スマートフォンによりインターネットはモバイル化する――NTTドコモ 辻村副社長に聞く(後編)新春インタビュー(2/2 ページ)

» 2011年01月02日 09時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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NFCスマートフォンはドコモがリードしたい

―― もう1つ2011年注目のトピックスとして、NFCがあると思います。既報のとおり、GoogleがAndroid 2.3「Gingerbread」でNFCを正式サポートし、リファレンス機の「Nexus S」に搭載しました。世界的に見て、スマートフォンにNFCを搭載する流れができはじめています。

 一方、日本ではこれまでドコモとソニーが中心となってFeliCaを採用した「おサイフケータイ」を推進し、モバイルインターネットと非接触ICの連携では世界に先駆けてきました。このNFCスマートフォンの動きにどのように向き合うのでしょうか。

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辻村氏 日本のモバイルIT業界にとって、NFCは1つの点で今後重要なテーマになっていきます。

 1つはGoogle、そして世界各国のオペレーターもNFCに注目しており、Android端末では正式サポートという流れになっているということ。今年はNFC搭載のスマートフォンが立ち上がってくる年になるでしょう。

 そして、もう1つが、日本のモバイルIT業界は非接触ICの活用という点で、(2004年のおサイフケータイ開始から)6年も先行しており、ノウハウを持っていること。これを海外に展開するチャンスが、世界的なスマートフォンへのNFC搭載の流れの中で出てきているわけです。

―― 日本では交通IC分野での普及からFeliCaベースの「モバイルFeliCa」となりましたが、モバイル端末での非接触IC活用というスキームやビジネスモデル設計の部分は、今後のNFCスマートフォン向けのサービス開発でもノウハウが役立ちそうですね。

辻村氏 そうです。また、おサイフケータイの時には、さまざまな異業種と連携して、モバイルサービスのリアル連携を行いました。マクドナルドの会員証や航空会社の電子チケット、流通小売りから飲食店のポイントやクーポンのサービスまで、幅広い分野でのサービス開発の実績があるわけです。ここでのノウハウや(開発された)要素技術をどうやって海外に持って行くかという視点はとても大切です。

―― 海外展開まで視野に入れると、NFCの中のタイプAとタイプBの活用が中心になる、ということになるのでしょうか。

辻村氏 そうですね、現状で海外で普及しているのはタイプA/タイプBが中心です。しかし、海外のオペレーターと話をしていると、将来的なNFCの普及においては、交通IC分野でFeliCaが活用される可能性はゼロではないと思いますね。ですから、NFCスマートフォンにおいては、タイプAとタイプBの活用のほか、(日本ではすでに普及が進んでいる)モバイルFeliCaとの共存をどうするか、というのも考えていかなければなりません。

―― NFCとモバイルFeliCaの関係で言えば、ドコモも出資しているフェリカネットワークスの位置づけや役割をどうするか、も重要なテーマになります。ここも検討課題に入っている、と。

辻村氏 そのとおりです。そこは(共同出資者であり、FeliCaの開発元である)ソニーとも協議し、FeliCaの世界戦略と今後のNFCへの対応をどうするのか、フェリカネットワークスを今後どのように位置づけていくのかをしっかりと考えていきます。そういった観点でも、今年は重要な1年になるでしょう。

―― ドコモはおサイフケータイを推進するリーダーだったわけですが、世界的なNFCスマートフォンの流れには乗りたい。この分野をリードしていきたい、ということでしょうか。

辻村氏 そこはリードしていきたい。おサイフケータイで蓄積した、6年の経験値をいかします。むろん、モバイルでの非接触ICの活用はドコモ1社では実現できません。実際にリアルでサービスを提供する様々な事業者との関係が重要になっていきますが、パートナーの皆さんと連携しながら、NFCスマートフォン分野をドコモがリードしていきます。この取り組みは今年から始めます。

「オープンイノベーション」のアライアンス戦略

―― 今後のアライアンス戦略はいかがでしょうか。昨年はEvernoteとの提携を筆頭に、インターネット系のサービスを展開する企業とのアライアンスも強化されていましたが。

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辻村氏 まず基本的な姿勢として、我々はテレコム事業者ではありますが、スマートフォン時代においてインターネットの世界に組み込まれている、と考えています。このインターネットの世界に入ったことで、世界中の数多くのデベロッパーとの接点が広がりました。テレコム事業者であった時代には技術は自らの研究所で作るものという発想でしたが、インターネットの1プレーヤーとなった今はそうではありません。広いインターネットの世界で開発された数多くの技術をいかに見つけて取り入れていくかという考え方が、もっとも重要なわけです。いわば、オープンイノベーションです。

―― 自らの開発した技術のみに固執しない、と。イノベーションに対してオープンな姿勢で臨むということでしょうか。

辻村氏 そのとおりです。インターネット時代に適したよいサービスやイノベーションがあれば、(他社よりも)早い段階から取り入れていく。サービス連携や業務提携だけでなく、将来性があり必要があれば、資本を入れて自らのイノベーションに取り入れていく。インターネットの世界でのイノベーションは、シリコンバレーだけでなく、欧州やイスラエル、アジアの国々など世界中で生まれている。ここからいち早く有望なものを見つけて取り入れるスピード感が重要です。

 そして、その上で、世界中から取り入れたイノベーションをドコモの中でサービスとして進化させた後に、再び世界に向けて使っていきます。

―― アライアンス戦略の中でドコモが取り込んだものを、囲い込むのではなく、フィードバックする、と。

辻村氏 そこでドコモは触媒の役割を担うと考えています。新たなインターネットの技術をドコモのサービスとして展開し、モバイルではどう活用できるかを試す。そして、ビジネスモデルが確立されたら、海外のオペレーターに輸出していきます。

 この輸出のやり方として、Tata DOCOMOのようにドコモが出資するオペレーターに展開する方法もありますし、(ドコモが買収したドイツの)net mobileのようにコンテンツプラットフォーマーを通じて展開する方法など、いろいろな形があるでしょう。

 モバイルIT業界がインターネットの中に入ったことで、イノベーションのスピードは確実に早くなります。ここで重要なアライアンスの考え方が、オープンイノベーションなのです。

インターネットのモバイル化が世界的に起きる

―― 2011年。急速に進化するモバイルITとインターネットの世界において、モバイルIT業界はどのような視点を持つべきでしょうか。

辻村氏 今や世界のモバイル人口は50億人。全体の80%が携帯電話を持っていますが、これがスマートフォンに置き換わることで、近い将来は50億人が直接インターネットにつながる時代になります。これは誰もが経験したことがない「未知の世界」です。いわば、地図のない世界ですね。

 この世界中の人々がスマートフォンでインターネットにつながる時代においては、まだまだ新しいことが起きてくるでしょう。さまざまなビジネスも生まれてくる。とてもワクワク感のある時代に入っており、一方で、モバイルIT業界にとってチャンスも大きいと言えるでしょう。

―― iモードの時よりも、今回はさらに大きな成長期になりそうですね。

辻村氏 ええ。量的な面では、今回は世界規模ですし、今回はインターネットそのものという質的な部分での大きな要素も加わりました。インターネットのモバイル化が、世界的に起き始めている。2011年は、それが本格化していく1年になるでしょう。



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