読者の皆さんは、2020年にはどんな携帯電話が登場していると思いますか? 2020年は今から6年後だが、6年前の2008年に、2014年にここまでスマートフォンが普及することが想像できただろうか。そう考えると、2020年も、今の私たちがまったく想像できない新しい携帯電話が発明されているかもしれない。
そんな未来の携帯電話のアイデアを募集する取り組みを、KDDI研究所の付帯組織である「au未来研究所」が進めている。au未来研究所は、KDDIが未来の携帯電話開発に向けた活動をするために、Web上に開設したオープンラボラトリーで、2013年11月から活動している。Web上で登録した一般ユーザーが研究所員になれ、現在の所員数は1万3520人に上る。au未来研究所では、「2020年に発明される、未来ケータイとは?」というテーマで、研究所員から未来の携帯電話についてのアイデアを募集したところ、378のエントリーがあった。
審査の結果、「自分の潜在意識とコミュニケーションができるケータイ」「自販機で買えるケータイ」の2つが研究テーマに選ばれた。KDDIは2月16日に一般ユーザーの研究所員を招いてのKDDI研究所見学ツアーを実施し、「リアル・オープンラボ」と銘打ったトークセッションでは、上記2つのアイデアの実現性や今後の取り組みについて紹介した。紹介したのは、KDDI研究所に勤務し、au未来研究所には兼務という形で参加している、小林亜令氏、新井田統氏、上向俊晃氏の3人。
自分の潜在意識とコミュニケーションができるケータイは、au未来研究所のイマジネーションパートナーであるスティーブンスティーブンが選んだアイデア。ケータイから伸びている2つのひもがセンサーとなっている。このセンサーを額に付けると脳と連携し、人間の潜在意識を端末側が理解して、キャラクターが携帯電話のカメラから投影される。このキャラクターと会話ができるというわけだ。「潜在意識を具現化するのは、現状の技術ではかなりハードルが高いので、すぐに実現することは厳しいが、できることの可能性は大きい」と新井田氏は話す。
au未来研究所の取り組みをベースにしたオリジナルアニメーション「もうひとつの未来を。」を制作したプロダクションIGが、このコンセプトを1枚のイラストで表現。選定者のスティーブンスティーブン社は、以下のとおりコメントしている。
「このアイデアのポイントは、自分の深層心理と会話できることに加えて、自分の本当の姿をビジュアライズする部分でもあります。水絵(右の女性)を見ると、誰にでも愛されそうなかわいいキャラが出現しています。また、そんな自分ともうまく向き合えている表情です。それに比べて、城戸(左の男性)は潜在意識も同じような姿・形をしている。かなり芯が強く、裏表のない城戸そのものが、潜在意識にも投影されているようです。そして潜在意識の方がかなり強い意思を見せており、お説教をしているような表情です」
携帯電話のキャラクターと会話をするサービス……といえば、ドコモの「iコンシェル」などのエージェント型のサービスが実現しているが、新井田氏は、潜在意識と会話することは、エージェント型とは性質が異なると考える。「エージェントは外界と自分とのインタフェースで、外で起こるものを形にしてくれる。今回のアイデアは、自分と自分の間にインタフェースがあって、それを可視化するもの」
一方で、コミュニケーションとは、双方向で意見を交換するもの。潜在意識から情報を得ることはできても、「潜在意識に働きかけることは難しい」と新井田氏。しかしこれが実現するとなると、「何が起こるのか? とドキドキさせられるものがある。2100年くらいに実現されればいい(笑)」
「実現性は十分あると思っている」と小林氏が話すのが、KDDI研究所が選定した、自販機で買えるケータイだ。といっても、単に自動販売機でケータイを買うのではなく、自販機で携帯電話を作ってもらえるのが面白いところ。好みのデザインを自販機のタッチパネルで選んで、内蔵されている3Dプリンターを使って、その場で自分好みの携帯電話が出来上がる。USBやメモリカードを挿入して、あらかじめ作ったデザインを再現することも想定している。
