テレコムサービス協会MVNO委員会が、2018年3月23日に「モバイルフォーラム2018」を開催した。毎年3月に開催しているイベントで、MVNOが成長するための方策を中心に、各社のキーパーソンが登壇して議論している。
今回は企(くわだて) 代表取締役のクロサカタツヤ氏や、MVNO 5社の担当者が登壇し、「MVNOの成長に必要なこと」「MVNOが目指す差別化」「2020年代のMVNOを考える」といったテーマで講演とパネルディスカッションを行った。
クロサカ氏が議題に挙げたのが「MVNOは飽和しているのか」という点。MVNOサービスはここ数年、右肩上がりで成長しており、「格安SIM」と呼ばれるSIMカード型のサービスは、2017年12月時点で1086万契約を数える。これは前期比7.3%増、前年同期比34.5%増となる。通信サービスに占めるシェアは、MVNO全体が10%、SIMカード型が7%を超えている。
クロサカ氏はこの伸びが「激しい成長」であり、「成長しすぎで(会社に例えると)ブラック化していると思うほど。市場のポテンシャルを考えると、もっと伸びる。これで飽和していると言ったら怒られるレベル」と評価する。
一方で、モバイル業界の中で「MVNOは飽和している」空気があるともクロサカ氏は感じている。その理由の1つに、「FREETEL」を運営していたプラスワン・マーケティングの経営が破綻したことを挙げる。「このニュースをきっかけに、MVNOが曲がり角に来ているという空気が形成された」と同氏。さらに、MVNOである楽天が携帯キャリアに名乗りを上げ、LINEモバイルがソフトバンク傘下になるなど、「結局キャリアがモバイル業界を牛耳るのか」という漠然とした空気が漂い始めている。
MVNO事業はお金がかかり、体力がないと続かないことが浮き彫りになったので、飽和しているように感じる、とクロサカ氏。また「Y!mobile」や「UQ mobile」をはじめとするサブブランドの構成が強くなり、そのあおりを受けて苦戦しているMVNOもある。ただ、これらはMVNOの事業構造、サービス設計の問題であり、必ずしも「市場の問題」ではない、とクロサカ氏はみる。
MVNOが生き残るためには、よく「差別化を図るべき」という意見が見られるが、クロサカ氏は「安易な差別化に走らない方がいい」と言う。差別化が有効になるためには、市場が成熟している必要がある。成熟とは、これ以上の大きな成長が見込めず、シェアが硬直している状態を指す。MVNOの認知がキャリア並みには進んでおらず、いまだに右肩上がりで伸びているMVNOは、発展途上だといえる。
日本の通信業界は、キャリアが幅をきかせているため、MVNOが発展途上であってもキャリアが競争相手になる。そのキャリアとサービス内容がかぶっているMVNOは当然苦労する。クロサカ氏は、MVNOと競合関係の強い事業者として、サブブランドやシェア上位の大手MVNOを挙げる。一方で、「キャリアの消費者のアプローチはうまくいっていない」(クロサカ氏)こともある。例えばキャリアショップの待ち時間が1〜2時間を超えることはざらにあり、こうしたキャリアの不便さを逆手に取ったサービスなら差別化につながる。
また、IoTイネーブラーや異分野と連携した事業者などは、そもそもキャリアとすみ分けができているため、無理やり差別化戦略をとる必要はない、とクロサカ氏は考える。
では、当のMVNOは、現在のMVNO市場をどう捉えているのか。クロサカ氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションに参加したメンバーは、皆口をそろえて「MVNO市場はまだまだ伸びている」と答える。では、どのように市場を発展させていこうと考えているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.