インターネットイニシアティブ(IIJ)が3月15日、フルMVNOとしての新サービスを発表。同日に「IIJモバイルサービス/タイプI」を、4月2日に訪日外国人向けのプリペイドSIM「Japan Travel SIM」を提供する。
フルMVNOは、移動体通信事業者を識別する「MNC」と「IMSI」を保有する移動体通信事業者のこと。MNO(キャリア)コアネットワーク設備の一部である加入者管理機能(HLR/HSS)を自社で運用することで、独自のSIMカードを発行できる。かいつまんで言うと、基地局以外の設備をMVNO側で持つ事業者のこと。
IIJはNTTドコモのHLR/HSS解放について2014年から協議を重ねており、2016年8月に承認を得た。IIJは、ドコモの3G・LTEネットワークを利用する国内初のフルMVNOとなる。
IIJモバイルサービス/タイプIは法人向けの通信サービスで、人やモノが利用するデータ通信のどちらも想定している。ユーザーが任意でSIMの開通(アクティブ)と中断(サスペンド)ができる「SIMライフサイクル管理」機能を使えるのが特徴。開通前や中断中ならSIMの月額料金が発生しないので、事業者は回線の維持費を低減できる。
例えば企業でモバイルWi-Fiルーターを使う場合、ルーターの生産時にSIMを組み込み、サスペンドした状態で出荷。その後、社員が使用開始する際に初めて開通させ、退職した時点で中断をする、という流れだ。これなら社員がルーターを使うときだけ維持費が発生する。
IoTの分野では、水田の水位を管理する機器にSIMを入れて管理をする場合、4〜5月の田植え時期のみ開通させ、水管理が不要な10月の稲刈り前は中断に切り替える……という具合だ。
料金は10GBで3200円(税別、以下同)〜50GBで1万500円の「定額プラン」と、50GBを複数回線でシェアする「パケットパック」を選べる。いずれのプランも、契約した容量を超えると256kbpsに速度が制限される。定額プランのオプションとして、上り通信が月額2700円で使い放題になる「上り優先オプション」を提供する。SIMの基本費用として、開通時に月額200円、中断時に月額30円が発生する。
IIJによると、10GB未満の低容量〜中容量のプランも用意しているそうで、用途に応じて柔軟に対応していく。
Japan Travel SIMは、30日間で1.5GBと3GBを使える2種類を用意。価格はオープンだが、ビックカメラで販売する製品は1.5GBが1850円、3GBが2800円。Japan Travel SIMは、既にIIJがライトMVNO(HLR/HSSを持たない既存のMVNO)として提供している現行タイプもあり、こちらは30日で1GB、3カ月で2GBを使える。現Japan Travel SIMも当面は併売される。
では、フルMVNOとライトMVNOで提供しているJapan Travel SIMは何が違うのか。フルMVNOといっても、キャリアから帯域を購入してネットワークを増強する流れは同じ。加えて、ライトMVNOと同じ帯域を利用するため、通信品質に差は出ない。プラン以外で目に見えるところの違いは、ピクトエリアに従来の「docomo」ではなく「IIJ」と表示されること。
また、Japan Travel SIMは日本人でも利用できるが、従来は解除が不要なドコモ端末でもSIMロックを解除する必要がある。
むしろメリットがあるのは、Japan Travel SIMを販売する店舗(企業)側だ。従来のライトMVNOの場合、既にキャリア(ドコモ)が発行したSIMカードをパッケージとして販売しているため、店頭に置くだけで回線の維持費が発生する。IIJ MVNO事業部長の矢吹重雄氏によると、「例えばコンビニストア1万店舗にライトMVNOのSIMを10万置くと、在庫コストで月間1000万〜1500万円かかる」という。
しかしフルMVNOなら、好きなタイミングで開通させられるので、ユーザーがJapan Travel SIMを購入して端末にSIMをセットしたタイミングで開通をすればよい。これによってSIMの在庫コストを低減できる。
フルMVNOならではのメリットは、先にも伝えた通り、事業者が自由に開通や中断ができ、維持費や在庫コストを抑えられることが筆頭だ。もう1つ例を出すと、コピー機のメンテナンスをする時だけ開通させ、平常時はコストの掛からない形で通信機器を設置し、メンテナンス時だけ開通させて外から遠隔でメンテナンスをする、といったことが可能になる。
SIMカードを自由に製造できるため、厳しい環境でも動作する頑丈な「チップSIM」を作って、例えば寒冷地の自動販売機に埋め込むこともできる。このチップSIMは、耐振動性や耐衝撃性をサポートしており、−40度〜+105度の環境下でも動作する。チップSIMは2018年度上期に提供する予定。遠隔からSIMカードの情報を書き換えられる「eSIM」も2018年度以降に提供する予定。
従来のMVNOが提供するSIMカードや台紙は、ドコモ回線だとドコモSIMと同一だが、フルMVNOなら独自デザインのSIMカードや台紙も作れる。これを企業やブランドの販促物として利用することも想定される。ピクト表示が「IIJ」になるのは先述の通りだが、ここを他のピクト表示に変更できる(例えば「ITmedia」など)のも、フルMVNOならではだ。
海外の閉域ネットワークに接続できるのも、フルMVNOの特徴だ。「ドコモ回線を使ったライトMVNOだと、海外での通信はWORLD WINGの料金体系に縛られている。閉域網は技術的な難易度が高く、コストも高い。フルMVNOの国際ローミングなら、IIJモバイルのネットワークを組み合わせることで、大規模な閉域サービスを提供できる」(矢吹氏)
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