2019年以降、日本のキャッシュレス市場はどう変わるのか。またどうあるべきなのか。前回は2019年(とそれ以降)のキャッシュレス市場の展望を述べたが、今回は海外のキャッシュレス導入事例を挙げつつ、日本にキャッシュレスに必要なもののヒントを探りたい。
そもそも、なぜ「キャッシュレス」が必要なのか。これまでのキャッシュレス議論では「現金の輸送や管理にかかるコストを削減」「レジ締め業務の簡略化」「お金の流れを明確にする」という形で、ほとんどの場合、政府や企業(小売店)側の視点ばかりが語られており、ユーザー側の話題に触れられることが少なかったように思う。
ユーザーが現金を利用しないメリットは明白で、煩わしい小銭の管理や紙幣の保管、「ATMへ行く」という行為から解放されることにある。実際、生活圏でクレジットカードと電子マネーだけで生活できるなら、筆者のように財布の中の現金が500円未満でも問題ないわけで、それでいて会計はおサイフケータイやApple Payを使って一瞬で支払いが完了し、ちょっと高い買い物ならばクレジットカードを出すだけでいい。
キャッシュレス決済は安全性も高い。クレジットカードのスキミングやPayPayでの不正利用の話を聞いて「どこが安全なんだ?」という方もいるかもしれないが、現金は盗まれた時点で終わりで、基本的に取り返す手段がない。火災や洪水といった災害で失われる可能性もある。そもそも100万円とか数十万円といった現金を持ち歩くことが現実的ではない。カードは盗難や紛失時点でカード会社に連絡すれば止められるし、不正利用に関しては後でチェックして指摘することもできる。
スマートフォンは遠隔で個人情報を消すことができるし、Apple Payのように決済に際して生体認証やPINコードを要求する仕組みであれば、不正にカードを使われる可能性は低くなる。クレジットカードの認証技術も進化しており、例えば3Dセキュアでは個人認証を行うことでオンラインでの不正利用を防止する。ICチップの入ったクレジットカードでは決済にPINコードが必要になるが、NFCに対応したカードでは一定の少額決済ではPINコードは不要だ。最近は指紋認証センサーを内蔵したカードも登場している。
北欧がキャッシュレス先進国と呼ばれ、実際に現金決済比率が低い理由は、国や金融機関の方針もあるが、一番の理由は「あえて現金を使う必要がない」からだ。
もともと北欧を含む欧州ではデビットカード決済が発達しており、実際にカード決済できない店舗は限られている。街の露店でさえ「iZettle」というスマートフォン向け決済サービスを使ったカード決済を受け入れている。
それでもカード決済では対応できない場合、例えばレストランでの割り勘やお金の貸し借りなど個人間での送金については、スウェーデンの「Swish」、デンマークの「MobilePay」、ノルウェーの「Vipps」のようなサービスが存在し、キャッシュレス化の最後の隙間を埋めている。
Swishは現地の銀行口座を持つ人が利用できる送金・決済サービスで、相手の電話番号さえ知っていれば送金が可能だ。またキャッシュレス化の恩恵により資金の流れが明確化されているため、確定申告のような仕組みは自動化されている。キャッシュレスは不正蓄財や裏金防止に役立つといわれるが、ごく一般的な市民であれば面倒な税金処理を回避できて透明化されるため、むしろメリットの方が多いと筆者は考える。
2000年代にオンラインでの通販が爆発的に拡大した中国では、多くの人々がAlibabaなどのサービスを利用し、決済用アカウントを持っていた。オンラインで入手できないものはないというほど中国のオンライン通販は充実しており、Alipayの利便性が非常に高い。WeChatも中国で広く利用されている国民的チャットサービスであり、店舗決済対応以前より個人間送金として使われている。
日本との大きな違いは、これら決済の商圏が非常に広く、“キャッシュアウト”のような仕組みで出金せず、アカウント内に残高を抱えたままでも日常生活で不自由しないことだと考える。中国ではオンライン利用全盛期にスマートフォン普及期が重なったことも大きい。
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