5月27日に「ワイヤレスジャパン2016」で「携帯電話販売代理店向けビジネスセミナー」が開催された。
高額キャッシュバックや「実質0円」の禁止などで、2016年は携帯電話ショップにとって厳しい年になると予想されている。セミナーの登壇者は、それぞれの立場から今後の携帯電話販売のあり方を語った。
最初に登壇したのは、総務省 総合通信基盤局 消費者行政課 電気通信利用者情報政策室長の吉田恭子氏。吉田氏は、5月21日から施行された改正電気通信事業法について説明し、ショップに対する総務省の期待と注視している部分について語った。
事業法を改正するに至った背景には、「苦情、相談が非常に多い現実」(吉田氏)がある。総務省の相談センターに寄せられる電気通信関係の苦情は、2012年度から2014年度までは7000件程度で横ばいだった。それが、2015年度には1万件を超えた。吉田氏によると、国民生活センターに寄せられる同種の苦情も増加傾向にあり、2015年度は前年度比で1万件以上増えて8万件近くとなる見通しであるという。総務省としては、このような苦情の件数を削減したい意向を持っていたのだ。
また、吉田氏は改正法に関連するガイドラインの内容も紹介し、総務省として特に注視するポイントを具体例を出して説明した。その1つが高齢者への対応だ。吉田氏は、高齢者相手の接客についての苦情が特に多かったと指摘。サービス内容をよく理解していない相手に対する抱き合わせ販売などは不適切だとし、「適合性原則」にのっとった対応をしてほしいとショップに要望した。
また、契約したオプションサービスも書面に記載することを義務付けた「書面交付義務」や、一定条件のもと通信事業者の合意なく契約解除できる「初期契約解除制度」(クーリング・オフに近い制度)などについても説明し、順守への理解を求めた。
一方で吉田氏は、携帯電話の契約にかかる時間が長くなり、ショップとユーザー双方の負担になっていることにも理解を示す。その上で、ガイドラインでは説明が不要な人には本人の承諾があれば説明を簡素することも可能としたことも紹介した。
改正法の施行後の総務省としての取り組みについて、吉田氏は「現場で知恵や実績を積み重ねてほしい。我々も状況を共有し、定期的に調査を行い、次のガイドラインや法律改訂に生かしていきたい」と語った。
続いて、携帯電話販売代理店の業界団体「全国携帯電話代理店協会(全携協、NAMD)」の副会長で、代理店としてキャリアショップなどを運営するベルパークの西川猛社長が、全携協の取り組みについて紹介した。
全携協は2014年12月に設立された。2016年3月現在で、83%を超えるキャリアショップが正会員として加入している。新規会員の拡大や会員に対する情報提供の充実などを図っているという。今回の講演で西川氏は、クレーム縮減に取り組む「携帯電話店頭販売サービス向上委員会」(以下「サービス向上委員会」)と退職率の縮減を目指す「定着率向上委員会」について説明した。
キャリアショップは現在、約8500店舗あるという。サービス向上委員会では、このうちの2600店舗でユーザーから寄せられる苦情(クレーム)の報告を受けている。毎月約3500件寄せられる苦情は、同委員会のメンバーが集まる「苦情分析会議」で分析し、キャリアに対して改善提案を行う。これまでに合計500件の提案を提出し、そのうち267件でキャリアからの回答を得られたという。
電気通信事業法の改正についても、販売現場の視点から、動画の活用や料金プランを分かりやすく説明する方法をキャリアに提案した。高齢者専用のチラシを作って、ミスリードしないような取り組みも行っている。
携帯電話の販売代理店は、サービス産業の他業種と比べ「賃金水準は低くないが、同じように離職率の高さに悩んでいる」(西川氏)。キャリアショップのスタッフは全国で約10万人いるが、そのうちの70%が女性である「女性が活躍する現場」(同)だが、辞めていく人も多いのだ。
定着率向上委員会では、店長インタビューを実施して現状把握に努めている。その中で、キャリアを超えた共通の課題も分かってきた。
就職から1年以内で辞める理由の多くは「人間関係」で、各ショップから対応の成功事例を持ち寄って対策している。また、同委員会ではキャリア別にチームを作り、キャリアと一体となって退職率の低減やスタッフの満足度向上に取り組んでいる。
西川氏は「新人が多いショップほどクレームが多い。定着率を上げることが、こなれたサービスにつながり、クレームが下がるという相関関係がある」と説明し、これを意識しながら対策に取り組んでいきたいと語った。
また西川氏は、キャリア平均の退職率を下回っていると胸を張る自社の人材戦略についても紹介。同社の計算では、社員1人が「戦力」となるまでにかかるコストは約170万円であるという。採用・育成コストを大幅削減につながる、退職率の低減の重要性を示した。
ショップ人員の不足は、スタップの負担やストレスを増加させる。西川氏は「退職が退職を呼ぶ負の連鎖につながる」とし、人員の確保と人を大事にする施策が必要だと語った。その上で「店舗だけの閉ざされた空間の人間関係から開放することが大切」であるとし、取り組みの具体例として、海外への社員旅行、大型連休取得制度、社内イベントの実施、福利厚生の充実などを紹介した。
また、西川氏は現場の要望から導入した事例も紹介。人事評価にはITを活用し、評価者研修も実施。店長ではなく、接客のプロを目指すクルーを評価する制度や、女性育成プロジェクトなども導入している。さらに「(食事も取れないほど忙しい)iPhone商戦期前に辞めたい」という声に対し、繁忙期には店長が毎朝、おにぎりやサンドイッチ、果物、お菓子の詰め合わせなどを差し入れしていることも紹介した。
しかし、こうした取り組みを行っても「まだまだ高い離職率で道半ば」(西川氏)と語り、スタッフ確保の難しさをにじませた。
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