「ワイヤレスジャパン2016」で行われた「MVNOフォーラム」で、レンジャーシステムズの常務取締役の玉井康裕氏が「生き残るMVNOとは、これから求められるサービスとは」と題する講演を行った。
同社は、レイヤー2(L2)接続型MVNO事業の企画立案から、設計、運用保守まで行っている企業で、100社以上のMVNO参入に関わってきた。玉井氏は、MVNOを支援する中で認識した問題点や解決策を紹介しつつ、MVNOを取り巻く現状と、今後MVNOとして生き残るために求められるサービスについて語った。
2015年にLTEが人口カバー率100%を達成し、2020年には5Gで10Gbpsもの超高速通信の実現を予定するなど、モバイル通信環境は今後劇的に変化する。一方、MVNO業界では、ソネットの「0 SIM」や月額480円で1GB通信できるような「超格安SIM」による価格破壊、広告と連動した訪日観光客向けの通信サービス、加入者管理装置・データベース(HLR/HSS)の開放(参考記事)といった動きがあると玉井氏は分析する。
HLR/HSSの開放について、同氏は「そんなに簡単なものではない」という認識を持つ。「自社SIMにしても、何百万、何千万枚を発行するから単価が安いのであって、10万枚から50万枚程度で自社SIMをやろうとすると、コストが高くなって割に合わない」。HLR/HSSに関連する話題は、コストの話に帰結する傾向が強いと述べた。
また、同氏はMVNOの事業構造を改めて解説した。ベースに大手キャリア(MNO)があり、その回線を使うのがMVNOだ。その中で、L2接続型の事業者は日本で20社弱とされる。その上に、MVNE(MVNOの事業の一部または全部を代行する事業者)からSIMを買って再販するSIM再販型MVNOが、200〜250社程度あるといわれている。
このようなMVNO業界を、玉井氏は百貨店に例える。土地を持っているのがMNO、この土地に立っている百貨店がL2接続事業者、そしてSIM再販事業者は百貨店のテナントだ。「テナントは壁紙を張り替えるにもイベントをするにも、百貨店の許可がいる。売上がよくないテナントは隅っこに追いやられて冷遇される」(玉井氏)のだ。
厳しい事業環境にあるMVNO業界で生き残っていくためには、「自由なプラン設計が自ら行えるようなシステムを持っていること」と「通信料以外でも収益を賄える新しいビジネスモデル」が必要だと玉井氏は力説する。その上で、「販売ルート」「顧客基盤」「コンテンツ」の3つのうちのどれかを持っていることが成功の条件になると断言した。
MVNO事業に参入するには、先述の通り「SIM再販型」と「L2接続型」の2つの方式がある。SIM再販型は初期費用が非常に安いのがメリットだが、自由なサービス設計ができず、「SIMを卸してもらったMVNEのサービスを超えることができない」ことが一番の悩みどころだ。価格勝負でも弱い。
一方、L2接続型は独自のサービスを提供できるが、初期費用が非常に高い。MNOに対する預託金が3〜5億円で、課金システムなど諸々の費用を含めると、7億円前後の初期費用がかかる。また、企画から実際にサービスをスタートするまでに1年ほどかかるという。そのため、日本ではL2接続型のMVNOは現在のところ20社弱しかなく、残りの多くがSIM再販型のMVNOだ。
そこで、レンジャーシステムズは、両者のメリットを兼ね備えたL2接続型MVNOプラットフォーム「わくわくモビリティ」を開発した。このプラットフォームを利用すると、初期コストが10分の1以下に抑えられ、サービスインまでのリードタイムが3〜4カ月に短縮し、サービスやプランを自由に設計できると玉井氏は胸を張る。
「キャリアとの接続は全部我々が行う。我々が高額なパケット交換機を用意し、各社がそれぞれのサービスをそれぞれのユーザーに提供できるようなプラットフォームを提供する」(玉井氏)。
わくわくモビリティを利用することで、可能になることは6つだ。まず、通信量や通信帯域など、さまざまな要素を組み合わせた多彩なサービスが実現できる。次に、MVNEのようにSIMの再販が可能になる。さらに広告配信サービスによって新たな収益モデルが実現でき、特定のアプリで通信料がかからないような仕組みにすることも可能となる。訪日外国人向けのプリペイドSIMの発行やM2Mサービスなど、現状でL2接続事業者ができることだけでなく、現行のL2事業者がやっていないサービスまでも実現できるようになると玉井氏はアピールする。
そして、具体的な活用例として、特定のアプリ・サイトに対して通信料が加算されない仕組みを紹介した。
あるゲームの通信料を非課金にすると、ユーザーはそのゲームをよりたくさんプレイする。その対価(通信料)は、ゲーム会社が広告費用として支払う――という収益モデルを構築できるのだ。「今年度(2016年度)中にも、こういう(特定アプリ・サイトの通信料を無料にする)サービスが出てくる」と玉井氏は明言する。
また、来店ポイントや会員ポイントを通信クーポンに交換したり、CM動画を見ると通信クーポンを提供するような、通信サービスとコンテンツと連携させたサービスがMVNOには必要だと玉井氏は指摘する。
さらに、訪日外国人向けのプリペイドSIMカードで、利用する際に強制的にアプリをダウンロードさせ、GPSと連動した地域の観光情報と一緒に広告も配信する広告収益モデルも紹介した。単に通信のツールとしてSIMを配るのではなく、SIMとコンテンツを組み合わせて地域の観光情報と広告を表示する。こういう仕組みが現在、模索されているという。
「MVNO事業者は通信サービスではなくて、メディア」と玉井氏は述べ、広告による収益確保を推奨した。前述したゲーム会社の広告モデルを再び取り上げ、「ゲーム1アプリをダウンロードすると、ゲーム会社から700円入ってくる。通信料より、よっぽど広告の方がもうかるのではないか」と語った。
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