでは語られなかった、いろいろな物語性を取り込もうとしているように感じた。(バリエーションの1つである)“ティッシュ”というアイデアも、“ケータイにティッシュが加わったら”というものではなく、まったく別のティッシュボックスが生まれたような印象を受ける。また、さまざまな色が“層”にあることで、その間にある色も好きになれると思う」(鈴木氏)

 さらに鈴木氏は大学時代の同級生という立場から、神原氏の独特のものの見方にも触れた。「鈴木君はいつも僕が思いつかないような、人が考えないような視点で考えてくれる。僕はその話を聞いているのが楽しい」(鈴木氏)

 また、“ケータイの層”というテーマにちなんだ作品として鈴木氏は、自身が学生時代に映像インスタレーションの実写アニメーションを制作するために用意した小道具の国語辞典を披露。これはドーナツ型の国語辞典で、一番上のページにある“あかさたな……”行のインデックスが、収録されたコンテンツの比率に合わせて円グラフのようになっているというものだ。この辞書のコンセプトは「国語辞典というコンテンツの“仕組み”を変えてみたらどうか、という発想で作ってみた。『円環国語辞典』と名づけていて、構造を変えてみることでまったく違った辞書引きという体験ができないか」というものだ。

Photo 鈴木氏が大学の卒業制作用に作った「円環国語辞典」

 神原氏の「鈴木君は常に感覚として“層”というものを考えていたんだなと思った」というコメントに対して鈴木氏は、“層”に対する思いとデザインの関連性について次のような言葉で説明する。

 「地面も切ると地層が見える。僕たちは今、生きている地面を見ているが、昔の人はその下の層を見ていた。そして地面を切ったときに昔の地層を見て初めて『ああ』と思う。たぶん“気が付く”ということは、何かの拍子で切られたということではないか。物事の断面を垣間見たときに『あれ?』と思う。こうした新しい切り口を見つけることが、物を作るだけではない、デザインという“気づき”の瞬間を作ることになるのではないか」(鈴木氏)

“使う人が主役”の時代、デザインはどう変わるのか

 “魅力的なケータイ作りが難しくなった”といわれる中、神原氏と鈴木氏は、これからのケータイのデザインをどう考えているのだろうか。

 鈴木氏は、自身の扱うメディアアートとケータイのデザインを比較しながら「プロダクトデザインの世界は広い意味でのアートと比べるとかなり隔たりがある。ただ、メディアアートやテクノロジーを使ったデバイスアートと言われる分野と比べるとかなり近いものがある」という見方を示した。

 そして「今はインターネットやPCが当たり前で、技術だけでなくユーザーの感覚もどんどん変わっている。メディアアートも同じで、僕が学生だった7〜8年前では、新しい技術をテーマにするだけでも十分新しい表現だったが、今では人々の体験といったことが主役だったりする」と、その変化に言及し、こうした“感覚が主役”という時代性を踏まえて、「“自分を伸ばしてくれるケータイ”があったら楽しいと思う。PLYはケータイというものの存在を広げようとしているのではないか」と期待を寄せた。

 “使う人が主役のデザインの時代”について神原氏は「プロダクトデザインは、デザイナーが作っているのか、みんなが作っているのかという線引きが難しい。だから“20年後のケータイのデザイン”も、真剣に考えれば考えるほど分からない。なぜなら20年後のユーザーがどういう人たちなのかということが明確に想像できないから」と、ケータイデザインを手がけたデザイナーの立場からコメントした。


 [PLY -ケータイの層-]展は、KDDIデザイニングスタジオで8月31日まで開催され、その後、9月上旬に福岡のIMS、9月下旬に大阪のクリスタ長堀 滝の広場、そして10月中旬に名古屋の名古屋ミッドラドスクエアを巡回する。

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