2018年秋、中国・深センでのこと。同僚の記者がコード決済サービス「WeChat Pay」を駅の売店で使おうとして、失敗した。ローミング端末がうまく通信できず、決済を完了できなかったのだ。
結局、彼は持ち合わせていた現金で支払った。WeChat Payにチャージされた中国元は、しばらく中ぶらりんになった。当たり前のようだが、「通信環境がなければコード決済はできない」と実感した出来事だった。
12月6日、ソフトバンクが4時間以上にわたり、大規模な通信障害を起こした。ソフトバンク回線をドライバーの専用端末に導入していた佐川急便は再配達依頼ができなくなったり、同日に開催予定のライブイベントでソフトバンクユーザーの電子チケットの確認ができず、入場に混乱が起きたりと、大手キャリアの1つが起こした通信障害の影響は広範囲に及んだ。
また、ソフトバンク・ワイモバイル回線ユーザーのポイント還元機会が優遇される、コード決済「PayPay」のキャンペーンが4日に始まったばかりであり、ポイント還元的に一番優遇されるはずのユーザーがPayPayを利用しづらいという皮肉な状況にもなっていた。
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今回ほど大規模な通信障害はそうそう頻繁に起きるものではないが、都心で生活していても、キャリアによって電波がつながりにくい場所や店はある。
それがそんなに悪いことだとは思わない。もちろんサービスエリアがより広がって、よりつながりやすくなってくれることに越したことはないが、「そういうもの」だと思って記者はこれまでモバイル通信と接してきた。
建物の影響などで圏外になっているのなら、自分が動いて圏内に復帰してから通信したらいい。新幹線の長いトンネルで通信できないなら、ネットサーフィンではなく本を読めばいい。
しかし、レジまで来ているのに、通信できずに決済できないという状況はなかなかに厳しいシチュエーションだ。
クレジットカードや現金など他の支払い手段があればそれを用いればいいが、モバイル決済を信用して他の手段の持ち合わせがない場合はそうもいかない。あるいは、PayPayのポイント還元キャンペーンのように優遇施策に誘発されてモバイル決済を使いたい場合、他の手段で払っては意味がない。
通信環境さえあればおサイフケータイ対応スマホでなくても利用でき、個人間でも送金し合えるのがコード決済の強みだが、逆に通信環境がなければ無力になってしまう、ということを今回の通信障害で体感した人も多かったのではないだろうか。
回避策はある。簡単なのは、その場から接続できるフリーWi-Fiスポットを探すこと。コンビニや大型家電量販店では導入が進んでいるので、万が一モバイル回線がうまく通信できなくても、店舗のフリーWi-Fiに接続すればコード決済程度の通信は問題なくできるだろう。
ただし、フリーWi-Fiにはなりすましや傍受によるセキュリティリスクもあるため、安全を優先したいなら決済情報を通すべきではないかもしれない(モバイル決済の通信が暗号化されていないとは思えないが)。
導入・運用にコストは掛かるが、安全かつ有効なのが、複数キャリアの回線を持つことだ。
最近はDSDS(デュアルSIM、デュアルスタンバイ)やDSDV(デュアルSIM、デュアルVoLTE)に対応し、1台で2キャリアの通信を扱えるスマホも増えてきた。9月発売の「iPhone XS/XS Max/XR」も、物理的なSIMこそ1枚しか刺さらないものの、eSIMによるDSDSに対応している。
記者の場合は仕事柄もあるのだが、ドコモ回線、ワイモバイル回線、UQ mobile回線の3回線を3台のスマホに入れて常時持ち歩いている。ソフトバンク、KDDIのサブブランドである2回線はキャリア本体の通信料金に比べて安い割に品質はそこそこ良く、ドコモ回線ともエリアを補完し合える関係なので、通信環境のバックアップとしては相性が良い。通信のつながりやすさという意味では、厳密には端末側の対応バンドなども考慮しないといけないのだが、ここでは深く言及しない。
2キャリアの通信に対応し、冗長化することで安全性を上げるのは、金融機関のATM向けサービスとして日本通信が提供している事例もある。こうした事例を見ても、確実にコード決済するには複数キャリア回線を持つのが有効だと分かる。
このように、コード決済の通信を冗長化する手段はあるものの、いずれにしてもある程度のリテラシーが必要とされるのも確かだ。
店頭決済に限っていえば、「Suica」や「楽天Edy」などの非接触決済の方が、ユーザーの通信環境に依存せず、決済も一瞬で終わるため、コード決済に比べ利便性は高いと記者は感じている。
破格のポイント還元キャンペーンも、いつまでもは続くまい。キャンペーン以外のメリットや、安全・堅固な使い方を周知していかないと、日本のユーザーは根付かないのではないだろうか。
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