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» 2008年12月28日 14時00分 公開

2008年の通信業界を振り返る(2):ソフトバンクは本当に好調なのか、イー・モバイル、ウィルコムの今後は (2/3)

[あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]

目標より早く100万契約を突破したイー・モバイル

ITmedia イー・モバイルは、2008年11月に100万契約を超える契約を獲得しました。また従来より割引額の大きい「スーパーライトデータプラン にねんMAX」などの料金プランで契約することで、低価格なNetbookを初期費用100円で購入できる「100円PC」なども話題をさらいました。イー・モバイルの2008年は好調だったと言えそうですね。

Photo 「2008年のイー・モバイルは、Netbook普及の立役者となるなど、通信業界が厳しい中でよく頑張ったと思います」(石川氏)

石川 イー・モバイルは非常に評価してもいいというか、評価すべきだろうと思います。音声サービスを始めたのが2008年の春にもかかわらず、国内メーカー製は少ないながらもこれだけの端末数を用意してきたというのはすばらしいことです。また当初は2009年3月までに100万契約獲得を目標にしていたものを年内に達成してしまったというのもすばらしい。通信業界が非常に厳しい中、よく頑張っているなと思います。

神尾 なに優等生的発言に徹しているんですか(笑)

石川 100円PCといったような販売方式にしても、Netbookの普及に追い風になったのは事実ですし、今の日本のNetbookブームを作った立役者ではあるなぁというのがあります。ただ、果たしてあのビジネスモデルが今後も続けられるのか、というのはクエスチョンマークが付きますね。

 以前「あの(100円PCの)販売方式は問題ないのですか?」とイー・モバイルの阿部基成副社長に尋ねたところ、あれは「本体の値引きがいくらで月々の支払額がいくら、通信料はいくら……」という内容が明確に記載されているから問題ないということでした。今までの販売奨励金モデルと比べて、そういった内容が明確になっているので、総務省にもお伺いを立てて「問題ない」と言われているそうです。そういうものなのだということを考えると、ほかのキャリアも真似してくる可能性も十分あるのかな、と思います。この販売方式がどこまでアドバンテージになるのかは、注意深く見守っていきたいですね。

神尾 イー・モバイルに関しては、「3大キャリアに対抗しなかった」という戦略が非常に評価できると思います。新しいマーケットを作った上で自分達は成長するんだという方向性がよかった。将来に向けてトレンドを創出し、牽引していく中でイー・モバイルが果たしている役割というのは、彼らのシェア以上に大きい。来年の動向にも注目すべきキャリアなのかなと思います。

 キャリアとしての規模が小さい分、マーケティングのフットワークもいいですし、インフラなどもしっかりと作っています。その辺りは評価できますね。前回auのマイノリティ戦略という話が出ましたが、今はイー・モバイルがいちばんマイノリティ戦略をしっかりやっていて、その中でポジションをしっかり作っている。最近人気のマーケティング用語ならば「ブルー・オーシャン戦略」と言うのかも知れませんが(編注:INSEADビジネススクールのW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏の提唱する経営戦略論。競争のない未開拓市場を切り開くことを説いた)、新しいところを作ってきているという意味ではよいのかなと思います。

 端末メーカーに関しても、イー・モバイルのような小規模キャリアが海外メーカーに頼るのは当然の流れですし、Windows Mobile機などのスマートフォンを積極的に使うのも当然だと思います。それは間違っていないというか、“次”を先取りしていると思います。極論すれば、イー・モバイルはこのまま3大キャリアと対抗しないでほしいですね。むしろ対抗しないことが、彼らの強みであり誇りになるのではないかと思います。

石川 確かに3大キャリアを相手にしなかったのはよかったと思うのですが、果たしてウィルコムがライバルでいいのかな、という思いはあります。もう少し高い志を持って頑張っていただきたいですね。

 もう1つ言えるのは、やはり勝負はモバイルWiMAXが本格稼働する前なんだろうということです。今回の100円PC的なやり方というのは、UQコミュニケーションズなどには非常に参考になっている部分だろうと思います。UQ自身がサービスを提供することはあまりなく、MVNOが実際のサービスを提供することになるのだと思いますが、例えば将来的にモバイルWiMAX対応のノートPCを購入するとき、店頭でモバイルWiMAXの契約をすればその場で3万円くらいの値引き、というビジネスモデルができてしまうと、イー・モバイルとしては厳しくなる可能性はあるのかな、と。モバイルWiMAXが本格稼働する前に何か次の手を打たないと、今のウィルコムとそう変わらない状況になってしまうのかも、と思います。

