ソフトバンクが「5G×IoT Studio」のお台場ラボをオープン 何ができる?

» 2018年05月13日 06時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

 ソフトバンクは、5GやIoTを活用した各種サービスの導入を検討する企業向けに、5Gの実験機器で技術検証ができるトライアル環境を提供する「5G×IoT Studio」のお台場ラボを、東京都江東区のテレコムセンタービル内に5月18日にオープン。それに先立って、5月11日に報道関係者にお台場ラボ内部を公開した。

5G×IoT Studio

 ソフトバンク 代表取締役 副社長執行役員 兼 COO 今井康之氏によると、2020年の5G商用サービス開始を控え、「既に企業や行政から、5Gの利用を検討したいという依頼が数多くきている」という。「ARMやソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資しているNVIDIAなどグループのシナジー、「群戦略」を生かした技術をもって、いろいろな企業の役に立ちたい」と語った。

5G×IoT Studio 代表取締役 副社長執行役員 兼 COO 今井康之氏

 また、テクノロジーユニット 技術戦略統括 先端技術開発本部 本部長の湧川隆次氏が、5G×IoT Studioのコンセプトや目的、技術的な取り組みを説明した。

5G×IoT Studio テクノロジーユニット 技術戦略統括 先端技術開発本部 本部長 湧川隆次氏

 5G×IoT Studioでは、5Gの新無線「New Radio」や先端コア技術を提供する。具体的には、5G端末、基地局、コアネットワーク、MEC(モバイルエッジコンピューティング)サーバという構成だ。ARMやNVIDIA、Intelという異なるアーキテクチャのサーバを用意している。

5G×IoT Studio 4.7GHz帯の周波数を使って5Gの電波を吹くシールドルームを用意している。手前がMassive- MIMOアンテナで奥が5G端末。壁に貼っているのが受信アンテナ
5G×IoT Studio 高負荷処理を行うMECサーバはARM、NVIDIA、Intelを使ったものを用意

 5G×IoT Studioは赤坂、品川などにもあるが、お台場ラボには5Gを理解してもらうデモや、ラボの利用者が自分たちのデバイスを5Gに接続して動作確認できる検証ルームを用意している。5Gの商用サービスが本格的に始まるのは2年後の2020年だが、「今から(5G×IoT Studioを)始めることによって、5Gのスタートと同時にいろいろなビジネスを始められるように、いろいろな企業と共創していきたい」(湧川氏)という狙いもある。

5G×IoT Studio 「5G×IoT Studio」お台場ラボには3つの狙いがある
5G×IoT Studio デモンストレーションエリアで、5Gを用いた各種デモンストレーションを見学できる

 デモンストレーションエリアでは、実際に5G回線を使って、機器を動かすデモを体験できる。5Gの超高速、大容量の特徴を表現する、5Gを用いた360度カメラの映像伝送のデモでは、4つのカメラの映像のデータを、5Gの電波を吹いているシールドルームに有線で送り、5Gネットワークを介して高性能グラフィックPCに転送。そこで4つの映像をスティッチングで合成するが、処理能力の高いNVIDIAのGPUを2枚搭載したPCが使われていた。

5G×IoT Studio 4つのカメラで撮影した画像のデータサイズは合わせて約200Mbpsとなり、5Gを経由してPCに入ってくる
5G×IoT Studio HMDの映像はほぼリアルタイムで、5Gの低遅延を体感できた。スポーツ中継やコンサートの配信などに活用することを想定している

 5Gでは通信速度が速くなり、扱えるデータ容量が大きくなる。この大容量のデータを、インターネットを介したサーバに送ると、遅延が大きくなる。だからといって、デバイス側で処理するには限界がある。そこで注目されているのが、基地局側にサーバを設置して遅延を抑えるモバイルエッジコンピューティングだ。お台場ラボにもモバイルエッジコンピューティングの環境が用意された。