「3Dプリンターで削られている様子が見られるのは、お祭りで綿飴を作るのと似ている。ガチャガチャのような、何が出てくるのかというワクワク感がある」(小林氏)
割賦販売によって、携帯電話は2年に1回買い替えることが通例になっているが、このアイデアが実現すればお手軽に機種変更ができるので、現在のビジネスモデルを変える可能性も秘めている。クラウドからの自動転送で個人データが新しい機種に同期されるのもポイントだ。すでにiPhoneでは実現しているが、データ移行をお手軽にできるかどうかも重要になってくるだろう。
ただし、携帯電話のすべてのパーツを3Dプリンターで作るのは難しいので、「コアなところはパッケージングされた形で埋め込み、ケースだけを作るのが現実的」と上向氏は説明する。
自販機で買えるケータイのコンセプト動画では、イヤフォン、グラス、指輪などのウェアラブル機器を購入して友だちとコミュニケーションをする様子が描かれている。上向氏は、「自販機とウェアラブル」の相性はよいと考える。
「周辺機器にコンピューターが埋め込まれていて、通信機能を肩代わりしてくれると、今のスマホの機能はもっと分散化していくし、携帯自体も安く作れると思う。ただ、24時間身に付けたり、“全部入りウェアラブル携帯”を開発したりすることは、現実味がない。でも自販機で買えて、シチュエーションに応じて取り替えられるようになれば、ウェアラブルの見方も変わってくるのではと思う」(上向氏)
このほか、3人の研究員が気になったアイデアをそれぞれ紹介した。
上向氏が選んだのは「小型ヘリコプター付きケータイ」。小型ヘリコプターがケータイに内蔵されており、自分の周囲100メートルまでの情報をカメラで教えてくれるというもの。上向氏は、最初に見たときに「今すぐ欲しい」と思ったそうだ。「子どもの写真をうまく撮れないのだけど、こういうケータイがあると、上から見下ろした写真を撮ってくれて便利。ただ、人が多いところで使うとヘリコプター同士がぶつかるので、そのあたりの交通整理が課題だと思った」
小林氏が選んだのは、1日だけ使えるという「ステッカーケータイ」。「台紙からシールをはがして、腕など好きなところに貼ると、あっという間に携帯電話の機能を持つ」と説明。ペラペラのステッカーに、ディスプレイや通信など携帯電話の機能が内蔵されているわけだ。「ステッカーがネットの入口になるのが印象的」と小林氏は話す。「例えばアンパンマンのステッカーケータイを貼ると、アンパンマン声でしゃべってくれるとか。1〜3歳はさすがに携帯電話のユーザーではないけど、こういう仕組みが実現すれば、よりユーザーの幅が広がると感じた」
新井田氏が選んだのは「成長するケータイ」だ。夜、専用の台にケータイを置くと、人間が装着している腕輪と連動し、ケータイの形が変化していくという。これは人間が寝るのと同様に、ケータイも寝るという考えを具現化している。「5年前に聞いたら『ちょっとな……」と思うが、最近は3Dプリンターが進化してきているし、家庭に3Dプリンターを導入することもおかしな話ではなくなってきている。だから毎日どんどん形が変わってくるケータイもありうるんじゃないかと思う」(新井田氏)
KDDI 宣伝部 WEBコミュニケーション室 室長 丸田功氏は、「au未来研究所の狙いは、お客様と一緒に未来を創り上げていくこと。これによって、お客様とのエンゲージメントも築けるし、今日のように、新しいアイデアもいただける。もともとはWebだけの世界を考えていたが、お客様と一緒の場でコミュニケーションしていきたいと思った」と、ツアーを開催した背景を説明。「皆さんの考えや思いが分かり、個人的には大成功したと思う。研究員のメンバーもいい刺激を受けたのではないかと思う」と手応えを話していた。
「自販機で買えるケータイは、研究プロジェクトとして本当に始めることになり、実際、今朝9時からそのミーティングをしていた。今はスマートフォンシフト真っ盛りだが、ポストスマートフォンはどうなるのか? オープンな形でお客さんと対話しながら、次の携帯電話を開発したい。自販機で買えるケータイが実現して、2020年の東京オリンピックが盛り上がれば面白い」(小林氏)
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