神尾氏 そこはちょっと違う意見ですね。モバイルWiMAXというのは移動環境での使い勝手が悪いんですよ。携帯電話系の技術じゃないので。ですから、イー・モバイルのライバルというのは、おそらく次に3大キャリアがやってくる新ビジネス開拓の動きだと思います。イー・モバイルと同じ方向に3大キャリアも進んできているので、彼らの持つ資金力と規模の攻勢から、どれだけフットワークよく逃げ切れるかということになると思います。

 逆にモバイルWiMAXというのは、どちらかというと“ピュアモバイル”というよりは“準モバイル”くらいですよね。家の中で移動するとか、都内でオフィスからカフェに移動するとかという世界であって、本当の意味で全国区で移動するような、ノートPC片手にどこにでも行って使いたいというようなニーズとは少々違うと思うのです。そこには周波数特性の違いもあると思います。モバイルWiMAXは2.5GHz帯ですが、これはエリアを面展開するにはコストがかかりますし、屋内浸透も大変な周波数です。イー・モバイルの1.7GHz帯でCDMA系の技術とは、エリアの構築という部分で特性が変わってくると思うのです。そう考えた時、モバイルWiMAXはモバイルWiMAXで別のデータ通信市場という可能性があるのかな、と思うのです。

 先ほどモバイルWiMAXを店頭でオンにして、そのまま家で使うということはあると思うんですよ。ADSLの代わりという形で。イーモバイルもそういった需要をつかんできてはいますが、イー・モバイルの速度でホームブロードバンドはちょっとつらい。しかしカフェでちょっと使いたいくらいなら、あの速度で十分です。

 データ通信市場も今までは単一のものとして見られてきましたが、規模が拡大するにつれて、かなり多様性が出てくるのではないかと思います。モバイルWiMAXが移動中に使えるかというと、かなり厳しいものがあると思いますし。

 一方で、イー・モバイルの最大の弱点と言えるのはサポート拠点です。イー・モバイルのサポートセンターへの不満というのは結構多いのです。これはイー・モバイルの今後の成長、特に法人市場への展開で足下をすくわれる要因になりかねないと思っています。ここは大きな課題です。

石川 Nebbookは一過性のブームなのかという部分も、まだ見極めなければいけないポイントなのかな、と思います。

神尾氏 Netbookは、カジュアルモバイラーという点ではまだまだ需要はあります。これだけPC市場が成熟しているのに、なぜ2台目需要がこんなに成熟していなかったのかと言えば、やはりノートPCが高すぎたんです。だからNetbook市場はまだまだ伸びると思いますし、ハードウェア的にも進化するポテンシャルがあります。

 イー・モバイルがうまかったのは、内蔵通信モジュールとか高尚なことを言わずに、USB接続のモデムという現実的な手法を採ったことですね。それこそNetbookだけでなく、ドライバさえ作ってしまえばどんなものにもつなげられます。汎用的なUSBモデムを用意して、WindowsやMacなどさまざまなプラットフォームに対応しましょうというスタンスは、とてもビジネスセンスがいいですね。

国内メーカー製端末は必要か

石川 日本の端末メーカーがイー・モバイル向けに面白い端末を投入してくれるといいのですが……。

神尾 日本のメーカーの端末はなくてもよくないですか?(笑) 少なくともイー・モバイルが2000万契約くらい獲得するまではいらないと思いますけど。

石川 いやいやいやいや……。

神尾 イー・モバイルの優位性は、よくも悪くも既存キャリアのコスト構造から自由であることなのだから、わざわざ高コストな日本メーカーに端末を独自開発してもらうというのは、リスクがあると思うのですが。

石川 いや、でも……。あまりにあまりですよ、今の端末は(苦笑)。

 例えば京セラのPHS「HONEY BEE」のような端末が作れればいいわけですよ、海外メーカーでも。決してスペックは高くないけれども、持ってて楽しく満足感が得られる端末が作れるならば。しかしそれはまだ海外メーカーに求めるのは酷なのかなぁという気がしますし。

神尾 日本のメーカーがスマートフォンを作る時に、イー・モバイル向けを作ってもらうのはアリだと思いますけどね。特にWindows Mobileならば、ワンセグやFeliCaだって載せることは可能ですし。

 難しいのは、既存のシェアをある程度以上に取ろうとすると、ほかのキャリアと同じことをやらなくては、となってしまうことなんです。しかし、それが意外と落とし穴になるというケースもあります。一時期のウィルコムが1つの反面教師です。携帯キャリアのユーザーを、ウィルコムが「1台目」として取ろうとして大失敗したことがあります。やはり今の大手キャリアがやっていることというのはものすごい規模がないとできないことが多いんです。