5G×IoT Studio モバイルエッジコンピューティングの環境も用意

 モバイルエッジコンピューティングの環境を使って、リアルタイム動線追跡のデモも行っている。デモンストレーションエリアに設置されているカメラから、そこにいる人物の画像を取得し、5Gを介して5GコアとMECサーバに映像データが送られる。その映像をリアルタイムに処理して人が立っている場所を解析し、座標を部屋のレイアウトにドットで投影。人が動くと、ほぼリアルタイムでドットが動く様子を確認できる。

5G×IoT Studio リアルタイム動線追跡のデモの構成
5G×IoT Studio 4つのカメラが認識した人が、色分けされたドットで示されていて、人の動きに合わせてリアルタイムに動く。店舗で人が混雑している場所を確認したり、工場の作業員の動きを追跡したり、データを効率化に活用するなどのユースケースが考えられている

 また、NVIDIAのGPUを積んでいるMECサーバに接続されたSurfaceと、GPUを積んでいないバーチャルマシンに接続されたSurfaceとの動作スピードの比較も行われている。

 NVIDIAのGPUを積んでいるサーバに接続されているSurfaceの方が、レンダリングの処理スピードが大幅に速く、タッチパネルを動かしてもスムーズに動く。将来的に、無線環境でCADを動かす場合などでも、普通のタブレットでサーバにアクセスして使うといったユースケースを想定している。個人で持つことが難しい高性能なGPUマシンを、キャリアで時間貸しのように提供するような活用も検討しているという。

5G×IoT Studio 高性能なエッジサーバに接続されたSurfaceでは、重いデータもスムーズに動く

 フルHDの動画を撮影し、エンコーダーで圧縮。5Gを介してデコーダーに通し、解凍したものをサーバでAI処理して有名画家のタッチにリアルタイム変換するデモも実施。動画のリアルタイム処理は高速通信だけでは実現できず、サーバのリアルタイム処理能力が重要になる。AIの研究開発などで使われることを想定しているという。

5G×IoT Studio 動画のリアルタイム変換のデモ

 5Gの世界を視野に入れたソフトバンクのIoTソリューション事例を紹介するコーナーもある。3つのアプリケーションが紹介され、各種センサーも展示されている。ソフトバンク IoTプラットフォームでは、各種ネットワークに対応したデバイスからデータを吸い上げ、セキュリティを確保した上でデータを蓄積、解析して管理する。各業態をAPIで接続し、さまざまな利活用を進める。

5G×IoT Studio ソフトバンク IoTプラットフォームの紹介

 ソフトバンク本社が入居している東京汐留ビルで、IoTプラットフォームを活用している例も紹介している。オフィスに各種センサーを設置し、会議室の利用状況やオフィスの快適度などを、リアルタイムでチェック。どの座席がよく使われているかを分析して、座席のレイアウトを考えることにも活用できる。

5G×IoT Studio ソフトバンク本社のオフィスで実施した、空席や空室の見える化
5G×IoT Studio ソフトバンクが用意しているセンサーの一部。在室検出センサー、環境センサー、人感センサー、温湿度センサー、CO2センサー、トラッカーなどの各種デバイスを展示
5G×IoT Studio 商談ルーム
5G×IoT Studio 検証ルーム。奥にあるのが5Gの機器につながる装置。利用者が持ってきたデバイスをつないで5Gでの動作検証ができる。この6人用が3部屋、大きな部屋10人程度入れる部屋が1部屋、合計4部屋用意されている

 「5G×IoT Studio」は、基本的にB2Bでの利用を想定している。企業側が5Gで試験をしたい際に予約して利用することになり、ソフトバンクの営業に窓口を設けているという。試験の際には秘密保持契約書にサインが必要だが、それ以外の契約や料金は基本的に発生しない。郊外や屋外での試験、技術サポートが入る場合は、その都度相談する。なお、コンシューマー向けのサービスとして具現化できるような事例が出てきた場合は、コンシューマー対応も検討するとのことだ。

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