拡張現実(AR)アプリとして注目を浴びている「セカイカメラ」。2009年の2月にはiPhoneアプリのデモンストレーション版が公開され、改良を施した正式版のリリースも「そろそろ」だというが、一方でマルチプラットフォーム化が着実に進んでいる。
6月26日に開催された日本Androidの会主催の「Android Bazaar and Conference 2009 Spring」では、「セカイカメラのつくりかた」と題した講演が行われ、頓智・(トンチドット)の近藤純司氏(日本Androidの会 幹事)が、開発中の“Android版セカイカメラ”に関する技術的な工夫の数々を紹介した。
「セカイカメラは、一言でいうと“現実の見え方を変えてしまうカメラ”」と近藤氏は語る。端末のカメラで写しだした“目の前の世界”に、位置情報とリンクした仮想的な物体「エアタグ」を加え、ディスプレイに表示。エアタグをクリックすると、その場所に関連したさまざまな情報を見ることができる――そんな具合に、現実と連動した「クリッカブル」な世界をリアルタイムに提供することがセカイカメラの狙いだ。
半透明のエアタグがあたかも現実世界に漂っているようなセカイカメラのビジュアルには驚かされるが、現実の視界と仮想空間上のエアタグの位置をしっかりマッチさせるためには、地磁気センサーや加速度センサーの情報をリアルタイムに反映させる必要がある。しかし、「センサーが出力する値は非常にセンシティブで、例えば手の震えなどにも反応してしまう」(近藤氏)ため、そうした不要なノイズを取り除くローパスフィルターを組み込んでいるという。
エアタグの“浮遊感”はこの工夫のたまもので、ローパスフィルターがない状態ではまるで地震のようにエアタグが小刻みに移動してしまう。さらに、「急な動きの立ち上がりに追従する」チューニングを施し、カメラを素早く動かしたときのエアタグの追従性を良くしているという。
位置情報を測定する手段にはA-GPS(Assisted GPS)に加え、2月のデモンストレーションでも使用したクウジットの「PlaceEngine」を挙げる。無線LANのアクセスポイントを活用して位置を推定するPlaceEngineは、GPSでの測位が難しい屋内などで有効なほか、アクセスポイントの設置場所を増やすことで細やかな測位が可能になる。Android用のPlaceEngineは現在開発が進んでおり、Android版セカイカメラでも対応する予定だ。
セカイカメラではアプリ使用中に写真を撮り、それをエアタグとしてアップすることもできる。ただ、Android版では機能を実行してから写真が撮れるまでに「ちょっと時間がかかる」(近藤氏)のが現状だ。この原因は、オートフォーカスのプロセスが発生するためで、「個人的にはパンフォーカスがいい」と近藤氏はつぶやく。「ピントを合わせる手間なく、即座に見たものが切り取れるのは非常に気持ちいい。そういう意味では、『iPhone 3GS』のカメラにオートフォーカスが付いたのはちょっと残念」(近藤氏)
iPhone版とAndroid版のセカイカメラでは機能的にそれほど大きな違いはないようだ。しかし、正式なiPhone版がデモ版からバージョンアップするように、Android版もさらなる改良が施される。また、近藤氏は、App Storeで販売するためのレギュレーションがあるiPhoneに対し、Androidには「よりやりたいことができる可能性に期待している」という。Android版のリリース時期に関しては「今年中か……ちょっと分からないですね」と詳細を教えてもらうことはできなかったが、それほど先の話ではなさそうだ。
コメント機能を備えるセカイカメラは、「例えば、訪れた場所にエアタグを作れば、いろんな人からコメントが付く」といった“バーチャル伝言板”のようなコミュニケーションを実現する。さまざまなプラットフォームに対応することで、ユーザーの幅も広がり、コミュニケーションも活性化していくだろう。さらにこの先、「セカイカメラ専用のデバイスがあっても、面白い」とも、近藤氏は考えている。
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