石川 データ通信を一生懸命やっていれば、恐らくウィルコムが現在抱えている400万契約程度は超えられるような気がしますね。

神尾 音声サービスに関しては既存シェアの奪い合いになる危険性もあって、そうなると3大キャリアの規模に潰される可能性がでてきます。1台目需要を狙わない方が、イー・モバイルにとってはハッピーじゃないかと思いますね。

石川 難しいのは、データ通信端末には愛着がないことです。ウィルコムからイー・モバイルにユーザーが流れた状況を見ると、電話番号を大切にするものでもなく「速ければいい、安ければいい」ということなんだと思います。やはりなんだかんだ言ってもウィルコムがしっかりユーザーを獲得しているのは、音声通話があったからこそだと思うので、それを考えるとこの先モバイルWiMAXやLTEが出てきたとき、同じUSB端末をメインに戦っていくのはつらいのではないかと。

神尾 音声を取るにしても、スマートフォン系になるんじゃないでしょうか。他社よりも安く調達して、他社とは違う方針でやっていかなければ駄目ですし。

総務省はもっと世界を見据えた戦略を

石川 ここからは総務省の批判になるのですが……。やはりイー・モバイルの1.7GHz帯というのが、あまりに日本独自の1.7GHz帯だったことが問題だと思います。世界標準の1.7GHz帯ではないので、今回HTCがT-Mobileに供給したAndroid端末「G1」も、1.7GHzには対応しているのだけれども、そのままイー・モバイルが導入できるものではないんです。

 つまりどんな端末も、ある程度イー・モバイルの仕様に合わせなければいけないという壁があります。もし国際標準的な周波数を割り当てられていたら、イー・モバイルにはもっといい端末が出てきただろうし、それこそ総務省が狙っていたような、既存のキャリアを脅かすようなキャリアになっていただろうと思います。そう考えると非常にもったいないことをしたな、というのが個人的な意見ですね。

Photo 「総務省にはもっとグローバルなビジネス展開を意識した行政を期待したい」(神尾氏)

神尾 そもそも総務省の周波数の割り当てが、グローバルなビジネス展開をほとんど意識してないんですよ。これは別に携帯電話に限りませんけれど。

 総務省が国際感覚とかグローバル展開をうたうのであれば、彼ら自身がグローバルな周波数割り当てをすべきでしょう。逆にローカルビジネスである放送業界などは、もっと総務省が押さえ込まないといけない。総務省は口先でグローバルとか言っているわりには、通信キャリアがドメスティックな事をやらざるを得ないような周波数を割り当てている。これこそ官製不況ですよ。

石川 確かにそこはちょっと矛盾してますよね。

神尾 総務省が「グローバル」というのならば、今の周波数はしっかりと見直すべきです。特に移動体通信分野と自動車向け通信、モバイルマルチメディア放送などは、海外市場としっかり連動すべきなんです。国際化、国際化と言っている総務省が、実際は国際的なセンスがない周波数割り当てをしています。

石川 それでいてモバイルビジネス研究会で、やれメーカーに国際競争力がないだの敗北宣言だのと研究員に言わせているというのははなはだおかしい。

神尾 あと私が問題だと思うのは、情報通信と放送の周波数割り当てのバランスにおいて、将来的なビジネスの発展性や輸出産業化による国益が軽視されている点です。今後の情報流通のトレンドを中長期的な視野でみれば、主体は「通信」であり、「放送」は通信と組み合わせて使う補完メディアにならざるを得ない。さらにグローバルビジネスとの適合性も情報通信産業の方が上です。であれば、周波数の割り当てでは、まずはグローバル市場との連携・適合性を重視し、通信分野を優先して扱うべきでしょう。

石川 今年話題になった“ガラパゴス”を作っているのは総務省ですからね。

神尾 私もそのとおりだと思います。特にモバイル通信産業は、自動車産業と並ぶ「日本の輸出産業」に育てていかなければならない。世界的に見ても、放送よりも通信の方が、将来的なビジネスの発展性が高いのです。ですから、総務省はもっと日本のモバイル通信ビジネスがグローバル化しやすいための周波数割り当てをすべきだと思うのです。また、日本の産業活性化と雇用創出という点でも、通信ビジネス向けの周波数割当をもっと増やすべきでしょう。

 何だかイーモバイルから話が大きくなってしまいましたね(苦笑)

石川 ケータイだけでなく、そこに何が乗ろうと大前提は周波数がどれだけあるかという世界なので、そこの周波数の割り当てはきっちりやらなければいけないし、そこから国際競争力を考えないと、小手先で販売奨励金がどうだのSIMロックがどうだのと言っても、本当に意味がないことなんですよね。

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