ウィルコムが10月28日、2008年冬モデルを発表した。音声端末として、京セラ製のストレート端末「HONEY BEE2」、東芝製のスライド型SIM STYLEジャケット「WILLCOM LU」、日本無線製の防水ストレート端末「WX330J」の3機種を用意したほか、PCカードスロットにすっぽり収まるデータ通信端末「AX530S」、人気のスマートフォン「WILLCOM 03」の新色というラインアップを用意。これに加えて、それぞれの端末で利用できる独自のサービスを用意し、使い勝手のよさや利便性をアピールして秋冬商戦での存在感を示す。
発表会であいさつに立った取締役執行役員 副社長の土橋匡氏は、「端末の機能やデザインだけでなく、サービスも含めた商品性で、1人でも多くのユーザーに加入していただける、マーケットの中で存在感ある通信会社にしていきたい」と話し、サービスを同時に提供することで、ウィルコムならではの魅力を提供していく戦略を説明した。
毎月電気通信事業者協会(TCA)が公表している契約数データの推移を見ると、ウィルコムは8月、9月と加入者の数を解約者の数が上回る「純減」が続いている。土橋氏によると、10月の状況も厳しく、このまま行くと3カ月連続の純減となる可能性が高そうだという。
このウィルコムにとって厳しい状況の主な要因は、同社が切り開いてきたPC向けデータ通信サービス市場での競争激化だ。携帯電話事業者が提供する、PHSよりも高速なHSDPA方式での定額データ通信が普及してきたこともあり、特に法人市場では「かなり厳しい戦いを強いられている」(土橋氏)。ここでの純減が大きいため、合計の契約数も純減になってしまっているようだ。
一方、コンシューマー向けの音声通話需要は好調だ。特に070番号への通話がすべて24時間無料、Eメール送受信も無料の「ウィルコム定額プラン」を利用して通話を楽しむユーザーが多く、こちらは純増が続いている。2008年2月に投入した音声通話向けのシンプルな端末「HONEY BEE」は発売以来品薄が続いており、GfKの調査では携帯電話を含む販売ランキングで上位争いを続けるほどの人気になっている。
こうした状況の中で、ユーザーの利用形態も少しずつ変化している。土橋氏に続いて端末とサービスの説明をした執行役員サービス開発本部長の黒沢泉氏は、「当初はウィルコムの音声通話サービスを、1対1のホットライン的に使っていたユーザーが多かったが、最近は特定グループ内での通話に利用しているユーザーが多い」と最近の傾向を紹介。ニーズの変化に応えるため、ウィルコムは新たに最大7人での同時通話が可能な「ウィルコム ミーティング」を開始することを明らかにした。
ウィルコム ミーティングは、事前の申し込みなどは不要のサービスで、専用Webサイト(http://www.willcom.me)にアクセスするか、ウィルコムガジェット対応機種で利用できるウィルコム ミーティング ガジェット経由、もしくはmtg@willcom.me宛てに定型Eメールを送ることで利用できる。主催者がミーティングルームを設定し、最大7人までのメンバーを決めると、メンバーに招待メールが送られる。メールには専用の接続先が記されており、受け取ったユーザーがミーティングルームに接続すると、多者通話が楽しめる仕組みだ。料金は60秒で10.5円とリーズナブルに抑え、さらに月額の上限を1050円としており、たとえ使いすぎてしまっても高額な利用料が請求される心配はない。
また、タッチパネルを備えたスマートフォン「WILLCOM 03」と「Advanced/W-ZERO3[es]」向けには、新たなコミュニケーション手段として「手描きチャット」を用意した。手描きチャットは、ほかのWILLCOM 03ユーザーやAdvanced/W-ZERO3[es]ユーザーと、画面上に描いた絵や文字、写真などを共有できるサービスで、シャープが月額315円で提供する。画面への書き込みはリアルタイムで相手側にも反映されるため、会場では2台のスマートフォンで○×ゲームができる様子や、端末内に保存した写真を表示して、フレームや手描きのメッセージを添えて相手に見せるデモなどを披露していた。
「誰でも簡単にタッチパネルを使って手描きのメッセージのやりとりができる。写真もその場で共有できるなど、リアルタイムのコミュニケーションを提供する。まずはコンシューマー向けにアピールするが、ビジネスシーンでも幅広い用途で活用できると思う」(黒沢氏)
なお、会場ではこの手描きチャットサービスをかつての「文字電話」サービスを彷彿とさせるものだとの指摘があり、その頃の経験が生かされているのか、との質問があった。ウィルコム(当時はDDIポケット)が1999年に同サービスを開始した際に「自分でプレゼンした」という土橋氏は、「文字電話は時代を先取りした商品だったと思うが、当時は最初にものすごい勢いで売れて、その後ものすごい勢いで売れなくなった。あの頃は2台持ちという概念がなく、電話機能がなかったこともあってお客様の支持が得られなかった」と振り返り、「手描きチャットは文字電話とは若干コンセプトが違う。電話とメールに次ぐ第3のコミュニケーションとして提案したい」と話した。
主に法人ユーザー向けに販売する予定の日本無線製端末「WX330J」には、ぬれた手で触ることも多いという病院での利用などを想定し、PHS端末としては初めてIPX5/IPX7相当の防水性能を実現。さらにニーズが高まっているセキュリティ管理機能として、「ビジネス安心サービス」を展開する。
ビジネス安心サービスは、管理者のPCから遠隔操作で端末の機能が管理できるサービスで、これまでのウィルコム端末より格段にセキュリティが高くなっているのがポイント。外部デバイスを接続した際の動作を許可したり、位置情報通知の有無を設定したり、場合によっては端末で警告音を鳴らしたり、ソフトウェアの更新を遠隔操作で行ったりできる。もちろんロック機能も用意しており、データの閲覧許可や電話機能のロック・解除、メール送信許可、音声発信許可、Web接続許可などがブラウザ上で設定可能。アドレス帳の共通書き込みやデータの操作、グループ設定などの機能も提供する。
サービス開始は12月1日からで、利用料金は初期登録料が1請求先あたり1050円、月額利用料は1回線あたり210円。どの機能を使っても追加料金は発生しない。
使いやすい端末と魅力的なサービスを組み合わせ、コミュニケーションやセキュリティといった新しい「ウィルコムならでは」をそろえた2008年冬モデル。ここまでに挙げた3つのサービスに加え、メールアドレスのドメインも、DDIポケット時代から続いている「@**.pdx.ne.jp」から、ウィルコムとすぐに分かる「@willcom.com」に変更することを発表している。土橋氏は、今回の新ラインアップの投入により、11月以降契約数が純増に転じるだろうと期待を寄せた。
「データ通信端末とPCがセットで100円で販売されたりと、非常に厳しい状況の中で、次世代への投資もしつつ、今のお客様にも堅実なサービスを提供する必要がある。当然現行PHSの設備投資も続けて行かなくてはいけない。そのために用意したのが、今回の端末とサービスのラインアップだ。通信業界の先行きは何とも言えないが、年末から春の商戦に向けて、営業としての弾はそろったと思う」(土橋氏)
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